そして中国は東シナ海と南シナ海でもその軍事力と即応力を高め、それを誇示することで、アメリカの太平洋地域における軍事的プレゼンスとの対抗軸を一層鮮明にしようとしています。その典型例がCOVID-19の混乱の隙に、人民軍と海警局の連携強化(もしくは融合)を推し進め、今や総計260から270万人規模の体制を築き、その海軍力を東シナ海と南シナ海に広げています。
南シナ海では南沙諸島と西沙諸島に行政区を作り、島々を軍事拠点化して、防空・海防力を一気に高めています。これはフィリピンやベトナム、インドネシアの反感を買っていますが、残念ながら米軍のプレゼンスが弱まっている間に中国の実効支配が進んでしまいました。
すでに米国は3空母打撃群(セオドア・ルーズベルト、ロナルド・レーガン、ニミッツ)を太平洋に集結させて有事に備えていると言われますが、その圧倒的な攻撃力とプレゼンスをもってしても、“留守中に強化された”中国の実効支配を覆すことは容易ではないでしょう。COVID-19は習近平の中国にシーレーンの拡大をプレゼントしたと言え、アジア太平洋地域におけるパワーバランスに大きな変化が起こる可能性を秘めています。
東シナ海については、思いきり日本が絡む事態が起きています。それは尖閣諸島問題の先鋭化です。先週号でも少し触れていますが、6月25日に至るまで25日間連続で中国の艦船(主に海警局の重武装の巡視船)が尖閣諸島海域に侵入・航行するという事態が生じています。
もちろん外交ルートを通じた抗議を日本政府も行っていますし、先日地名変更までしてメッセージを中国に送っていますが、中国政府サイドはこれまで以上に対抗姿勢を鮮明化していて、緊張が高まっており、まるでかつての韓国の李承晩政権による竹島の実効支配をモデルにするかのように、尖閣諸島の実効支配に乗り出しているように思われます。
また実際に、先日同海域において空母遼寧を中心とした艦隊を通過させ、一時は中国に制海権を奪われるという事態にも発展しています。これは在沖縄米軍にとっても、もちろん日本政府にとっても由々しき問題ですが、これまでのところ効果的な対抗策は打てていません。
中国の拡大については、日米同盟の下、アメリカとの安全保障上の連携を強める必要性はもちろんのこと、韓国、オーストラリア、ニュージーランドに加え、インドネシア・ベトナム・フィリピン、そしてインドをいかに対中グループに迅速に引き込めるかがカギとなるでしょうが、これがいかに困難かは、皆さんもよくご存じだと思います。
個人的な見解ですが、昨今のイージス・アショアの導入決定の撤回も、それに代わる敵基地攻撃能力の議論の活発化も、ただ単に北朝鮮情勢に対応するというだけではなく、確実に拡大の一途を辿る中国の制海権と制空権に対抗する覚悟の表れではないかと考えています。思いを共有できる米軍がこの2つの案件に関して大きな反発を表明していないのも支持の表れではないかと。