裁判長 「不自然である…何らかの隠匿物が隠匿されていたと被告人は推認できた…隠せるものの1つとして違法薬物を思い浮かべたはずである…ムサの話を信用して来日したことと、スーツケースに怪しむべきものが隠匿されていることは、矛盾せず両立し得る…ムサの話を信用していたとしても、スーツケースに覚せい剤を含む違法なものが入っていたという推認を妨げない」
俺は思った。あれあれ? 来日の目的はあくまで「1700万米ドル」。スーツケースの中身は「贈り物」、つまりオマケだ。それが大量の女性下着と知って、あなたならどう考える?
日本では待つ者は、相当の下着フェチなんだな、もしかしてムサもか? 女装同性愛か? ひゃ~、見なかったことにしよう、俺ならそう考えるね。
しかし裁判所の結論はこうなのだった。
裁判長 「したがって被告人は、遅くとも香港で中身を確認したとき、違法薬物…(が隠匿されているとの)認識を有していたと考えられる」
真実はどうか知らないが、判決の言渡しを聞いて、俺は思った。これ、ほんとは無罪とすべき事件なのかも。
だが、覚せい剤の運び屋をぽろぽろ無罪にしたら、日本は世界の麻薬シンジケートからナメられ、薬物天国になってしまう。だから、とにかくスーツケースに覚せい剤が隠匿されていたら有罪とする。
本件被告人もまた、日本国を守るための、英語で言えばコラテラルダメージ。昔の日本の言葉で言えば人柱なのか。
原判決は懲役7年6月、罰金300万円なのだそうだ。そっちの未決算入は不明。
ちなみに通訳人は、丸1(丸数字の1)を、プチアン( petit un )と言った。プチとは小さい、可愛いの意味だ。そうなんだ~。
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『今井亮一の裁判傍聴バカ一代』
著者/今井亮一
交通違反専門のジャーナリストとして雑誌、書籍、新聞、ラジオ、テレビ等にコメント&執筆。ほぼ毎日裁判所へ通い、空いた時間に警察庁、警視庁、東京地検などで行政文書の開示請求。週に4回届く詳細な裁判傍聴記は、「もしも」の時に役立つこと請け合いです。しかも月額108円!
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