バイデン政権からのプレッシャーに苦しむトルコ
次に、イスラエルはどうでしょうか?アメリカ政府からすると、常にユダヤ人票を獲得するために親イスラエル政策を取る傾向がありますが、トランプ政権時代は、娘婿のジャレッド・クシュナー上級顧問を前面に立てて、明らかにイスラエルへの肩入れをしてきました。
バイデン政権は、その行き過ぎた接近を改めようとしています。特に、トランプ大統領が見捨てた結果、イスラエルによる入植地拡大が進められたパレスチナへの再コミットを約束することで、アメリカからの支持を笠に着て無茶をしてきたネタニエフ政権の行動に釘を刺そうとの思惑があるようです。
イスラエルに無言のメッセージを送っていたのか、やっと就任から1か月経って、バイデン・ネタニエフ会談が2月17日に行われましたが、そこでもアメリカ政府のパレスチナ問題解決に向けた決意が語られ、盟友であるはずのイスラエルにも、人権擁護の原理原則が突き付けられたとのことです。
トランプ前政権の仲介を受けて、そのイスラエルと国交樹立をした国々も、そのはしごを外された模様です。
その典型例が、UAE(アラブ首長国連邦)で、トランプ前政権下で契約が結ばれていたF35の売却(サウジアラビア王国は猛烈に反対)を凍結されてしまいました。UAE空軍の再編計画においてF35の配備が含められていたため、国内での混乱が起きているようです。また同時に、対イランの戦力として期待されていたUAEですが、アメリカ政府との間に微妙な隙間が出てしまったのではないかと懸念しています。
イスラエルと国交正常化はしていませんが、距離を一気に縮めたサウジアラビア王国も例外ではありません。F35のUAEへの売却を止めたという点では、願いがかなえられたといえるかもしれませんが、ここでも人権問題を盾に、バイデン政権は、カショギ氏殺害疑惑に対するサウジアラビア王国、特に次期国王と目されるMBS(サルマン皇太子)に関与について、徹底的な調査を要求したと、リヤドの友人から聞きました。
イスラエルもUAEも、そしてサウジアラビア王国も、アメリカの新政権から距離を置かれたことで、中国とロシアへの接近が再スタートした模様です。F35の穴埋めについてはロシアが、サウジアラビア王国の原油の輸入と、脱炭素化への取り組みには主に中国が支援を拡大するようです。
そしてイスラエルについては、興味深い緊張感を漂わせつつも、ハイテク部門での中国・ロシアとの協力が進められるとの話が入ってきました。
確実にアメリカ政府は反応するでしょうが、ここでも米中の対立構造が顕在化してきています。
そして、トルコもバイデン政権からのプレッシャーに苦しんでいます。エルドアン大統領がロシアからS400ミサイルを購入・配備したことには、トランプ前大統領も激怒していましたが、アメリカとNATOとの微妙な距離感もあり、“軽い”制裁で済んでいました。
しかし、バイデン政権下では、大統領選挙時から、バイデン大統領がエルドアン大統領を独裁者と非難し、トルコが、NATO同盟国でありながら、同盟の結束を乱すことに対する対価を払わせると発言してきました。ついにそれが現実になりそうです。
ブリンケン国務長官は16日、非常に厳しい口調で、チャブシオール外務大臣に対し「S400ミサイルの即時撤去を要求し、NATO同盟への誠意を見せよ」と迫ったとの情報が入りました。
米・トルコ双方から確認が取れましたが、トルコ側も黙って退くわけもなく、「であれば、即時に代わりの防衛システムとミサイルを供与せよ!」と迫り、両国の緊張関係は増したと見られています。
ここでも、すでにロシアと中国との関係強化を進めているトルコを巡り、アメリカと中国(ロシア)の攻防が見えます。特にトルコは地政学的に欧州・アジア・中東・アフリカ、そして中央アジアをにらむ要所にあり、トルコを味方につけることで、広範囲に及ぶ地政学的なバランスが変わる可能性があります。
あまりニュースには出てきませんが、今後の混乱の情勢の行方を占ううえで、トルコの動静は無視できません。