資生堂に異変。米国仕込の「プロ経営者」が日本の老舗企業を食い物にしている?

 

藤森氏はともかく、「プロ経営者」の多くは、外資系の日本法人のトップをつとめたというだけで、グローバル視点の経営術を身につけているかのごとく、思われている。

魚谷氏が「プロ経営者」と呼ばれる足がかりとなった日本コカ・コーラにしても、米国に本拠を置く「ザ コカ・コーラ カンパニー」の日本法人だ。

原田泳幸氏の場合もしかりで、アップル日本法人のトップから鳴り物入りでマクドナルドのCEOになった。一時は会社を立て直したかに見えたが、東日本大震災後の業績悪化を押しとどめることができず、ベネッセコーポレーションに移った。ベネッセでも個人情報流出事件に見舞われて決算が赤字に転落、社業回復の糸口を見いだせないまま同社を去っていた。栄光に挫折はつきものとはいえ、身につまされる。

米国系企業の日本法人は、米国の本社からみれば支店であり、彼らは支店長に過ぎない。米国流を少しかじっているだけで、中間管理職をいきなり日本の大会社の社長にするのだから、日本企業の人材不足もよほど深刻とみえる。

元通産官僚、一柳良雄氏が主宰する経営者養成の「一柳塾」をめぐる狭い人間関係が、「プロ経営者」派遣の装置になっている現実も、日本企業の人材発掘力を貧困にしている原因の一つでもあろう。

魚谷氏は「一柳塾」で講師仲間だった前田新造・資生堂前社長やアスクル創業者、岩田彰一郎氏の知遇を得て、資生堂への切符を手にした。2011年に日本コカ・コーラを退職、13年に資生堂顧問として迎えられ、その翌年には社長になっている。大企業の経営実績などない男が、いきなり天下の資生堂のトップに就く理由は、前田前社長らと仲良くなった、ただそれだけである。講師としていかに立派な経営論を弁じても、いわば絵空事にすぎない。

むしろ、外部からやってきて、伝統的な社風や販売ポリシーを全否定するかのような経営を進めた結果、プロパー社員や専門店オーナーの不信を招き、外から見るよりはるかに内部が傷んでいるのが現実ではないか。これを創業者の孫にあたる元会長の福原義春氏はどのようにとらえているであろうか。

経団連を見れば分かるように、この国の経営者が時代の変化についていけているとは思えない。しかし、アメリカ仕込みのプロ経営者なら課題を解決してくれるというのは幻想だ。株主価値重視とか何とか御託を並べ、とどのつまりは、中国の巨大マーケットとEコマース頼みで目先の利益を追うのがオチ。根本を練り直す長期戦略はあとまわしということになる。

おりから米アップル社が自動車生産に乗り出すという話題がマスメディアをにぎわしている。本社は工場を持たず、商品の設計やデザインに集中、部品製造や組み立ては海外のメーカーに依頼する「水平分業」が、iPhoneと同様、自動車でも進められることになるのだろう。トヨタが実験都市をつくろうとしているのは強い危機感のあらわれだ。

日本の大企業が、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、すなわちGAFAに太刀打ちできないのは、社員個々の力を引き出す仕組みになってないからではないか。会社のピラミッドのてっぺんだけがお仕着せの米国式マネジメントに置き換わっても、下部組織に自由闊達な気風がなく、若い社員のアイデアが生かせないようでは、社内からクリエイティブな人材が育つはずがない。

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