IBMは現在、5年3ヵ月連続で減収減益が続いています。この減収減益は一体いつまで続くのでしょうか。悲観的、中立的、楽観的の3ケースに分けて分析します。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)
IBMはいつ増収増益に転じるのか? 3つのケースで復活時期を予測
5年3ヵ月連続で減収減益
IBMは現在、21四半期(5年3ヵ月)連続で減収減益が続いています。本稿では、この減収減益は一体、いつまで続くのかを推測していきます。
バフェットは2011年に、IBM株を大量に取得して世間を驚かせました。そして、その6年後の2017年5月、3分の1を売却したことを表明しました。今までバークシャーのBIG5に入った銘柄で、部分的とはいえポジションを下げたのは過去一度もありませんでした。
バフェットはIBM株の3分の1を手放した理由として、次のように説明していました。
- IBM株を買い始めた6年前と同じ方法では評価していない
- この6年でもっとうまくいくと考えていた(実際はそうではなかった)
- いくらか下向きに評価し直した
バフェットがこのように言うのは、ある程度、納得できる部分もあります。2011年時点では、IBMの経営陣は1株あたりの純利益を20ドルまで引き上げる計画を発表していました。
<IBM 2015年にEPSを20ドルにするという幻の計画書>
2014年10月21日、ロメッティCEOは達成不可能と判断して、この計画を破棄しました。今となっては幻の計画になっています。
IBMのEPSは2016年には12.38ドルとなっており、当初の事業計画とは大きく外れた水準で推移しています。
<IBM EPSの推移>
IBMは事業ポートフォリオ入れ替えの最中
IBMは次の5つの事業分野を「戦略的必須」として位置付けています。
- アナリティクス(Analytics)
- クラウド(Cloud)
- モバイル(Mobile)
- セキュリティ(Security)
- ソーシャル(Sosial)
これらの新しい分野事業の売上高を伸ばして、ハードウェア販売を中心としたレガシー領域の落ち込みをカバーしようとしています。
<将来に向かって戦略的必須領域を増やしていく計画(イメージ)>
この視点で眺めると、IBM全体の売上高は下記の要素で構成されています。
IBM全体の売上高=戦略的必須領域の売上高+レガシー領域の売上高
IBMが5年3ヵ月もの間、ずっと減収減益に落ち込んでいる理由は次の2点です。
- レガシー領域の落ち込みが想定以上に激しい
- 戦略的必須領域でIBMの全体を支える規模に育っていない
今、株式市場では大半の投資家がIBMの将来を悲観的に捉えています(もちろん、私も短期的には悲観的です)。これだけ長い間、低迷が続いているので、仕方のない話です。
それでは、この5年間でIBMは何もしていなかったのかというと、そういうわけではありません。事業ポートフォリオは着実に変化してきます。
IBMが増収増益に転じる転換点がいつになるのかは、戦略的必須領域の成長率とレガシー領域の成長率の2つの変数をどういう値に設定するのかによって変わってきます。
Next: 復活を目指すIBMは、密かに「良いところ」まで来ている!
戦略的事業はどのように貢献してきたのか?
IBMの売上高は毎年のように下落してきています。
<IBM 売上高の推移 2013年~2016年>
<売上高(単位:10億ドル)>
98.3(2013年)→ 92.7(2014年)→ 81.7(2015年)→ 79.9(2016年)
<売上高成長率>
-4%(2013年)→ -6%(2014年)→ -12%(2015年)→ -2%(2016年)
近年の成長率は-2%~-12%になっており、減収減益が止まっていません。戦略的必須領域とレガシー領域に分けて売上高の動向を確認すると、レガシー領域が落ちる一方で、着実に戦略的必須領域が伸びていることが確認できます。
<戦略的必須/レガシーの売上高(単位:10億ドル)>
21.6/76.7(2013年)→ 25.1/67.6(2014年)→ 28.6/53.1(2015年)→ 32.8/47.1(2016年)
戦略的必須領域の売上高割合は41%まで上昇してきました。
<戦略的必須/レガシーの売上高割合>
22%/78%(2013年)→ 27%/73%(2014年)→ 35%/65%(2015年)→ 41%/59%(2016年)
それでは、一体、IBMの売上高がいつ増収増益に転じるのか?
…この答えは「戦略的必須領域がレガシー領域を上回る時」となります。今、密かに良いところまで来ています。
戦略的必須領域とレガシー領域の成長率を推定する
IBMの売上高のコンセンサス(アナリスト達の予想中央値)は次のようになっています。
<IBM 売上高予想(単位:10億ドル)>
79.9(2016年実績)→ 77.8(2017年予想)→ 77.7(2018年予想)
<IBM 予想成長率>
2017年 -2.6%
2018年 -0.2%
2018年には成長率がほぼ0%までに回復するという予想になっています。
このことを踏まえて、戦略的必須領域とレガシー領域のそれぞれの成長率を推定していきます。
それぞれ、直近3年間は次のように推移してきました。
<IBM 戦略的必須領域とレガシー領域の年間成長率>
この値を元にして、戦略的必須領域の予想成長率を15%前後、レガシー領域の成長率を-11%前後と見積もりたいところです。
しかしながら、最新の決算書を確認すると、戦略的必須領域の成長率は明らかに鈍化しています。特に直近の2017年2Qでは急ブレーキがかかって、過去1年間の成長率がプラス7%に急落しています。
<IBM 戦略的必須領域の年間成長率>
レガシー領域の年間成長率は少なくともマイナス10%程度になっているため、戦略的必須領域の成長率がプラス10%よりも下回った状態だと、かなり厳しい未来が待っています。
Next: 悲観、中立、楽観…3つのケースで予想成長率を推定すると?
3つのケースで予想成長率を推定する
このように現在のIBMが置かれている状況は不確定要素が大きくなっているため、3つのケースにわけて予想成長率を設定することにします。
<1. 悲観的なストーリー>
2017年2Qに、戦略的必須領域の年間成長率がプラス7%まで下落しました。戦略的必須領域の成長率はこのペースが続いて、レガシー領域の成長率はマイナス10%で推移すると仮定します。すると、シミュレーション結果は次のようになります。
<IBM 売上高の推移・悲観的なストーリー(単位:10億ドル)>
この想定では、増収増益に転じるタイミングは2022年になります。「悲観的なストーリー」と表現していますが、直近の決算内容を確認する限り、十分にありえるストーリーです。
現在、多くの投資家は「IBMの減収減益はしばらく続き、増収増益に転じるタイミングはまだ先だ」と見なしています。そのため、株価が140ドル代の前半まで落ちて、配当利回りが4%になっています。誰もIBMには期待しておらず、転換点が先だと思われているため、株価が低迷しているのです。
<2. 中立的なストーリー>
戦略的必須領域とレガシー領域の成長率がそれぞれプラス11%、マイナス11%と仮定すると、次のように推移します。
<IBM 売上高の推移・中立的なストーリー(単位:10億ドル)>
増収増益に転じるタイミングは2019年です。参考までにコンセンサスは次の値になっています。
<IBM コンセンサス・売上高予想(単位:10億ドル)>
79.9(2016年実績)→ 77.8(2017年予想)→ 77.7(2018年予想)
そして、上記の中立的なストーリーによる予想は次の通りです。
<IBM 中立的なストーリー・売上高予想(単位:10億ドル)>
79.9(2016年実績)→ 78.3(2017年予想)→ 77.7(2018年予想)
つまり、この中立的なストーリーはほぼアナリストの予想値と同じぐらいの推移になるという想定になっています。
<3.楽観的なストーリー>
戦略的必須領域とレガシー領域の成長率がそれぞれプラス15%、マイナス9%と
仮定すると、次のように推移します。
<IBM 売上高の推移・楽観的なストーリー(単位:10億ドル)>
増収増益に転じるタイミングはなんと2017年(今年中)となっており、現時点ではほぼあり得ない想定になります。IBMのことを積極的に評価しているアナリストでも、ここまで強気の人はいないでしょう。
2016年までの戦略的必須領域の成長率は15%前後で推移していました。この成長力を維持できれば、IBMは大化けする銘柄になっていたはずです。
しかしながら、2017年に入って、成長エンジンである戦略的必須領域の成長率に陰りが見え始めました。バフェットの3分の1売却という判断は、この楽観的なストーリーを破棄したとも受け取れます。
Next: 激しく落ち込んできたクラウド事業。それでもIBMは復活する!
クラウド事業が激しく落ち込んできた
ここ1年でIBMの戦略的必須領域の事業進捗に大きな変化が生じています。
まず、戦略的必須領域における、1年前の2016年2Qの状況と、直近の2017年2Qの状況を見比べてみましょう。
<2016年2Q 戦略的必須領域>
出典:IBM
<2017年2Q 戦略的必須領域>
出典:IBM
クラウドの成長率がこの1年間で30%から17%に下がっています。
現在、クラウドの分野はAmazonが最もシェアを伸ばしており、IBMは圧倒的に負けている状況です。
<2017年2Q 世界のクラウド市場のシェア>
出典:Synergy Research
IBMはAmazon、Microsoftの次に位置しており、3番手です。すぐ後ろにはGoogleという強敵が迫ってきています。しかも、IBMはAmazon、Microsoft、Google等と比べて立場的に不利な要素があります。
それはIBMはメインフレーム事業を抱えているため、顧客のシステムをクラウドに移行すればする程、メインフレームの売上高は減っていくという点です。いわゆる、カニバリゼーション(共食い)に陥ります。
IBMの「事業ポートフォリオの入れ替え」は成功するのか?
私はIBMが今進めている事業ポートフォリオを入れ替える戦略は、最終的に成功すると考えています(ただし、予定よりも大幅に時間がかかりそうですが…)。その理由を最も強く感じるのは、IBMの変化に対応する柔軟性の高さです。
今から25年前の1992年、IBMの売上高を主に支えていたのはメインフレームを中心としたハードウェア事業でした。
<1992年の事業構成(売上高)>
そして、2016年の事業構成を確認すると、ハードウェア事業はわずか10%まで下がっています。
<2016年の事業構成(売上高)>
事業部門自体が変わってしまって、まるで別会社のようです。事業ポートフォリオを変更できるというIBMのDNAは、大きな強みの1つだと思います。
IT業界とは異なりますが、思い出されるのはかつて写真フィルム市場を二分していた富士フイルムとコダックです。2000年の時点で、あと10年で写真フイルム市場の9割が消えると予想されていました。
当時、富士フイルムは写真フィルムで売上高の6割、利益の3分の2を稼いでいました。富士フイルムの「本業喪失」への対応はとても早く、写真のコア技術を生かして、化粧品、医療などの新しい領域に事業をシフトさせてきました。
一方、コダックは事業ポートフォリオを入れ替えることができず、写真フィルム市場の9割がなくなった影響を受けて、2012年に倒産してしまいました。
事業環境は常に変化していくので、自社の事業を市場の変化と連動して変えていけるのかどうかはとても重要となります。
まとめ
<1>
コンセンサスの値をベースに考えると、増収増益に転じるタイミングは2018年~2019年になる。
<2>
悲観的なストーリーを元にすると、増収増益に転じるタイミングは2022年以降となる(株式市場では悲観的な見方をされていて、株価が下落している)。
<3>
25年前のIBMと今のIBMとでは、まったく別会社のようになっている。かつてはメインフレーム事業が中心だったが、今はサービス事業が主体になっている。
<4>
IT業界という変化の激しい事業領域で生き残ってこれたのは、IBMが「変化できるDNA」を持っているためだと考えられる。
今のところ、IBMの事業はアナリティクス、クラウドなどの戦略必須領域にシフトしつつある状況です。市場の早い変化の速度に比べて、対応に苦労していますが、なんとか持続可能な状況だと私は見ています。
『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2017年9月10日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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