立法の趣旨を無視する第三者委員会
この規定に紐づく「重大事態いじめガイドライン」(文科省)によれば、委員会のメンバーなどについては被害者やご遺族に「十分な説明」を要請している。
また、委員会メンバーについては「中立公平」であること重要であり、学校や教委による隠ぺい問題を深く考慮し、持たれあいや庇いあいを回避するために、学校や教育委員会との利害関係などがない人物を選任するよう要請がされているのだ。
そして、国会における審議の中では、この「中立公平」については誰から見てを基礎とするのかというやり取りがあったのだが、これは「被害者やご遺族」からみて「中立公平な委員」でなければならないとされているのだ。
ただし、人口の少ない地方などでは、専門的知識があるとされる職種の人らがどうしても学校の仕事を一部受けていたりすることはあろうから、こうした場合については、十分な説明をして被害者やご遺族が理解を示し、合意に至れば良しとされている。
一方、いじめ防止対策推進法ができるきっかけとなった「大津のいじめ事件」において、もっとも有名な第三者委員会は、県外から委員が選任され、遺族側の推薦委員も加わった。
つまり、もっとも有名で法のきっかけとなった事件は、県外委員が基本であり、遺族側推薦をも受け入れての委員会であった。
しかし、前述の京都府の委員会のように、被害側に黙って第三者委員会を設置してしまったり、このやり方に被害側が異を唱えれば、法の趣旨を無視して、条例の上っ面だけを読んで「選任権は我々にありますから」と権力を振りかざすのだ。
選任の前に行う過程をすべて無視してしまえば、結果的にその委員会は設置経緯に大きな瑕疵があることになり、その委員会の基礎が瓦解することになろう。
これは、京都府だけで起きていることではなく、全国的に発生していることなのだ。
だから、いじめのニュースを見ていると、第三者委員会に解散要求が出たり、再調査の要望が出てやり直し調査をするというニュースがあちらこちらで流れているのだ。
私は日本全国、いじめ問題の被害者やご遺族から相談を受けているが、実は今最も多いのが「第三者委員会の構成や設置経緯」と「第三者委員会の調査の進め方」「委員会が教育委員会の下僕化している」というものだ。その全てに言えることは、前述の通り、立法の趣旨を無視した設置の仕方である。
京都府の被害者によれば、確かに委員の推薦状のようなものは送られてきたが、多くは5、6年前のもので、教委の説明によれば、やりたい人が手を挙げたので、その中から選任したということであったそうだ。
つまり、事案ごとに丁寧な選任を行ってはいないし、そもそも、被害側の合意を得ようともしていなければ、説明を積極的にしようという姿勢は見受けられない。
瑕疵ある委員会の弊害と命への冒とく
公が行う第三者委員会においては、その予算は税金が投入される。
この投入において、行政が正しい方法で行わないから、再投入をせざるを得ないというのが、今の現状だろう。そして、こうした重大なミスと不作為は別段問題とならず、誰も責任を負わないまま、被害者やご遺族だけが取り残されるのだ。
そして、同様問題が次々と起きていくわけだ。貴方が必死で働き収めている血税は、教育行政の無知無能により、無駄に投入されてしまう。
そもそもいじめ防止対策推進法は、大津のいじめ事件がきっかけとなったが、それ以前から多くの子どもたちの命が犠牲となり、被害者の人生を犠牲として出来上がったものであるとも解釈することができる。
つまり、立法における趣旨を無視したり、特に興味もないのか、法の上っ面だけしか読まずにあたかも専門家面している似非専門家らによって歪められている現状は、その多大なる犠牲を冒とくしているとも言えるだろう。
編集後記
別の事案では、スクールカウンセラーが委員となっていたり、スクールロイヤーが委員長となるという第三者委員会があります。いじめ防止対策推進法の立法までの過程において、この段ではスクールロイヤー制はなかったため言及はありませんが、スクールカウンセラーが委員となることは原則的に否定されています。
一般企業や社会問題となる事案で設置される第三者委員会では、利害関係者は原則的に委員とはならないし、利害関係がありそうだという委員は、自ら選任段階で断ります。
一般に「第三者」とは当事者以外という意味ですが、第三者委員会においては、「利害関係がない者」と解することでしょう。
つまり、一般的に考える第三者委員会と教育行政における第三者委員会の現状と現実は大きな乖離があることが多いのです。
そして、多くは再調査委員会で前任委員会の結論がひっくり返るということは、前任委員会は、教育委員会や学校が設置したものですから、首長(市長や知事)が設置したものの方が正しく機能するということになるはずです。
これを異常と言わずして、何と言ったらよいでしょう。
ただし、この異常が発生していても、多くの方はニュースで結果のみを聴くだけで、その現実を知りません。
いじめ防止対策推進法は改正期を過ぎています。立法の趣旨を無視する事例は数多あるのですから、立法府の方々には、他の重要法案や政治的問題も大いにあるとは思いますが、一旦、初心に戻って法改正に挑んでもらいたいと思います。
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