引退していた世界3大投資家の一人、ジョージ・ソロス氏が、ついにトレーディングの現場に復帰しました。ソロス氏の狙いは中国売り。2016年に入ってからのソロス氏は執拗に「中国経済崩壊」に言及しています。
先月の伊勢サミットでは、安倍首相の「リーマン・ショック前夜」発言が海外メディアから「そんなわけないだろ」と突っ込まれていました。国内メディアからも、消費増税延期のための茶番だと非難する声が強かったのは周知のとおり。
しかし、ソロス氏と安倍首相の見方は不思議と一致しています。そして、安倍首相と違い、ソロス氏はオブラートに包むことなく、はっきりと「中国が震源地になる」と明言しているのです。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)
ジョージ・ソロス氏は中国経済のどこを見て崩壊を予言しているのか?
2016年のソロス氏は異例づくめ
あまりメディアで積極的に発言しないことで知られるジョージ・ソロス氏。しかしながら、今年に入ってからの露出度は異様なレベルでした。
<2016年1月7日>
スリランカのコロンボで開催された経済フォーラムで、次のように語りました。
「中国は調整に関して大きな問題に直面している。私に言わせれば危機と呼んでいいものだ。金融市場には深刻な難題が見られ、私は2008年の危機を思い出す」
<2016年1月21日>
世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にて、ブルームバーグTVに対し、次のように述べました。
「中国経済のハードランディングは不可避。これは予想ではなく、実際に目にしていることだ」
「(同時に、中国が十分な資源や3兆ドル規模の外貨準備高を持っていることなどを踏まえ、)同国がハードランディングを『乗り切ることは可能』」
<2016年4月20日>
ニューヨークで開催されたアジア・ソサエティーのイベントで、中国の現状について、次のように述べました。
「(今の中国は)与信の伸びで増強されていた07-08年の米国の金融危機当時と不気味なほど似ている」
「皆が予想する時期よりも後に転換点を迎える可能性がある」
<2016年6月9日>
ジョージ・ソロス氏(85歳)は2011年に投資から引退して、慈善活動や新経済概念の構築に力を入れていました。しかし、ついに我慢しきれず、トレーディングの現場に復帰するという決断を下したのです。
非公開情報であることを理由に匿名で語った同関係者の話では、ソロス氏(85)は最近、取引を指示するためにより多くの時間をオフィスで過ごしており、一連の大口の弱気なトレードを指揮した。<中略>前四半期に米国株投資を3分の1余り減らし、金市場に賭けていた。
出典:ジョージ・ソロス氏がトレーディングに復帰、世界経済を懸念-関係者 – Bloomberg
ソロス氏は中国経済の何に注目しているか?
ソロス氏が懸念しているのは、「中国の与信の伸び」です。与信の伸び、つまり、銀行などの貸付金額が大きくなりすぎていると指摘しているのです。
経済活動の主体となっているのは、次の3つです。
- 政府
- 企業 ←中国は企業債務残高が多すぎる!
- 家計
この3つの経済主体のうち家計と企業は、基本的に景気が良いときは債務残高(=借金)を増やします。借金は経済にとってレバレッジにもなるので、少ない資金を効率よく活用して、どんどん経済が大きくなっていきます。
しかし、行き過ぎるとバブルになってしまって、どこかのタイミングでバブルは弾けてしまいます。
ソロスは近々、中国経済のバブルが崩壊してしまって、一気に経済が落ち込んでしまうと予想しています。中国は企業の債務残高が多くなりすぎているのです。
ちなみに、日本は政府の債務残高が多すぎます(対GDP比で約250%)。
3つの主体(政府、企業、家計)のうち、いずれの主体であっても借金が多すぎると、債務不履行になるリスクが増大します。実際の数字で確認してみましょう。
Next: ソロス氏に中国経済崩壊を確信させた「異常な数字」とは?
中国の企業債務残高の積み上がり方は「異常なペース」
中国は他の国を圧倒するスピードで企業債務残高を積み上げています。しかし、債務残高がいくら多くなっていても、経済全体のGDPが伸びていれば、問題はありません。対GDPの比率という点からチェックしていきましょう。
三井住友アセットマネジメントがまとめた資料によると、中国の企業債務残高は2008年から一直線に伸びています。さらに、対GDP比でも他国を圧倒する勢いで伸びています。
出典:世界の企業債務残高/企業債務残高の対GDP比 – 三井住友アセットマネジメント
具体的な数値データを拾うと、下記の通りです。
<中国 名目GDP(概算)>
2008年 | 4.0兆ドル |
2009年 | 5.0兆ドル |
2010年 | 6.0兆ドル |
2011年 | 7.4兆ドル |
2012年 | 8.4兆ドル |
2013年 | 9.5兆ドル |
2014年 | 10兆ドル ←ここから伸びなくなった! |
2015年 | 10兆ドル |
2016年 | 11兆ドル ←IMF推計 |
<中国 企業債務残高(概算)>
2008年 | 4兆ドル |
2009年 | 5兆ドル |
2010年 | 6兆ドル |
2011年 | 8兆ドル |
2012年 | 10兆ドル |
2013年 | 13兆ドル |
2014年 | 15兆ドル |
2015年 | 16兆ドル |
<中国 企業債務残高の対GDP比(概算)>
2008年 | 100% |
2009年 | 100% |
2010年 | 100% |
2011年 | 125% |
2012年 | 125% |
2013年 | 145% |
2014年 | 150% |
2015年 | 160% |
2010年頃までは中国のGDPと企業債務残高はほぼ一致していました。ところが、中国経済は2014年頃から伸びなくなったのです。
一方、企業の債務残高はどんどん増加しています。2016年の名目GDPも、それほど伸びない見込みです(IMF推計)。
経済全体の規模であるGDPが伸びていないのに、企業の借金だけが増えていっている!これは明らかに良くない傾向です。
借金には利子がつき、その利子すらも払えなくなると、借金は複利で増えていきます。2014年頃から中国はその状況に陥っています。
Next: 平成バブル崩壊前後の日本と酷似している今の中国
平成バブル崩壊前後の日本と酷似している今の中国
今の中国はバブル崩壊前後の日本の状況にとても酷似しています。
日本の企業債務残高は1994年12月末に最大で149.2%に達しました(=水色の線)。バブルが崩壊してから、政府の債務残高が急速に増えていっています(=オレンジ色の線)。
出典:日本の非金融セクター債務残高(対GDP比)の推移 – ニッセン基礎研究所
経済活動の主体は、家計、企業、政府の3つです。
バブル崩壊後に政府の債務残高が急増しているのは、家計と企業の民間セクターを助けるためです。
中国のバブル崩壊と日本のバブル崩壊が似通っている点はさらにもう1つあります。それは「株価暴落」→「企業債務残高の増加」の経緯です。
日本のバブル崩壊と企業債務残高の膨張
(ステージ1)株価の暴落
1989年12月:日経平均株価が38,915円に到達した(過去最高値)。
<約1年後>
1990年12月:日経平均株価が23,849円まで落ち込んだ(約39%の下落)。
<約4年後>
(ステージ2)企業債務残高がピークを迎えた
1994年12月:企業債務残高が149.2%に到達し、その後、企業の倒産が多発した。
<約1~5年後>
(ステージ3)金融機関が倒産した
1995年8月:兵庫銀行が倒産する(銀行としては戦後初の経営破綻)。
1997年~1998年:北海道拓殖銀行(拓銀)、日本長期信用銀行(長銀)、日本債券信用銀行(日債銀)、山一證券、三洋証券など大手金融機関が倒産した。
中国のバブル崩壊と企業債務残高の膨張(+その後の予想シナリオ)
(ステージ1)株価の暴落
2015年6月 上海総合株価指数が5,166に到達した。
<約1年後>
2016年6月 上海総合株価指数が2,913まで落ち込んだ(約43%の下落)。
(ステージ2)企業債務残高がピークを迎えつつある?
現在、中国の企業債務残高は160%以上を突破していますが、ここがピークかどうかは不明です。
(ステージ3)金融機関が倒産する?
ステージ3まで中国が追い込まれるかどうかは現時点では不明です。しかし、企業の債務残高が膨張し続けており、止まる気配がないので、とてもハイリスクな状況になっていることは確かです。
ジョージ・ソロス氏は4月20日に「皆が予想する時期よりも後に転換点を迎える可能性がある」と発言しています。
日本のバブル崩壊のケースでは、株価の暴落から実体経済の崩壊まで4~5年ぐらいのタイムラグがありました。中国のケースでも、実体経済が崩壊するまで、4~5年の猶予がある可能性もあります。
Next: 中国はどこまで持ちこたえられるか?残された時間は
中国はどこまで持ちこたえられるか?
そもそも「債務残高」は、GDP比で何%までなら持ちこたえられるのでしょうか?
これはそれぞれの国の状況で値が異なるため、具体的に何%に達したら持続が不可能になる(=借金が返せなくなる)という明確な閾値はわかっていません。
しかし、この分野の研究において、破綻に至る閾値は不明ですが、経済成長が悪化する閾値については統計学的には明らかになっています。
2011年9月、BIS(国際決済銀行)の経済シンポジウムにて、次のレポートが発表されました。
<経済成長が悪化する閾値>
- 政府:債務比率がGDPの85%
- 企業:債務比率がGDPの90%
- 家計:債務比率がGDPの85%
出典:The real effects of debt – BIS(国際決済銀行)
現在の中国の企業債務はGDPで160%を超えており、閾値の約1.9倍の大きさになっています。中国経済の成長にブレーキがかかっているのも無理はありません。
現在、中国はステージ1「株価の暴落」においては、ほとんど日本と同じ状況になっています。
中国は1年後の株価暴落率まで日本とほぼ同じ(約40%下落)になってしまい、ステージ2、ステージ3へと駒を進めてしまうかもしれません。
「GDPが伸びていないのに企業債務が膨張し続けていて、止まる気配がない!」
このデータを重視して、ジョージ・ソロス氏は「中国経済のハードランディングは不可避」と主張しているのです。
Next: 今回のまとめ~ソロス氏が中国経済崩壊を確信する3つの理由
今回のまとめ~ソロス氏が中国経済崩壊を確信する3つの理由
ジョージ・ソロス氏は2016年に入り、「中国経済のハードランディングは不可避」と何回も主張するようになった。2016年6月、ついにトレーディングの「現場復帰」を果たしたソロス氏は、以下の理由から、中国経済の崩壊を確実視している。
- 中国の企業債務残高対GDP比は2010年頃まで100%に留まっていたが、それ以降、増加が止まらなくなってしまった(2015年には160%を突破)
- GDPという経済全体の規模が大きくなっていないのに、債務残高だけが積み上がるのは、明らかに良くない傾向である
- 現在の中国は1990年代の日本の状況に酷似している
ただ、すぐに中国経済が崩壊するとは限らず、ソロス氏が指摘しているように転換点は遅くなる可能性がある。日本の場合、株価の崩壊から実体経済の崩壊まで4~5年のタイムラグがあった。
『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2016年6月16日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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