習近平が台湾と世界に叩きつけた挑戦状。「米中新冷戦」の行方

 

アメリカや欧州各国、そして日本を含むアジア諸国がコロナウイルスの感染拡大への対応に忙殺されている中、いち早く諸活動を再開させた中国は、One China/One Asiaの計画の本格的な実行を急ぎ、宿願であった太平洋への海洋進出を目指す行動に出ました。度重なる南シナ海での威嚇行為と実効支配の確立に向けた動き、尖閣諸島周辺海域での領海・制海権を確立すべく、空母・遼寧を中心とした攻撃群を沖縄・尖閣海域に差し向け、何度も通過と滞在を繰り返させることで野心を剥き出しにしています。

そして何よりも世界をショックに陥れたのが、異例のスピードで成立・制定・施行にこぎつけた『香港国家安全維持法』を巡る動きでしょう。中国政府筋によると「コロナウイルスの感染拡大がなければ、香港国家安全維持法は3月に開催された全人代で可決されていたはず」とのことですが、欧米を中心とした各国からの自制要請からの圧力にもかかわらず、それを全く意に介さないかのように5月28日に可決した後、約1か月という異例のスピードでの施行を強行しました。

その内容と、香港に進出する外資系資本の不安材料については多くの場で述べられているのでここでは詳説しませんが、各国とのパワーゲームを一気にエスカレートさせるという賭けを打ってまで、習近平国家主席の中国が香港国家安全維持法と『香港の中国化』を強行した背景には並々ならぬ決意が見え隠れします。その“決意”の内容は、『欧米との決別』と『米国中心の覇権への挑戦』と表現できるでしょう。

適用基準が明確に示されず、中国当局に恣意的に用いられる可能性が高い内容が多いことで、欧米資本や日本の資本は、じわじわと香港から離れ、結果香港は世界の経済の中心TOP3の座から降ろされようとしています。中国共産党幹部にとって、唯一といっていい資本蓄積と外貨調達のハブとなっていた香港の“うまみ”を奪われる可能性が高いにもかかわらず、習近平国家主席は大博打を打ったといえます。

長引く香港民主化運動に決定的なピリオドを打つ意図、9月に予定されている立法府選挙からの民主化勢力の排除、コロナ対策の遅れと失敗で国内から食らっている突き上げの目先を変えるという意図、いろいろと理由は語られていますし、私もこのコーナーで挙げてきましたが、いろいろな情報を整理してみると、「この機会にアジアから欧米勢力を排除したい」という計画が見えてきます。

英国と1997年に合意し、国連にも“条約”として登録した中英合意で定められた「50年間の香港自治と活動の自由の保障」、つまり『一国二制度』という大原則を23年で終焉させることで批判や制裁を覚悟で、One China/One Asiaの完遂に邁進することにしたようです。香港国家安全維持法で香港の一国二制度を実質的になくし、香港民から政治的な関心を強制的に奪うことで、習近平国家主席が掲げるOne Chinaの最終目標である台湾併合に向けた強烈なメッセージと覚悟(determination)を台湾と世界に示し、挑戦状を叩きつけました。

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