今年はドル安が大きなテーマとなりそうでしたが、年始から変化の兆しが感じられるようになってきました。タイミング的に、今日の雇用統計は非常に重要な意味を持ちそうですから、その辺を踏まえつつ、相場展望、トレード戦略について解説していきます。(FXトレーダー/ブロガー・ゆきママ)
単純な金利高というよりFRBの引き締めを意識したドル高か
目先は株高の円売りに加え、米長期金利(10年債利回り)が上昇、1%の大台にしっかり乗せています。この金利高によるドル高という流れもあって、ドル円は反発しています。
振り返ると、先日5日に行われたジョージア州の上院議員・決選投票で民主党が2議席共に勝利したため、上院は民主党と共和党が50対50で議席を分け合うイーブンの形となりました。ただし、イーブンになった場合は上院議長である副大統領が投票して決定することになるため、大統領選を勝利した民主党が実質的に上院を制する形となりました。
民主党は大統領選と下院を制していましたから、これに上院も加わり、いわゆるトリプルブルーとなって、バイデン次期政権の政策が実現しやすいといった見方に傾いています。
そして、バイデン政策というのは、ご存知のように多額の現金給付を含むばら撒き方の財政政策であり、クリーン・エネルギー関連のインフラ投資にも非常に積極的と言われています。
これらの政策を実現するためには、今の税収では全く追いつかないので財源は国債ということになります。今ですら、異常というか記録的な量を発行しているわけですが、さらに国債を発行するなら、明らかに供給過剰で債券価格が下落、金利が上昇という格好になっています。
これに加えて、6日に発表された12月15~16日分のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録において、メンバーは全会一致で現行の緩和政策を支持し、インフレ目標と雇用が達成されるまでは緩和政策を継続するとしていたものの、米長期金利の上昇を抑えるための、買い入れ債券の拡大、年限長期化に賛成するメンバーが少数だったこと。
さらに、7日にハーカー・フィラデルフィア連銀総裁が、「今年終盤に資産買い入れの段階的縮小の可能性がある」と、テーパリング(金融引き締め)を意識させていることも長期金利の上昇に拍車をかけています。
- バイデン政権による財政政策路線、財政赤字の拡大、国債発行額の増額を意識
- FRB(米連邦準備制度理事会)は、さらなる緩和には消極的
- FRBの一部メンバーからは早期の緩和縮小を指摘する声が出ている
まとめると、このようになります。バイデン政権による赤字財政の拡大というのは、いわゆる悪い金利の上昇なので、これが即座にドル高というイメージはありません。
一方で、FRBが追加緩和には消極的、さらに一部メンバーから緩和縮小というテーパ感が出てきたのことは、金利の上昇かつドル高の大きな要因となっていると考えています。
したがって、今回の雇用統計の数字が強ければ、経済回復期待による早期の緩和縮小観測によるドル高。さらに、バイデン政策による給付型の景気刺激策も回復にプラスという見方になるかもしれません。
そうなれば、ダブルでドル買い戻しにつながる可能性がありますから、今回発表される数字には注目しておきたいところでしょう。
Next: 雇用市場は引き続き弱く、サプライズの悪化も
雇用市場は引き続き弱く、サプライズの悪化も
先行指標に目を向けると、経済状態は決して悪くはないものの、雇用市場そのものは厳しい状況が続いていると言えそうです。

先行指標の結果(青は改善・赤は悪化、数値はいずれも速報値)
ISM(米供給管理協会)の発表する景況指数において、製造業の雇用指数は改善傾向を示しているものの、それ以外は悪化傾向となっています。
特にADP社の発表する雇用調査レポートは、雇用者数の増加が+8.8万人増という予想に対して、−12.3万人減と非常に悪い数字でした。多くの企業が雇用を増やすより、減らしていることが明らかになりました。
やはりFRBの2大責務は物価の安定化と雇用の最大化ですから、雇用市場の回復が進まないのであれば、長期的な緩和政策が継続しやすいとの意識で、過度なドル高にはなりにくいと考えられます。
逆に、これら先行指標の悪化をものともせず、雇用の回復が想定よりも堅調という話になれば、早期の緩和縮小意識によるドル買い戻し、さらには米国経済の回復を先取りする形で株価も上昇しますから、円売りも合わさって一段高になる可能性がありますので、警戒が必要でしょう。
強い数字が出れば反発のきっかけになりそうなだけに警戒!
今のところは良いとこ取り、都合の良い解釈でドルの買い戻しが進んでいることに加え、これまで急ピッチでドル安が進んできたことの反動があると考えています。
今後、持続性のあるドル買い戻しに繋がるためには、やはり予想を上回る雇用統計の数字が必要になってくると考えています。
ADPが発表した雇用者数など、先行指標は全体的に下振れ気味ですから、マーケットは非農業部門雇用者数がマイナスに落ち込むことも想定しているかもしれません。
市場の期待値は低そうですから、前回並み、+20万人増に近い数字が出れば、かなりのサプライズとなり、ドル円の上昇に繋がることになるでしょう。
一方で、非農業部門雇用者数が予想未満、マイナス圏に沈むというのであれば、FRBによる早期の金融引き締め観測は遠のくわけですし、場合によっては追加緩和という期待につながるため、ドルの買い戻しが一旦ストップすることになりそうです。
Next: トレード戦略は戻り売り!1ドル=103.00~104.50円を想定
1ドル=103.00~104.50円を想定
これだけの株高かつ、米長期金利の上昇、さらにFRBのテーパリング観測などの条件が揃って、この程度の反発ですから、やはりドル円の上昇余地は小さく、トレード戦略として基本的に戻り売りというのは変わりません。
現段階では、104.00円の節目ラインが強めの上値抵抗となっていますから、まずはここをブレイクできるかどうかでしょう。ここを越えると、日足ベースで104円台半ば、さらには104.60円近辺にある89日移動平均線という大きなかべが立ちはだかることになります。
トレード的には、すでにそれなりに上昇しているので、軽くショート(売り)ポジションを持って雇用統計を迎えても良いでしょう。予想を上回る数字が出た場合は、即損切りです。
一方で、悪い数字を懸念して株価も下がる流れとなれば、103円台前半ぐらいまでは下がりやすいですから、非農業部門雇用者数がマイナス圏に落ち込むような数字が出た場合は、株価の値動きを見ながら、利食いのタイミングを狙っていけば良いでしょう。
株価が下がらないのであれば、103円台半ばぐらいでさっさと利食いするのがベターな判断になりそうです。
現段階では、そう簡単にドル買い戻しの流れが継続する、転換点になるとは考えていませんが、状況がやや変わりつつあるだけに、少し注意しながら見ていただければと思います。特に強い数字が出てしまうと、短期的にはドル高の流れになりそうなイベントです。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年1月8日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による