EUが足を踏み入れてしまったギャンブル
2020年年末の12月30日、あるニュースに驚かされました。それは、EUと中国が懸案であり、紆余曲折を経てきた投資協定に大筋合意したという内容でした。普通ならば歓迎されるべき内容だとは考えるのですが、今回のケースについては、EUの真意を確かめたくなるような感触でした。
それは、EUの戦略の言行不一致の典型例ではないかと思われ、結局、“人権や自由という原理原則に経済的利潤が勝る”という方針を世界に露呈したのではないかと感じたからです。
2020年6月の中国政府による香港国家安全維持法の施行の強硬、そして新疆ウイグルの人権蹂躙の問題などを受け、これまで中国との関係強化一辺倒だった欧州各国が目を覚まし、トランプ大統領のアメリカと共に対中包囲網に加わるという姿勢に転換したはずだったのが、結局、トランプ大統領の敗北と退陣が決まった途端、中国に擦り寄るようにも見える決定に揺り戻されたのはショッキングとしか言いようがありません。
「同盟国と連携して中国の脅威を封じ込めよう」と高らかに宣言し、自由主義社会の連携と協調に舵を切ろうとしたバイデン新大統領からのオファーに、見事に冷や水を浴びせ、仕打ちで返したようにも見えます。
今回の件については北京サイドに話を聞くと、「今回の合意は中国にとって絶大な外交的勝利だ!」とのことでした。それを欧州各国はどう思っているのでしょうか?
欧州委員会も、今回の合意を議長国として押し切ったドイツ・メルケル首相も「中国の脅威について論じる前に、まずはアメリカが中国市場で得ているマーケットアクセスの規模に並ぶ必要があった。これで、欧米中のトライアングルで対等の話し合いがもたれるだろう」とのコメントを出していますが、正直、EUの対中認識の甘さを露呈したのではないかと考えます。
中でも「今回の合意を条約化することで、中国を国際法のルール下に置き、国際合意の遵守を約束させることに繋がる」というEU首脳のコメントは本当に甘いと言わざるを得ません。
ちなみに、これまで中国が国際法を遵守したことがあったでしょうか?その典型例は、EU各国も激しく批判した2020年6月の香港国家安全維持法によって香港の自治が剥奪された案件でしょう。また、中国はオーストラリアともFTAを締結していますが、昨年のオーストラリア政府からの批判を受け、豪州からの輸入品に対して関税を課すという暴挙に出ています。
それでもまだ先述のような夢物語をEUは語れるのでしょうか?
EUは結局、中国の経済力が持つ魅力に屈したといっても過言ではないでしょう。
EU各国は自らの安全保障をアメリカに頼っている半面、アメリカが重視している太平洋地域でのアメリカの安全保障を軽視しているのは大きな矛盾だと言わざるを得ないですし、決して賢明な策とは言えず、今後、協調を重んじる予定だったバイデン新大統領のアメリカとのtrans-Atlanticの同盟関係にひびが入るのではないかと懸念します。
もし、私の見立てが当たってしまうと、今後、対中政策を見る際に、欧州は当てにならず、アメリカが日本にかける期待とプレッシャーは相当なものになるだろうと予測できますが、果たして日本政府にその準備はあるでしょうか?
皆さんはどうお考えになるでしょうか?またご意見、ぜひお聞かせください。
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