元日本株ファンドマネジャーの若林利明氏が、アベノミクス相場が始まった2013年から2015年10月末までのマーケット動向を総ざらい!と言っても今回はむずかしい話はなし。各年の相場を「料理のメニュー」に例えて、分かりやすく振り返っていただきました。
フルコース相場、アラカルト相場、デザート相場をこなした日本市場
今後のヒントは過去の市場にあり
理論的な話ではありません。あくまで経験上体得したものですが、私は市場予測に際して70%は過去の市場の中にヒントが隠されていると思っています。
それを時系列に捉えることで、今後をより明確化できると考えます。
残りの30%は誰も知りえない何かが市場を作っていると感じます。その30%の不透明部分の透明度を増すことができるのは、適切に企業業績の中期的方向性を掴むことにあると考えています。
今回の話は過去の市場の動き、つまり70%部分からヒントを探し出す試み。その方策についての内容です。
と言っても、堅苦しい理論を並べるつもりはありません。最もリラックスした方法で説明します。
頭ではなく“腹”で捉える!アベノミクス開始以来のマーケット
2012年衆議院総選挙で安倍政権が誕生、そこから東京株式市場の大躍進が始まりました。ここではアベノミクス誕生以来の相場を年毎に切り、「食事」の内容に例えてみました。
頭で考えることから“腹”で考えるのもたまには良いかもしれません。無論、大雑把な話ですが、この先の市場展開について何かのヒントが得られると思います。代表銘柄の年毎の動きと市場平均(日経平均)を表にしました。
今年2015年に関しては、10月末までのデータで切りました。下段には市場の株価形成にもっとも影響力のある外国人投資家の売買金額も表示しました。それでは各年を吟味します。
年間株価騰落率と外国人投資家の売買金額 ―2013年~2015年(2015年は10月まで)―
2013年の相場…フルコース相場(日経平均+57%)
2008年のリーマンショックから2012年まで続いたボックス相場の間に溜まったエネルギーが爆発したような相場です。日本を代表するような企業が行列をなして上昇しました。
業種内容的に見ても、いわゆる外国人好みと言われる優良株に選別的に買いが入るといった状況ではなく市場全体が網羅的に買い進まれました。
つまり2012年秋まで続いた空腹状態にフルコースのディナーが提供され、それを十分堪能したような相場と言えましょう。
ハイテク絡みの銘柄、金融業界、不動産業界まですべての業種を食し満腹状態になったと言える状態です。15兆円強の年間買越し金額は史上最高額です。
2014年の相場…アラカルト相場(日経平均+8%)
年間を通じて外国人投資家の買越し額は8526億円と大幅ダウンしました。内容的には銘柄の選別色が目立った年です。2013年で、すでに空腹は満たされている状態であり、これ以上の買いは“より”美味しさを実感できるもの、つまり、より選別色が強くなることは自然の流れでありました。
ソニー<6758>、村田製作所<6981>、そして王様のトヨタ自動車<7203>等ハイテク優良株と言われる銘柄が2013年から継続して買われました。食事に例えれば、内容を吟味するアラカルト相場です。
またこの表にない中堅銘柄も大いに選別的に買われました。その種のアラカルト銘柄としての典型はキッコーマン<2801>です。醤油文化の海外での普及が外国人投資家の目に留まるようになり49%の上昇です。
キッコーマン<2801> 週足(SBI証券提供)
同様にアラカルト銘柄としてスポーツシューズの海外展開が好調なアシックス<7936>は62%の株価上昇を記録しました。
アシックス<7936> 週足(SBI証券提供)
日本人投資家では見逃しがちな、海外での展開が評価された動きです。ハイテク銘柄並みの外国人保有株比率を記録、さらにハイテク銘柄に負けない高PER銘柄となりました。市場平均8%の値上がりと比べてこの種の銘柄は満腹状態でも十分食するに値する銘柄であったようです。
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2015年…デザート相場(日経平均+8%:10月末)
今年は残り2ヶ月ですが、このままで推移すると外国人投資家は売越しの年になりそうです。アベノミクス登場以来の円安を考慮しても、2013年以来の株価上昇後とあって多くの外国人投資家は利食い状態になっています。
日経平均2万円の達成後から、売買代金が極端に薄くなりました。よほどのサプライズ銘柄でもなければ積極的買いに入らない状態です。ときどき、面白そうな銘柄を若干つまむ程度の動きです。あたかも満腹時のデザート選びのようです。
その間、中国株の暴落の影響を受け東京市場も崩れかけますが、その動きの落ち着きとともに、相場全体を見渡し利益の中身を再度吟味、美味しそうなものにとりあえず打診的な買いを入れているのが現在の様子です。
日経平均株価 週足(SBI証券提供)
満腹状態での「美味しいもの探し」は続く
当面これまでの余韻で満腹感は残るようですが、低金利という消化機能促進剤が働く市場環境下では、美味しいものに対して食指が伸びる余力はまだありそうです。
特に直近、10月に見られたように外部要因により売り込まれ安くなった株価を、美味しく食べられる価格として物色する動きは健在です。デザートを食べながら、じっくりと美味しく食べられるものを待つ姿勢は今後も重要かもしれません。
筆者プロフィール:若林利明
外資系機関投資家を中心に日本株のファンドマネージャーを歴任。現在は創価女子短期大学非常勤講師、NPO法人日本個人投資家協会協議会委員。世界の株式市場における東京市場の位置づけ、そこで大きな影響力を行使する外国人投資家の投資動向に精通する。著書:「資産運用のセンスのみがき方」(近代セールス社)など。
『投資の視点』(2015年10月11日号)より一部抜粋
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