交渉のプロが解説。米が北を攻撃しても中ロは非難に留まる理由

 

【想像上の“軍事衝突”?!―煽られた恐怖心】

開戦があるのではないか!と恐怖心をあおっているが、可能性がほぼゼロなものは、米中直接対決と日ロ・米ロ間の衝突です。

まず、米中直接対決については、今年年初に習近平国家主席が「アメリカとの武力衝突に備えよ!」と大号令をかけたことで、「米中戦争の可能性が!」と大騒ぎをするニュースや評論家もいましたが、この“武力衝突”は、米中が核の撃ち合いをする全面破壊戦争ではなく、あくまでも、先ほど懸念した、偶発的な衝突が小規模の交戦に発展しかねない可能性に備えるという意味に過ぎません。

また、アメリカからしても、中国と全面的な交戦をしたところで、何一つ得るものがないことから、アメリカから仕掛けるシナリオもないでしょう。口撃はエスカレートするでしょうが、実際の武力衝突はないと私は見ています。

次に語られるが起こりえないのが、ロシアとの紛争です。その相手国は、我が国日本と米国です。まず、日本については、昨日もロシア空軍機による意図的な領空侵犯が行われ、自衛隊機がスクランブル発進するという事態になり緊張は高まりましたが、これは、ただ単に、現在、日ロ間で行われている北方領土を巡る話し合いの行き詰まりを受けた恣意行為と考えており、直接的な軍事的対立には発展せず、あくまでも外交上の抗議のやり取りで終わるものだと考えています。

米ロ間については、かつて軍拡競争を行い、長い冷戦時代を経てきましたが、“大国同士”であるがゆえに、軽いボディブローの応酬はあっても直接的な軍事衝突には至りません。

また昨年秋に、突如、トランプ大統領がロシアとのINF(中距離核戦力全廃条約)の破棄を宣言し、テンションが高まりましたが、どうもロシア側もそれを受け入れる方向になってきていますし、両国の意図、つまり中国の核戦力への警戒心が微妙なバランスを保つことに寄与していますので、今のところ、関係が深まることはあっても、交戦前夜という緊張感あふれる状況には陥りません。

「でも、トランプ大統領だから、何するか分かりませんよ」そう言って余計に危機を煽る人がいますが、私はトランプ大統領だから、圧勝できない戦いはしないと確信しています。

とはいえ、2019年は、ほぼ確実に大きなtransitionの1年となると考えています。しかし、そのtransitionの理由が、何かしらの戦争でないことを祈っています。

image by: GrAl, shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

有料メルマガ好評配信中

    

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』 』

【著者】 島田久仁彦(国際交渉人) 【月額】 ¥880/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 金曜日(年末年始を除く) 発行予定

いま読まれてます

  • 交渉のプロが解説。米が北を攻撃しても中ロは非難に留まる理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け