『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』は、めまぐるしく変化する世界の経済や市場の動きなどについて、ブーケ・ド・フルーレット代表の馬渕治好氏が分かりやすく解説するメルマガです。今回は2月9日(火)の株価急落をうけて配信された号外(2016/2/9 12:30配信分)をご紹介します。
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日経平均株価終値918.86円安、米ドル/円115円割れ(2/9)
今度は先進国発パニックだが、1月に並んで売られ過ぎとの見解変えず
本日の日本市場では、再度(再々度?再々々度?)株価や外貨の売られ過ぎの様相が極度に強まり、パニック的な色合いも帯びています。
前場の日経平均株価は、前日比で800円以上下げて16200円を割り込み、米ドル円相場も、たびたび115円を割れています。
(※編注:大引けの日経平均株価は918.86円安の16085.44円、15:00現在のドル/円は114円70銭台で推移している)
日経平均株価 1分足(2/9) (SBI証券提供)
米ドル/円 1分足(2/9 15:00) (SBI証券提供)
ただし、こうした(特に日本の)株価の下落や外貨安は、1月下旬と並んで行き過ぎの感が強く、この先も心理的に不安定な激しい相場の上下動は懸念されるものの、早晩適正水準への回帰(株高、外貨高・円安)を再開するものと予想しています。
最近の当メールマガジンでは、1月の相場波乱は、中国をはじめとした新興諸国経済の不安や、それによる新興諸国株・通貨への売りと、エネルギー価格下落による産油国への懸念といった、どちらかといえば先進国より新興諸国に対する心配が中心であったが、足元の波乱は、米ドルの独歩安という面が大きく、その背景には米国経済についての行き過ぎた懸念(たとえば米国がリセッション入りする、など)があり、不安の様相が変化している、と指摘していました。
昨日の欧米市場から本日の日本市場にかけての波乱要因も、先進国発です。
まず欧州では、ドイツなど諸国の金融機関の経営不安が囁かれ、銀行株が大きく下落しました。たとえば個別の銀行株では、ドイツ銀行の株価が前日比9.5%も下落しています。
銀行株の売りの理由としては、エネルギー関連企業向けの融資が不良債権化するのでは、とか、マイナス金利が銀行収益を圧迫するのでは、などの観測が挙げられています。また、欧州の金融機関は、収益悪化に備えて、人員リストラを進めているところも多いです。ただ、そうした動きは、昨日急に起こったことではありません。
米国では、石油・天然ガスの開発会社であるチェサピーク・エナジー社が、債務再編(様々な借入金を取りまとめたり、おそらく債務縮小のための方策を検討する)のため、法律事務所と協議に入ったと報じられました。このため、同社が破たんするとの懸念が広がりました(同社は否定)。
しかし昨日(2/8月)は、S&P500指数の業種別指数で、エネルギー株指数は前日比で0.28%上昇しています。つまり、仮にチェサピーク・エナジー社が破たんしたとしても、それで業界再編が進み、エネルギーセクター全体としては体質強化につながり、プラスではないか、と市場が判断していることがうかがえます。
以上を踏まえると、もともと欧米株式市場で、何だかわからないが何となくの不安があって、欧州では今さら銀行を悪材料に担ぎ上げて売りで騒ぎ、米国ではチェサピーク・エナジーの件を口実に、エネルギーと関係がない株に売りが嵩んだ、ということだと考えます。
Next: 一時の全世界的なリスク回避的様相は薄らいできている
このように、悪材料が新興国から先進国に移ってきた感がありますが、これは見方を変えれば、一時の全世界的なリスク回避的な様相が薄らいできている、と前向きに解釈することも可能だと考えます。
なお、日本株の下落率(前場終値で、日経平均は前日比4.92%、TOPIXは5.03%下落)が、米国株の下落率(たとえばニューヨークダウ工業株指数は1.10%の下落)と比べ突出していますが、これは特に日本株が、(いつものことですが)世界のどの国のどんな不安材料に対しても最も過敏に反応することが多い、という点と、米ドル安・円高が日本株の悪材料として大きく働いている点があります。
米ドル安の背景は、日銀のマイナス金利導入で米ドル買い・円売りを入れた向きが、最近の市況反転で投げていることがあると考えられ、そうした米ドルの投げ売りは、短期的に一巡すると見込みます。
また、実態面では、米国株の下落や、米国経済に対する疑念が、米ドルの売り材料となっています。ただ、これは2/7(日)付の当メールマガジンでも述べたように、米経済がリセッション入りするという観測は、2/5(金)に発表された雇用統計などを見る限り、行き過ぎた懸念です。ましてや、米連銀が今後利下げを行なうわけでもないでしょうから、米ドルもいずれ対円で底入れ反転すると予想します。
なお、日本を含む先進諸国の政府・中央銀行の為替相場に対する姿勢は、為替相場は市場に任せる、というものです。特に、ある水準が高過ぎる、あるいは安過ぎる、として為替市場に介入することは、基本的に先進国間では容認されません。この点で、たとえば日本政府や日銀が、115円割れの円高という水準自体が問題だ、として何かの行動を起こすことは難しいです。
ただ、一方で、各先進国共、「為替相場の過度の変動は好ましくない」という見解は一致しています(自国通貨高であれ、自国通貨安であれ)。これは、為替相場の方向や水準は別としても、為替相場が短期的に大きくぶれると、経済活動や市場動向に悪影響を生じかねないためです。
月初2/1(月)に121円台にあった米ドル円相場が、本日2/9(火)に115円を割れている、というのは、営業日5日強で6円以上の値幅ですから、誰がどう見ても「過度の変動」でしょう。
とすれば、「過度の変動に対処する」という意味合いで、まず日銀がレートチェック(為替を取引する銀行に電話取材し、それとなく足元の為替変動を好ましく見ていない旨を示してけん制する)を行なう、あるいは財務相や日銀幹部が、為替の急激な動きをけん制する発言をする、といったことはあってもおかしくありません。
『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2016年2月9日号外)より
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による
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