東南アジアの自立と世界経済のコアへの脱皮
過熱する米中対立の狭間で、翻弄され続けたのが東南アジア諸国でしょう。
東南アジア諸国は、ここ10年、著しい経済成長を遂げ、人々の生活レベルも向上してきました。
それ故に、世界銀行をはじめとする国際機関は、毎年の報告書やWorld Economic Outlookを通じて、東南アジア諸国を今後の経済成長のエンジンとなる存在であると評してきました。
2020年に世界を襲ったコロナウイルスのパンデミックは、そのような成長のエンジンと評された東南アジア諸国を痛烈に襲い、国によってはデフォルトの一歩手前まで経済状況が悪化する国もありました。
安全保障面では、地域におけるアメリカのプレゼンスが低下するとともに、南シナ海において圧倒的な軍事力をもって、領土・領海の拡大を目論む中国の脅威と圧力にさらされてきたのも、この10年の特徴です。
南沙諸島、西沙諸島に中国の軍事拠点が次々と築かれ、フィリピンやベトナムといった国々の抵抗と抗議に遭いつつも、中国のプレゼンスが無視できないレベルにまで高められています。
米中の覇権の狭間で、東南アジア諸国は、安全保障面では中国の脅威に対抗しつつも、経済面では中国経済の成長の恩恵を受けるために、中国に接近するという、非常にデリケートなバランスから成り立つ外交政策を取っています。
ポジティブに評価すれば、現実主義的な対応で、自らの生存と繁栄を確保するための選択と言えますが、米中の狭間で行き場を失い、自由度を著しく損ねてきているとも見えます。
その表れが強権主義的な統治姿勢の蔓延です。フィリピン、インドネシア、カンボジア、タイ、そしてミャンマー…。多くの国々が軍の強い影響を受けるか、独裁色の強いリーダーによって統治され、アメリカがよく標榜する「自由で開かれた民主主義の理念」とは対極にあるような体制が多数です。
しかし、民主主義の理念原則を重んじるはずの欧米諸国は、東南アジア諸国の支持を取り付けるために、強権的な政治体制には目をつぶっているように思われ、大きな矛盾を生んでいると言わざるを得ません。
この10年で、東南アジア諸国は大きな力をつけ、国際社会における発言権も増したといえますが、日々、迫りくる中国の紅い影が大きくなるにつれて、今後の進路について真剣に考えて動かなくてはならない時期を迎えているように思われます。
今後、日米豪に代表される陣営と、中国に代表される陣営との間の対峙最前線ラインとなる東南アジア地域がどの方向に進んでいるのか。
そして、それがアジア太平洋地域という、非常に広範な地域の今後にどのような影響を与えるのか。
地政学のホットスポットとして目が離せない地域です。