均衡と正統性、そして同盟国との連合
キャンベルは言う。
インド太平洋の戦略にとって必要なのは、力の均衡、その秩序の正統性の地域各国による承認、そしてその両者に対する中国の挑戦に立ち向かう同盟国・友好国の連合、の3つである。そのようなアプローチによって、インド太平洋は、覇権と19世紀的な勢力圏の争いではなしに、均衡のとれた21世紀的な開放性によって特徴付けられることになろう。
しかしながら、2方面からの挑戦がこの秩序の均衡と正統性を脅かしている。1つは中国の経済的・軍事的台頭だが、もう1つは驚くべきことに、この秩序の元々の設計者であり長きにわたりスポンサーを務めても来た米国による挑戦である。トランプ大統領は、この地域の運営システムのすべての要素を痛めつけ、同政権のアジア専門家たちが必死でダメージを防ごうと務めても無駄だった。彼は、日本や韓国のような同盟国に米軍の駐留費分担について再交渉するよう圧力をかけ、もし満足のいく結果が得られなければ米軍をすべて撤退させると脅迫した。
トランプはまた、地域の多国間協議や経済交渉に出席せず、中国がルールを書き換えようとする隙を与えた。さらに彼は、民主主義と人権をサポートすることに熱心でなく、中国当局が香港や新疆で人権を抑圧するのを励ます結果となった。このような中国の独断的な態度と米国のためらいがちの姿勢が相まってこの地域の流動化が起きたのである……。
部隊の前進配備、空母艦隊中心はもう古い?
トランプ時代の迷走を克服するために米国が取り組まなければならない1つは、軍事戦略の分野である。キャンベルは、中国の軍事戦略の進化に対応して、米国が発想を転換すべきであると説く。
従来の、費用が嵩むのに敵攻撃には脆い空母艦隊のようなものを主とする考え方を改め、北京が配備を進めている通常弾頭装備の長距離射程巡航・弾道ミサイル、空母発進の無人攻撃機・無人潜水機、ミサイル搭載潜水艦、極超音速攻撃兵器など、相対的に安価で非対称的な装備に投資すべきである。
米国は〔日本や韓国などへの米軍の〕前進配備を維持するけれども、同時に、同盟国の協力を得て、米軍の東南アジアやインド洋への分散配置を進める必要がある。これによって米国は、東アジアのごく少数の脆弱な軍事施設に依存しなければならない状態を軽減することができる。
これは何を言っているのかというと、中国の中・長距離ミサイルの量的・質的に圧倒的な向上をはじめ上記のような最新の技術的発展によって、いざ米中開戦という場合に、在韓・在日だけでなくグアムやハワイの米軍基地も一挙的に壊滅させられる可能性が濃厚になってきたということである。そこで、無人や極超速などの最先端兵器の配備を急ぐのはいいとして、どうにもならないほど重鈍な横須賀・佐世保を固定基地とする第7艦隊や、三沢と横田と嘉手納に張り付いた第5空軍や、辺野古に居座ろうとしている第3海兵師団などは、もっと後方に分散したほうがいいと言うのだが、これは余りに中途半端で、どこに下がれば安全だと言えるのか。
とはいえ、キャンベルがそう考えているのであれば、すでに馬鹿馬鹿しいと言える状態に突入している辺野古基地建設の中止、過大な基地負担の軽減について日本が対米交渉を仕掛ける可能性は増しているということだろう。