この際はっきりさせよう。どこからパワハラと判断されるのかを

 

では、この裁判はどうだったのか。

この会社では上司から自殺した社員へ「厳しい口調の叱責が日常的に継続していた」と認められました。ただ、ポイントはその「叱責の内容です。

裁判所は「(叱責が継続したのは)書類作成上のミスが発生したことによるものであって、何ら理由なく叱責していた事情は認められない」「具体的な発言内容は人格的非難に及ぶものとまでは言えない」として、「指導には違法性なし」と判断したのです。

ただし、です。

裁判の結果、会社が負けました。なぜか?

実は次のような事実もあったからです。

  • (自殺した社員は)体重が2年間で15kgも減った
  • 他の社員から(自殺した社員が)死にたがっているという相談が上司にあった

これらのことから「会社は相応の対応をすべきだった(のに行わなかった)」として、「安全配慮義務違反があった」と、判断したのです。

いかがでしょうか。これは実務上も非常に重要なポイントです。みなさんの中には「パワハラを防ぐ」立場の方も多くいらっしゃることでしょう。例えば、ある部長が部下に非常に厳しい言い方で指導(パワハラ?)をしていたとします。みなさんはその状況を改善したいと思いその部長と面談をしました。

そこでその部長に「確かに厳しい言い方はしているかも知れませんが、内容に問題はありますか?と言われたらどうでしょうか?

そこで、「確かに内容には問題ないけど、その言い方だと…」だけでは、おそらくその部長は納得しないでしょう。「万が一の場合は会社が安全配慮義務違反になる」であれば、また反応は違ってくるのではないでしょうか。

また、みなさんの中には「部下を指導する」立場の方もいらっしゃるかも知れません。実はパワハラ上司と言われる人の中には、「真面目で熱心」という方が多いのも事実であったります。

部下を成長させたいと思う一心でつい口調が厳しくなってしまう。もしそうであれば、ちょっとだけ相手の状況を確認してみませんか。

パワハラは当然ながらあってはならないことですが、厳しい指導が完全否定されるべきでもありません。パワハラについての「正しい知識」を持って指導にあたることが大切なのです。

image by: Shutterstock.com

特定社会保険労務士 小林一石この著者の記事一覧

【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理 』

【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

いま読まれてます

  • この際はっきりさせよう。どこからパワハラと判断されるのかを
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け