値上げに伴うリスク
企業が今後の物価上昇や政府の価格統制、コスト増加を見越して、実際のコスト上昇分以上に値上げをすることを「予測価格設定」といいます。実は、この予測価格設定で多くの企業が失敗します。「物価上昇やコスト高を理由として値上げをすることを消費者は許してくれるだろう」という甘い判断で値上げを実行してしまい、蓋を開けてみたら消費者の反感を買ってしまっていたということが少なくありません。
物価を2年で2%上昇させるとしていた日銀ですが、物価上昇は今のところ弱含んでいます。2%達成の期限の延期論が出ているほどです。アベノミクスで株価は上昇傾向にあるものの、個人消費は低水準のまま横ばい圏で推移しており、値上げの根拠として物価上昇を挙げることは困難な状況です。
原材料の高騰に関しては、消費者の立場では原材料が本当に高騰しているかは判断のしようがありません。具体的な証拠を提示できれば問題はありません。また、多少の値上げであれば問題はないでしょう。しかし、実際のコスト上昇分以上に値上げをする「予測価格設定」に過剰に走ってしまうことで、消費者は値上げに疑問を感じるようになり、不信感を抱くきっかけとなってしまいます。先に挙げたユニクロの例が最たるものと私は考えています。
値上げの判断は慎重に行わなければなりません。特に予測価格設定の場合はなおさらです。値上げを行う場合は徐々に行った方が得策です。現代マーケティングの第一人者として知られ、経営学者のフィリップ・コトラーとケビン・レーン・ケラーは次のように述べています。
一般的に、突然の急な値上げより定期的な少額の値上げの方が消費者に好まれる。企業は不当に高い値段をつけているように見られることを避けなければならない」
(『マーケティング・マネジメント』第12版/丸善出版/p.571)
値上げは、不当に行われていないことを消費者に示して行うことが求められます。