大幅に拡大・増強する中国による欧州経済への影響力
では米欧関係はどうでしょうか?トランプ政権下では、米欧関係は非常に緊張を帯びたものになってしまいました。NATOの負担率問題や、「なぜアメリカが欧州を護らなくてはならないのか」といったそもそも論については同調できるものも多々ありますが、欧州各国はこれまで頼りにしてきたアメリカ政府から突き放されたように感じ、そこにマクロン大統領が唱える欧州の防衛機能の強化という方向性が相まって、大西洋両岸での緊張が高まりました。
バイデン氏が次期大統領になるらしいという見込みが報じられると、欧州各国は一斉に祝意を述べ、まだ就任すらしておらず、まだそのころは勝敗も決していなかったバイデン氏にラブレターを送るかのように、欧州との融和と協力を期待する旨、伝えました。「トランプ大統領が崩した国際協調を立て直す」と約束したバイデン氏は、その象徴として欧州各国を選ぶような発言をしていますが、トランプ氏が突いたNATOの負担問題や駐ドイツ米軍の戦略上の重要性の低下などを受けて、実際にどのような対応を取るのかは今後の注目項目でしょう。
ただ、バイデン氏は超が付くロシア嫌い・プーチン嫌いでも有名ですから、ロシアの野心と影響力の封じ込めという意味で欧州各国を、かつての冷戦時代の鉄のカーテンのように“対ロシア・中国の壁”として用いるかもしれません。
そしてバイデン氏のアメリカは、拡大する中国の影響力に対抗するために、民主主義のEUとの結束を高めることに大変関心があるようですが、その関心はあまりEUには受けがよくないようです。
実際に最近になってもめにもめていたEU・中国の経済連携協定が合意され、EU企業の中国市場への進出度合いが、アメリカ企業の度合いに匹敵するほどにまで高まることになります。EUのフォンデライエン委員長曰く、「やっとこれでアメリカと同じ土俵に立って、中国問題を話し合える」状況になったことを意味します。通常であれば、ここまでの楽観的な見解を示すと、北京政府がそれを打ち消すようなコメントを出しがちですが、今回は習近平国家主席の喜びに満ちたコメントまで引用して、中国とEUとのつながりは不変とまで言っています。
これが何を意味することになるかといえば、コロナ、香港問題、ウイグル自治区での人権侵害問題などの共通課題を盾に、トランプ大統領のアメリカと対中強硬姿勢・対中包囲網を築いていたEUの対中姿勢に柔軟性が生まれるということと、2020年に警戒を強めていた欧州経済の対中依存度をさらに高めることを意味し、実質的に中国による欧州経済への影響力を大幅に拡大・増強することとなります。
そしてロシア問題とトルコ問題については、バイデン政権下でさらなる緊張を生むことになると見ています。
私が期待しているとすれば、パリ協定への復帰と脱炭素型社会の潮流を引っ張ってくれること(そしてこの分野では、協力という名の米欧中間での競争が激化します)ぐらいでしょうか。ただこの分野でのリーダーシップの可否は、まずは国内のコロナ感染の抑え込みと経済の回復への道筋をつけることが大前提になると思われますが。
image by: Alex Gakos / Shutterstock.com