デジカメ参入に出遅れるも独自のカメラ戦略が奏功
ところが、「Windows95」が世界的にヒットした95年頃より、カシオ計算機、リコーなどの既存のカメラメーカーでなかった企業が、レンズ一体型コンパクトデジタルカメラ(いわゆるコンデジ)で台頭。70年代より製品化が進んでいたデジタルカメラが一気に普及した。
そして、2002年にはデジカメがフィルムカメラを出荷台数で抜き、デジタルの時代に入った。
デジカメの参入に、富士フイルムは乗り遅れた。デジカメのピーク時、2010年にはキャノン、ソニー、ニコン、サムスン電子、パナソニックの5社で世界市場の7割を占めていた。
それでも、富士フイルムはコンデジの「ファインピックス」、レンズ交換式ミラーレス一眼「Xシステム」シリーズなどを開発し、品質の高さで、今日まで存在感を示している。

富士フイルムの戦後から2000年までのヒット商品。二眼レフ「フジカフレックス」や「ファインピックス」も
2010年代のスマートホンの普及により、さらなるゲームチェンジが進行。デジカメはスマホで代用されて、ピーク時の2割程度にまで急落してしまった。
一方で、富士フイルムは独自のカメラ戦略を取り、99年に発売したインスタントカメラ「チェキ(インタックス)がプリクラブームとの相乗効果で好調。銀塩システムを採用した、ユニークな商品となっている。スマホの画像をブルートゥースで転送して、プリントできるプリンター機能も備えている。

富士フイルム本社の「FUJIFILM SQUARE」。インスタックス(チェキ)は今や富士フイルムの主力商品
「チェキ」は、iPhoneとSNSと共に売上が伸びており、13年の200万台が、5年後の18年には1,000万台を超えた。海外での販売が9割を占めるのも、「チェキ」の特徴だ。
08年には富士フイルムは前出のように、富山化学に出資して医薬品に進出すると共に、化粧品にも「アスタリフト」ブランドで進出して、精密化学を次世代の柱とする方向に舵を切った。

美白美容液「アスタリフト ホワイト エッセンス インフィルト」CMカット
「アスタリフト」は主に通販で展開。写真で培われた技術が随所に活かされており、たとえば、フィルムの主成分であるコラーゲンに関する知見や、写真の色褪せの原因である紫外線対策が、美肌づくりに応用されている。
市場の大転換を乗り切った富士フイルム
富士フイルムは、本業として磨いてきたフィルムとカメラの市場が、デジタル時代に入って壊滅的に縮小し、2000年代には5,000人規模の大リストラを断行するほどの痛手を被った。
しかし、この分野でも、SNSとの相乗効果が高い「チェキ」を開発して見事、生き残った。
そして、X線写真でかねてから接点があった医療分野に着目。今また、「アビガン」で脚光を浴びているのだ。独特な化粧品へのアプローチも、注目される。
コダックが、写真にこだわって2012年に経営破綻してしまったのとは対照的だ。なお、再興したコダックも、昨年医薬品分野への進出を行っており、構造改革で富士フイルムをベンチマークしていくと思われる。
市場の大転換を乗り切り、不死鳥のように先端的な化学分野で活躍する、富士フイルムに学ぶものは多い。
image by: PETCHPIRUN / Shutterstock.com , 長浜淳之介