社員を死に追いやったワタミ社長を政治家に仕立てた安倍官邸の責任

 

たぶん渡邉の思考法には、誰もが自分と同じような心身の力を持っているという奇妙な前提があるのだろう。それにしても、寝食を忘れて働けば、誰もが自分と同じように成功者になれると本気で考えていたわけではあるまい。

人それぞれに幸せの基準は異なっている。その差を認めず、同一色に塗りつぶしていくのが全社一丸、社業発展への道と考えているのかもしれないが、往々にしてそういうタイプの経営者は一種の教祖のようになりたがる

ユーチューブで「watanabemikioffice」というアカウントを検索すると、渡邉の動向を記録した多くの動画が出てくる。タレントのプロモーションビデオのようなものらしい。このうちの1つに「7泊8日ありがとうツアー」というのがある。まるで、テレビのドキュメンタリー番組のような仕立てだ。

笑顔をたたえて1人列車に乗る渡邉。プロらしき男性によるナレーション。

「渡邉は全国の社員に感謝を伝える旅に出た。社内にはなぜか渡邉ファンが多い。埼玉の食材加工センターで渡邉を出迎えたのはパートタイマーの主婦たち。もちろん、渡邉ファン…それにしてもこの中高年からの人気はただごとではない」

店の女子社員は喜びの涙を流して初対面の渡邉と握手し、数十人のパート主婦は渡邉の来訪に、歓喜の表情で拍手、先を争って渡邉が差し出す手書きメッセージ入りの名刺を受けとる…。

どこかの国の独裁者も顔負けの、自己礼賛ビデオ。どんなにカリスマ性があっても、画面のなかの全ての人たちが同じような笑顔を浮かべ、同じように行動することなどありえない。気味の悪い作り物というほかない。

ワタミは、自業自得とはいえブラック企業批判によるイメージダウンで業績が急速に落ち込み、存亡の危機にある。おせっかいなようだが、渡邉にとってはスター気取りを捨てるいい機会なのではないか。教育や政治に関してもそうだが、なにより1人1人の人間に対して、謙虚にならなければならないはずだ。

もっとも、安倍晋三や渡邊美樹らにそれを望むのが間違いかもしれない。彼らの「取り戻したい日本」というのは、国家や会社にひたすら奉仕し、権力や権威に唯々諾々と服従する人々の社会であろうから。

image by: Wikimedia Commons

 

国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋

著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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