日本伝統文化に切り込む「印鑑レス化」には、印鑑業界から「待った」がかかりました。日本人はこれからも当分の間、ハンコを持ち続ける必要があります。(『らぽーる・マガジン』)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2019年3月11日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
印鑑業界を守るため?ハンコを使うのは日本・台湾・韓国だけ…
日本人は今後も「ハンコ」に縛られ続ける…
日本伝統文化に切り込む「印鑑レス化」には、印鑑業界から「待った」がかかりました。
自民党は3月7日、行政手続きの100%オンライン化を目指す「デジタル手続法案」を部会で了承しました。法案には当初、法人を設立する際に必要な印鑑の届け出の義務化をなくす案が盛り込まれていましたが、印鑑業界の反発などを受けて見送られました。
今回はこのことから見えてくる問題を取り上げていきます。
まず「デジタル手続法案」とは何か、から見ていきましょう…。
デジタル手続法案とは何か…
デジタル手続法案は、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室が中心となっているもので、「デジタルファースト法案および各省庁デジタル・ガバメント中長期計画」に基づくもののようです。
それにしても法案って、タイトルが長いというか、それなりの言葉を並べると言うか、もっとすっきりとしたものにはならないのでしょうかね。わざとわかりづらくしているところがあり、玉虫色に包むようなところがありますよね。まさに「霞ヶ関文学」と言えそうです。
何でも「ファースト」をつければいいというものではなく、どうも「○○ファースト」という表現は好きになれませんね。
この法案は「業務改革(BPR)の徹底とデジタル化の推進」が基本コンセプトとなっていて、具体的には「オンライン化の徹底と添付書類撤廃」となっています。
この法案策定に関するヒアリングとして、
- 関連する手続について、関係する省庁で官民共用システムを構築している事例
- 国及び自治体で連携してワンストップサービスシステムを構築している事例
- 定款について、当該法人のホームページに掲載されている定款を確認することにより添付を省略している事例
- 住民票の写しや課税証明書について、行政機関間の情報連携により添付を省略している事例
- 同時に求めている複数の添付書類で同じ情報を確認していることが判明し、重複を排除した事例
が挙げられています。「なるほど」と思う部分はありますね。
これらに基づき、情報通信技術を活用した行政の推進の基本原則として、
- デジタルファースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する
- ワンスオンリー:1度提出した情報は、2度提出することを不要とする
- コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する
が掲げられました。
つまり「オンライン化」を徹底することで、行政手続きの簡素化や添付書類の撤廃を図ろうとするものです。
ただし、オンライン実施は「原則」であり、地方公共団体には努力義務となっています。
その実現には、本人認証の強化としてマイナンバー制度の徹底が必要とされています。
この流れの中に、法人設立における印鑑届出義務化の廃止を盛り込んでいたところに、印鑑業界が猛反発したのです。
Next: 海外では「電子署名」が主流。いまだにハンコを使うのは日本・台湾・韓国だけ…
海外では「電子署名」が主流
いまや電子署名が普及していて、様々な契約の場で印鑑不要で行われる場面が増えています。
まさに海外では「サイン」中心で、印鑑を使っているのはごくごく少数派。そもそも海外では印鑑などは存在しないでしょう。印鑑の材料として象牙がもてはやされ、日本が世界の非難をあびた経緯もあります。
風水などの占星術とも結びつく印鑑ですが、それを「日本文化」とか「伝統」とかで容認するのは、もはや説得力を持たないような気がするのですがね。
日本での契約や商取引で印鑑が登場する場面を考えて見ますと、
- 実印:土地購入、車の購入、ローン契約など
- 銀行印:銀行口座開設、預金の引き出しなど
- 認印:履歴書、婚姻届、請求書、郵便物の受け取りなど
がありますね。
これらの印鑑は実印を除き、100円ショップやホームセンターなどでも売られている大量生産の安価な、いわゆる「三文判」で事足りるのです。
こんな程度の形式は、本当に必要なのでしょうか。三文判がないだけで手続が止まってしまうことに、なんの合理性があるのでしょうか。
世界で普及しつつあるデジタルな本人確認手段には、「電子署名」「ID・パスワード」「フォーム入力」といった方式があります。
海外の例では、「国民ID(国民識別番号)」とパスワードにより、あらゆる契約や行政機関の手続きがオンラインで完結するところまで行っている国があります。
この議論では、日本では「マイナンバー制度」普及の必要性に触れられますが、このことに関しては先週号で詳しく検証しました。
ハンコを使うのは日本・台湾・韓国だけ…
FAXやガラケーがいまだに現役なことに驚く訪日外国人は多い…。
これは、Newsweekにフォトジャーナリストの内村コースケ氏が投稿した記事に書かれている一文ですが、この続きで、内村氏は、日本の「ハンコ文化」について書かれています。その一部を掲載しますと、以下のように指摘されています。
現在、印鑑登録制度を取り入れているのは、日本と、統治・併合時代に日本から導入した台湾、韓国以外にはない。ちなみに、台湾の印鑑はフルネームのオーダーメイドが普通で、量産品の三文判はないようだ。印鑑の発祥の地である中国本土では、土産物や工芸品としての印鑑は一般的だが、社会制度的には欧米と同じサイン文化だ。
韓国では、日韓併合時代から印鑑登録制度が100年余り続いたが、ハングルは画数が少なく偽造しやすいことなどから、2014年までに段階的に全廃する法案が提出された。ただし、業界団体の反対等で先延ばしになっており、まだ全廃には至っていないようだ。それでも、廃止は時間の問題と見られ、近年はサインと電子認証が普及し始めている。
出典:同上
現在世界中で「ハンコ」を使っているのは、日本と台湾や韓国とありますが、台湾や韓国は日本から押し付けられたもののようで、実質ハンコ文化は日本独特のものであるということですね。
内村氏は、日本土産として外国人観光客に「ハンコ」が人気であることを挙げながら、それは実用品としての「ハンコ」とは分けて考えるべきで、日本の「ハンコの未来」を考えなければならないと述べておられます。
Next: 選挙のために業界圧力に屈した?国民の利便性は二の次なのか…
選挙のために業界圧力に屈した…?
この印鑑業界の圧力に屈して、自民党案から「印鑑レス」の項目を削除したのも参議院選挙のためです。選挙のためには主義主張も変える、選挙のためには住民サービスは「二の次」と言っているようなものです。
事実、夏の参議院選挙後の臨時国会には、再び押印の簡略化に向けた議論が行われるとみられているという報道もあります。
民意とは何か…。民主主義において、国民の意思を伝える唯一の手段は「選挙」です。
以前、当メルマガでも「組織票」について取り上げました。2017年10月23日配信号ですが、そのときに「現場から見える組織票」というタイトルで、現場の生情報をご紹介しました。
その一部を引用しますと…、
地元では、子供達のスポーツ団体が加入する○○協議会の理事等を自民党の市議会議員がつとめています。自民党議員に投票するようにと、各団体に働きかけがあり、監督さんからお母さん達に説明があります。そして○○さんが勝たないとグランドの割り当てが無くなるんだって!とお母さん達の間で話がまとまります。地域の福祉協議会では、各地区の役員が会議名目で召集され、翌年度以降の市からの予算について説明があり、自民党の○○さんがご尽力下さいますという説明があります。
選挙期間中、仕事は午前中だけ、午後は従業員全員電話がけで自民党候補を推す会社があるという話をしてくれた方の友人が勤めている会社で、会社ぐるみで、自民党候補の応援。もちろんこれは本人の自発的意思ではないし、業務の一部としてやらされていて、給与も支払われている…。
選挙には組織票と浮動票というのがあり、組織票は固定されるので読みやすく、効率的に集票できるので、政治家はどうしても組織票を欲しがります。
そうなると組織側も、票を差し出す見返りに利益を求めてきます。いわゆる業界利益です。
政治家は、次回選挙にも影響するので大きな票田組織には利益を誘導するということを行うでしょう。当然、そのようなことはないと否定はするでしょうけどね。
業界利益を守るために、業界は政治家を応援(献金や集票)し、政治家は次回以降も協力を求めるために優遇します。
選挙結果が民意である…。
それは民主主義の大原則ではありますが、実際には「ゆがめられた民意」という懸念も一部にはあり、でも現在の間接民主主義、代議制ではどうしようもないのでしょうね。
Next: 「印鑑レス」はまだまだ先か。業界利益を守っていては技術革新は進まない…
「印鑑レス」はまだまだ先か
いずれにしても、デジタル手続法案で、印鑑レスの動きが止められたことは事実で、それが印鑑業界の圧力に屈した政治家という構図があることが報道されているのです。
・業界利益を重んじるばかりにイノベーションが遅れていく…
・労働者を守るためにイノベーションは進まないのか…
・日本伝統文化とイノベーションは相容れないものなのか…
「印鑑レス」の話題から大きく広がってしまいましたが、そんなことを考えてしまいますね…。
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・デジタル手続法案 印鑑レスに待ったがかけられた…/日本ポーカープレイヤー世界チャンプから学ぶ(3/11)
・やや「リスク・オン」の様相かな…/中国の野望「北極海開発」と「宇宙戦争」(3/4)
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『らぽーる・マガジン』(2019年3月11日号)より一部抜粋
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