サブプライムローン問題に端を発した世界金融危機から7年。いまアメリカで新たな「返済は利息だけ」住宅ローンの貸出残高が拡大しているのをご存じですか?米金融監視当局は懸念を示しているものの、日本ではあまり報じられないこの問題。メルマガ『いつも感謝している高年の独り言』が解説します。
「返済は利息だけ」あの悪役サブプライム・ローンが復活
アメリカにおいて、サブプライム・ローンの中でも極悪レベルのものが再び登場しているとの報道を紹介します。
報道のポイント
★2008年の住宅バブル崩壊の悪役は住宅ローン市場に登場した「有毒ローン貸付」だったが、2015年の今、「返済は利息だけ」住宅ローンが再び登場している。
★この「返済は利息だけ」ローンを復活させたのは全米2位のUnited Wholesale Mortgage社。同社の社長は「消費者に色々な選択をして貰えるように自己責任で借りる住宅ローンを再び作った。この住宅ローンの対象は、FICOスコアが720以上(全米平均が680程度)の消費者で、サブプライム層ではないし、さらに頭金を20%前払いしなければならない条件なので、問題は起きないだろう」と主張している。
★もちろん「返済は利息だけ」ローンをUnited Wholesale Mortgage社自身が抱える事はせず、これらをまとめて証券化して一般投資家に売却する仕組みである。米国の住宅金融公社のファニーメイやフレディマックは、この種の「有毒ローン」を購入することはない。
ローン金利は最初は安く、5年後には金利の見直し、すなわち金利が上がることになる。債務の元本は返済しないので、30万ドルの不動産物件の場合は、現在であれば、金利は4.125%でスタートする。
この金利は30年固定金利ローンと全く同じ利率であるが、元本返済分の420ドル/月の節約となるのが利点である。10年経過した時点で、元本返済を開始しなければならないが、その途中でリファイナンス、すなわち新規のローンを組んで、元のローンの完済も可能である。
★金融監視当局の定義する有毒性住宅ローンとは、返済期間が30年を超えるもの、金利分のみの返済をするローン、返済額が異常に少なく債務が徐々に膨れ上がっていくローン等である。
住宅バブルの原因は、返済能力のない多くの消費者が、そのリスクを全く知らずに有毒性住宅ローンを借りて返済不能になったことである。
2008年当時は、金額の安い不動産物件の住宅ローンの有毒ローンだったが、今回の「返済は利息だけ」ローンは金額の高い不動産が対象であり、この物件は、結局、銀行資産としてバランスシートに計上されるものである。
★しかし、消費者ローンの専門家は「現在の住宅価格は全般に実体以上の値段が付いており、もしそれをリファイナンスするとその時点で問題、つまり現実の市場価格で見ると損失が出てきて、追加の資金が必要になるだろう。結局この種の『返済は利息だけ』ローンは、リスクが高いものになる。これで得をする消費者もいるかもしれないが、ほとんどの消費者にとっては、むしろ30年固定利率で住宅ローンを組む方が良いだろう」と結論づけている。
住宅価格が下がれば崩壊する「返済は利息だけ」ローンの脆さ
もし今後、住宅価格が下がれば、この「返済は利息だけ」ローンは崩壊のシナリオを再びたどる。
「返済は利息だけ」ローンの計算サイト
住宅価格が上昇するという楽観的な前提で住宅を買い、将来のある時点で高値で売り逃げをすると言うシナリオを描いて失敗したのは、わずか7~8年前のこと。
2000年を100とした住宅価格指数(ケース・シラー指数)
今回も同じ楽観的なシナリオがベースになっている。以前は貸付対象が貧困層であり、多くの人々がローンを焦げ付かせた。今回の対象は比較的余裕のある人々ではあるが、物件の金額が高額であり、それが焦げ付けば、その住宅担保証券を買った投資家は苦境に陥るだろう。
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再び破綻に向かいつつあるファニーメイとフレディマック
2015年3月18日に米国連邦住宅金融機関の監査官の報告書が提出されました。ファニーメイとフレディマックの2つの住宅金融公社の健全度の監査です。報告書のタイトルは「今後も収益が安定して得られるかは疑問」です。それを紹介します。
ポイント
★2008年のサブプライムローン危機のとき、その有毒性住宅ローンを買い集めていたのは、米国住宅金融公社のファニーメイとフレディマックだった。その毒素により、この2つの巨大金融公庫は倒れ、アメリカ国民の税金で救済されて今日に至っている。
★米国連邦住宅金融機関の監査官報告によると、この2つの住宅金融公社は最近特に利益を減らしていて、自己資本も減っており、もし経済が悪化すると、体質の脆弱化が進むと警告している。2008年に実質国有化した時の救済注入資金は187.5B$であった。
ファニーメイの場合は、前前年度の純益が6.5B$だったのが、前年度では1.3B$に。フレディ・マックは、前前年度の純益が8.6B$だったのが、前年度では0.227B$に減っているのである。
実際の報告書の中身は?
(ア) 2つの住宅金融公社の利益を見ると、2008~2009年は100B$前後の損失を抱えていた。この損失は2010年に劇的に改善し、2013年には140B$近くの利益を出した。しかし2014年には20B$程度に再び利益は縮小している。灰色がファニーメイ、青色がフレディマックです。
(イ) 2012年から2014年の利益構成です。青色が一時的な収入(無理矢理出させた人工的利益)で、灰色が本来の収入源から得られた利益です。
(ウ) 不動産担保証券の保有者(投資家)の構成推移です。1985年から2014年第1四半期の期間です。構成区分は、水色はその他の投資家、茶色がREITです。少ないですね。黄色がGSE、政府支援機関で、少ないです。緑色が海外の投資機関、赤色は内容が分かりません。青色は保険会社、年金基金、投資信託等です。
注目すべきは紫色です。これは米国連銀です。2009年から、腐敗した住宅担保証券を買い入れてサポートしたのです。言い換えれば住宅金融公社の損失を代わりに吸収したのです。それで上述のように2010年にファニーメイとフレディマックの収益は劇的に改善したのです。そのかわり、米国連銀内部には腐敗資産がゴロゴロ状態となっているのです。
(エ) 折線グラフは一戸建て住宅ローンの破綻率、焦げ付き率です。さすがに2008年(赤色)以降設定の住宅ローンは貸し出し基準を厳格に引き上げたので破綻率は低いのですが、2006年(青色)設定ローンは8.5%、2007年(紺色)設定ローンでも9%と現在も高く、今後もさらに上昇する勢いを見せています。2005年(橙色)設定の住宅ローンでさえも5%と予断を許さない状況です。これを米国連邦住宅金融機関の監査官は心配しているのです。破綻すれば、そのローンからの返済がなくなり、収益はゼロどころか、大損失となるからです。
(オ) ケースシラー住宅指数30年チャートで見ると、現在の住宅価格は高すぎると思われます。
(カ) 15年チャートで視点を変えて見ましょう。現在の価格は170レベルであり、2008年と同じです。これから185に向かうのか、または150へと向かうのか、それとも135程度で留まるのか、さらに下落するのかは分かりません。しかし、もし再び住宅ローン返済ができなくなるような超不況が来れば住宅価格指数は下がるはずです。そうなれば、売却して差益を得ることなど不可能となり、破綻件数も再び上昇し、2つの住宅金融公庫はまたもや倒産となります。
この警告レポートに対して、住宅金融公社からの回答、対策はないようです。次の再破綻の際には、再び国民の税金で再生してもらうことを願っているのでしょう。
※太字はMONEY VOICE編集部による