特異でかつ望ましい立ち位置を活かすべき菅新総理
米中対立、イラン問題、そしてコロナワクチン以外に注目すべきは、【トルコを主演とした地中海での混乱の拡大とEU分裂へのプロローグ】でしょう。
今週以前にもすでにトルコとギリシャの間での天然ガス田を巡る領有権争いは過熱し、フランスやイスラエル、エジプト、リビア、そしてキプロスなどを巻き込んだ【武力衝突一歩手前の紛争状態】が進んでいましたが、今週の一般討論演説でフランスのマクロン大統領やEUのフォンデライエン委員長、トルコのエルドアン大統領などが相次いで本件を国際案件として取り上げたことで、一気に緊張が高まっています。
本件は、トルコとギリシャの権益争いという側面に加え、キプロスの国家承認問題、トルコが地中海諸国に仕掛ける分断の罠と自国の影響圏の拡大、EUに突き付けたシリア難民人質カードによるEU分裂の顕在化(北の加盟国と南・中東欧の加盟国の間にある埋められない溝)、トルコ“抜き”で進められる中東ディールへの対抗、EUにおける仏独の蜜月の終焉など、いろいろな問題が絡んでいます。
そしてそれらすべての中心にいるのがトルコで、今回の第75回国連総会議長もトルコ国会の議長を押し込み、2020年アジェンダにしっかりと諸問題を含めさせることに成功しました(非常に巧みな外交だと思います)。これらはすべて一筋縄ではいかぬ問題ばかりですし、EUは何とか自らの分裂を防ぎつつ、トルコと直接にバイラテラルな環境で(マルチではなく)地中海問題(ガス田、キプロスの扱いなど)とシリア難民問題を解決したいと望んでいることから、どこまで1年で議論が進むかは見えませんが、年次アジェンダに挙げさせただけでも、もしかしたらトルコの企みは功を奏しているかもしれません。そして、そのバックにしっかりと中国がいて、ロシアがいてという状況があり、トルコにはNATO空軍基地があり、NATOの核が置かれているという非常に戦略的な問題もあることから、ハンドリングを誤ると、イラン問題や中東での緊張の高まりのみならず、もしかしたら本当にNATO加盟国間での衝突を機に、地中海沿岸諸国を巻き込んだ望まぬ戦争になるかもしれません。
このメルマガが皆さんに届く数時間後、日本国総理大臣である菅首相の一般討論演説が行われます。
初めてのマルチ外交の場で、いろいろと懸念すべき事項が満載な国際情勢に対し、どのような指針を示されるのか、とても期待しています。米中間のバランスを保ち、中東各国とも親しく、トルコとの関係も歴史的に良好で、そしてASEAN各国ともパートナーシップを持つ日本という“特異でかつ望ましい”立ち位置をぜひフルに活かす外交を展開していただければと願います。
国連大好きな私の目からも、日本がずっと掲げてきた国連中心主義という外交方針はもう成り立たないコンセプトかと思いますが、同時に今回の一般討論演説を起点として、国連という“国際問題の協議の場”を再度活性化させて、ちりちりばらばらになってしまった国際協調の復活に寄与してほしいと思います。
いろいろとカバーしたがゆえに、まとまりのないお話しになってしまいましたが、皆さんはどうお考えになりますか?
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