ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社(以下ガンホー)の株主総会に行ってきました。会場はとても広く、出席していた株主数は把握できませんでした。ですが、ガンホーの株主数は、株主総会招集通知によれば122,584名。ちなみに、日本一大きな企業であるトヨタの株主数は496,859名(トヨタウェブサイトより)。トヨタの利益は約2兆円。ガンホーは約400億円。規模に対して、非常に株主が多いと感じます。個人株主が多いためでしょう。
一部上場企業になったものの、株価が上がらない点には、やはり多くの株主が疑問を抱いているようです。(『平林亮子の晴れ時々株主総会』平林亮子)
プロフィール:平林亮子(ひらばやしりょうこ)
公認会計士。公認会計士集団アールパートナーズ代表。大学3年次に公認会計士試験に合格し、大手監査法人勤務を経て、2000年に25歳で独立。ベンチャー企業のコンサルティングを行うかたわら、テレビ朝日モーニングバードのレギュラーコメンテーターを務めるなどマスコミなどでも活躍。講演活動も多数。著書は40冊を超える。毎月どこかの上場企業の株主総会に個人株主として参加するという変わった趣味を持つ。
中国市場での成否が鍵を握るガンホー<3765>株主総会レポート
市場変更でステップアップのはずが冴えない株価
2015年は、このメルマガで触れたJASDAQ市場に上場している企業のうち2社が東証一部へと市場変更を果たしました。ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社、株式会社第一興商です。ガンホーは、「パズル&ドラゴン」というスマホ向けゲームを提供している企業。株式会社第一興商はビックエコーというカラオケボックスを展開している企業です。
一部に市場変更をするためには、株主数や流通している株式の数、時価総額、利益など一定の要件を満たす必要があります。たとえば、株主数が2,200人以上、流通株式数が2万単位以上(もしくは上場株式のうち35%以上が流通)、時価総額250億円以上など、クリアすべき基準があるのです。
それだけの厳しい審査を通過した場合のみ認められるため、やはり、一部上場企業になるということは企業にとってのステップアップなのです。
また、JASDAQやマザーズなど、いわゆる新興市場では、個人投資家による売買が中心であるといわれています。それに対して市場第一部では、プロの機関投資家や外国人投資家が活発に取引をしています。そのため、取引量や売買代金も増加し、株価が高くなる可能性もあるというわけです。
年間の上場料は若干高くなりますが、それだけのメリットはあるのでしょう。
実際に第一興商は、市場一部に変更後、株価が上昇に転じて取引量も増加しています。もちろん、それが市場変更の影響とは言い切れませんが。
一方ガンホーは、350円前後だった株価が市場変更後に一時的に400円前後になったものの、その後、250円を切るところまで落ち込み、現在は300円前後をさまよっているという状況。さらに、2015年12月の決算は減収減益という結果に終わりましたから、現実は厳しいものだなぁ、というのが素直な感想です。
ガンホー・オンライン・エンターテイメント<3765> 週足(SBI証券提供)
ガンホー株主総会「どうして株価が低い?」の質問も
さて、そんなガンホーの株主総会に行ってきました。昨年同様、都内ホテルの宴会場で行われました。会場はとても広く、出席していた株主数は把握できませんでした。ですが、ガンホーの株主数は、株主総会招集通知によれば122,584名。ちなみに、日本一大きな企業であるトヨタの株主数は496,859名(トヨタウェブサイトより)。トヨタの利益は約2兆円。ガンホーは約400億円。規模に対して非常に株主が多いと感じます。個人株主が多いためでしょう。
一部上場企業になったものの、株価が上がらない点には、やはり多くの株主が疑問を抱いているようです。
株主からは「どうしてこんなに株価が低い?」との質問が投げかけられました。
森下社長も坂井CFOも「個人的な感想としては私も低いと感じている」と前置きするも、「株価はマーケットが決めるもの」と言わざるを得ない状況。
別の株主からは「某証券会社に勧められて800円台の時に購入しました。その後、ナンピン買いをしていたら、今度は証券会社から他の株を勧められました」との告白が。
ナンピン買いとは、株価が下落した際に買い足すこと。下落時に買うことで、購入単価が下がり、利益が得やすくなるのです。例えば、800円で購入した株は、800円以上で売らないと利益が出ません。そこで、400円に下落した時にもう1株購入します。すると2株で1,200円つまり1株600円になる計算。そうなれば、株価が600円以上になれば利益が出るというわけです。
さて、株価の面では、市場変更の恩恵は感じられませんが、実は1つ、今回の株主総会で「去年と違う!」と感じた点がありました。それは、森下社長の姿勢です。去年より、毅然としている。言葉にもパワーがある。もちろん、社長が毅然としていても減収減益が続くようでは心配ですし、株価の上昇がなければ納得いかない株主さんもいるでしょう。ただ、一部上場企業の社長である、ということが、背筋を伸ばす材料になるのなら十分に意味のあることだと感じました。立場が人を作る、という言葉がありますからね。
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続く国内・パズドラ頼み。海外の売上割合は「10%に満たない」
とはいえ、ガンホーを取り巻く状況は、甘くはありません。株主総会の冒頭で、業績等についてナレーション付きの動画により説明がありました。その中でパズドラ以外のゲームのダウンロード数なども報告されていましたが、今でも売上の88.6%をパズドラ関連でまかなっているのが現実です。
平成26年のパズドラ関連売上は、158,320百万円で売上の91.5%を占めていました。パズドラ以外の売上が14,749百万円。
平成27年は、パズドラ関連売上は、136,779百万円で売上の88.6%を占めています。パズドラ以外は、17,550百万円。
パズドラ以外が2,801百万円増加しているとはいえ、パズドラの売上減少分をまかなえるほどではありません。
「海外の売上割合はどのくらい?」という株主からの質問に対し、「10%に満たない」と森下社長。
北米版のパズドラが900万ダウンロードを突破したとの報告がなされたものの、それが売上に結び付くとは限らないということがよくわかります。今後は「海外で過半数以上を目指す」と森下社長。北米でもCMを打つなど、積極的に動いているようです。
iPhoneゲーム売り上げランキング(日本・米国・中国)
ちなみに、Appgraphyによれば、日本における執筆日のiPhoneゲーム売上ランキングは以下の通り(カッコ内はゲーム提供企業)。
1位 モンスターストライク(ミクシィ)
2位 パズル&ドラゴンズ(ガンホーオンラインエンターテイメント)
3位 ディズニー ツムツム(LINE)
4位 アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ(バンダイナムコ)
5位 実況パワフルプロ野球(コナミ)
6位 グランブルーファンタジー(Cygames)
7位 白猫プロジェクト(コロプラ)
8位 Fate/Grand Order(Aniplex)
9位 ドラゴンボールZ ドッカンバトル(バンダイナムコ)
10位 星のドラゴンクエスト(スクエアエニックス)
パズドラは、日本ではまだまだ、人気コンテンツであり、稼ぎ頭であることがわかります。
それに対して、アメリカのランキングは、まったく異なります。
1位 Clash Royale(Supercell)
2位 Game of War ─ Fire Age(Machine Zone)
3位 Mobile Strike(Epic War)
4位 Clash of Clans(Supercell)
5位 Candy Crush Saga(King)
6位 Candy Crush Soda Saga(King)
7位 MARVEL Contest of Champions(Kabam)
8位 MADDEN NFL Mobile(Electronic Arts)
9位 Summoners War(Com2uS Corp)
10位 Slotomania Casino – Las Vegas Free Slot Machine Games ─bet, spin & Win big(Playtika)
CandyCrushは、日本でもテレビCMを見ることがあります。8位の「MADDEN NFL」はアメフトのゲーム。さすがアメリカです。日本でアニメ系のゲームが上位に来るのに対して、違いが浮き彫りになるものですね。
ついでに、中国のランキングは以下の通り。
1位 梦幻西游-欢乐庆典 功成礼不停(网易移动游戏)
2位 王者荣耀:大魔王Faker推荐-腾讯第一5V5英雄公平对战手游(Tencent Mobile Games)
3位 龙珠激斗(Tencent Mobile Games)
4位 大话西游-十三年经典来袭 一款游戏 一生朋友(网易移动游戏)
5位 部落冲突:皇室战争(Clash Royale)(Supercell)
6位 穿越火线:枪战王者-火线大乱斗,点燃2016最强战火(Tencent Mobile Games)
7位 拳皇98终极之战OL-可以玩的格斗家故事!全新列传玩法来袭(Tencent Mobile Games)
8位 全民飞机大战(Tencent Mobile Games)
9位 火影忍者-官方正版(Tencent Mobile Games)
10位 剑与魔法-3DMMO浪漫冒险手游(chong li)
……すいません。ほとんど読めません。
なお、アメリカのランキングに出てくるSupercellは、ソフトバンクの子会社でフィンランド(ヘルシンキ)の企業。また、中国のランキングに出てくるTencentは中国の企業で、とあるレポートによれば、モバイルゲームでの売上世界一だそうです
日本で1位となっているモンスターストライクは、中国市場へと進出しましたが、ゲームに対する文化の違いからうまくいかなかったため、すでに撤退。モンスターストライクの中国進出も、かなりの期待を背負っていたのですけれど、上記ランキングを見ても、それぞれの国によって事情が異なるようですね。
一方、パズドラは、上記のTencentと共同で、中国市場向けのパズドラを1から作り直したそうです。現在、リリース時期を調整中とのことですが、中国市場での成否は、今後のガンホーの運命を左右することでしょう。
余談ですが、今回参照したAppgraphyは、株式会社インタースペースというIT企業が運営している無料情報サイトですが、アプリの分析を専門にしているApp Annieという企業も有名です。App Annieの日本法人のサイトはこちら。ゲームのみならず、アプリ全体について分析している専門企業です。
さて、ガンホーにとってパズドラは売上の90%を生み出すエースであり、それがなくなったら現在のガンホーとはまったく異なる企業になってしまうほどのリスクでもあります。明日突然、パズドラの売上がゼロになることはないにしても、エースに活躍している間に、次の柱が育つことを祈ります。
Next: 大株主に注目!森下社長「ソフトバンクからの影響はなく独立して経営している」
森下社長「ソフトバンクからの影響はなく独立して経営している」
一番の大株主は、合同会社ハーティス。孫泰蔵取締役の資産運用会社です。続いて、ソフトバンクグループ株式会社、ソフトバンク株式会社。さらに合同会社孫エクイティーズ。孫氏の企業ですね。そして、森下社長。さらにさらに、孫インベストメント合同会社。ここまでで約60%。
森下社長の比率は約1%ですから、株主は孫氏一色です(笑)。「ソフトバンクからの影響はなく、独立して経営している」と森下社長はおっしゃっていましたし、それは本当だと思いますが……。
ガンホーの業績メモ(100万円未満切捨)
ガンホーの平成27年12月期の業績は以下の通り。
売上高:154,329百万円(1,543億2,900万円、前期-10.8%)
営業利益:72,425百万円(724億2,500万円、前期-23.2%)
経常利益:72,606百万円(726億600万円、前期-22.4%)
当期純利益:43,432百万円(434億3,200万円、前期-30.0%)
総資産:108,078百万円(1,080億7,800万円)
純資産:90,356百万円(903億5,600万円)
自己資本比率:約82%
執筆時点での時価総額:約3,216億円
営業活動によるキャッシュフロー: 37,231百万円
投資活動によるキャッシュフロー: 41,173百万円
財務活動によるキャッシュフロー:-83,772百万円
キャッシュフローから妄想できることは、
- 営業活動によるキャッシュフローがプラスであることから、本業でしっかりお金を得ている
- 投資活動によるキャッシュフローがプラスであることから、資産の売却をしたと推測できる
- 財務活動によるキャッシュフローがマイナスであることから、借入の返済や配当をした
といったところでしょうか。
キャッシュフロー計算書を見ると、定期預金を取り崩したことで、投資活動によるキャッシュフローがプラスになっていました。その資金を自己株式の取得に充てたために、財務活動によるキャッシュフローがマイナスになりました。
それでも株価が上がらない。マーケットというのは、本当に難しいものですね。
おまけ:今回のお土産
今回のお土産は、ガンホーのロゴ入りメモ帳とボールペン。このメモ帳がなかなかかわいい!昨年のお土産のミニ巾着も1年間使いましたし、実はガンホーのお土産が嫌いではない私です。
『平林亮子の晴れ時々株主総会』(2016年4月4日号)より
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このメルマガでは、毎月どこかの上場企業の株主総会に個人株主として出席している公認会計士の平林亮子が、株主総会での体験を基に、株式会社や上場企業について思ったところを自由に語らせていただきます。