昨年5月、3Dプリンターで拳銃を作った大学職員の男が逮捕された事件、覚えていますか? 被告の控訴審を傍聴したジャーナリスト・今井亮一さんは、男に下った量刑は「社会への見せしめ」の面が大きいのでは、とレポートしています。
3Dプリンター拳銃、1発撃って銃身ぽろり
「銃砲刀剣類所持等取締法違反、武器等製造法違反」の控訴審判決!
控訴審の第1回は2月26日。俺は見逃してる。
傍聴したマニア氏によれば、「銃を規制する社会に対する挑戦」の趣旨を被告人は語ったそうだ。
今日、被告人(身柄、拘置所)は茶のダウンジャケットにベージュのズボン、背は高めで、容貌も黒髪も濃い。眉をしかめ、難しそうな表情。
裁判長 「主文、本件控訴を棄却する。当審における未決勾留日数中90日を原判決の刑に算入する」
控訴理由の1つは事実誤認。3Dプリンター銃は、法律がいう拳銃に該当しない。仮に該当するとしても故意がないので無罪。
この主張は退けられるんだが、俺はちょと驚いたね。
被告人がつくった3Dプリンター銃は、銃口内に金属プレートが埋まっており、工作道具により10~50分かけないと除去できないんだという。
正規の実包は使用できず、ハンドメイドの実包を被告人は製造してないんだという。
科捜研が実包をつくって発射したところ、1丁は1発目で銃身に亀裂が入り、もう1丁は1発目で銃身が脱落したんだという。
そんなの拳銃といえるのか。しかし…。
裁判長 「金属プレートの除去は、ドリルやハンマーで1時間程度でできる…1発は撃てると思っていた…被告人には機械加工の技術、技能がある…」
日本は、一般国民には絶対に拳銃を所持させないことにしている。ゆえに、拳銃からだいぶ遠いものも厳重禁止する?そんなことが感じられた。
控訴の趣意のもう1つは量刑不当。原判決は懲役2年。マニア氏によればその未決算入は50日だという。
被告人は前科前歴なし。広く報道され、職を失うなどしてる。実刑は重いようにも思える。
裁判長 「しかし、誰でも簡単に製造できることを実証した…極めて模倣性の高い悪質なもの…」
3Dプリンターが一般的になる時代を前に、社会に対する見せしめ、そういうことかな。
浮かれてついやった、とかいうんじゃなく、「銃を規制する社会に対する挑戦」、そのへんも少しは加味された?
上訴権の告知を終えてから、裁判長が言った。
裁判長 「あなたにちょっと述べておきたい。あなた、それなりに才能、ある」
被告人 「はい」
裁判長 「そしたらさ、こういう危ないことに…ありていな言い方ですが、もっと世のため人のために、その才能をね…」
被告人 「ま、そうですね、ただ、私にとって銃はとてもかけがのないものでした」
裁判長 「その考えは改めて、ね」
被告人 「そうですね、争う気はありません」
3Dプリンターを入手し、「拳銃」をつくってるとき、社会変革の気概にあふれ、まさかこんな結果になるとは夢にも思わなかったんじゃないか。
人はいつも法律上の結果を予想して行動を選択するわけじゃない、とはいえ…。
著者/今井亮一
交通違反専門のジャーナリストとして雑誌、書籍、新聞、ラジオ、テレビ等にコメント&執筆。ほぼ毎日裁判所へ通い、空いた時間に警察庁、警視庁、東京地検などで行政文書の開示請求。週に4回届く詳細な裁判傍聴記は、「もしも」の時に役立つこと請け合いです。しかも月額108円!
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