7月5日、水道民営化を含む水道法改正案が衆議院で可決された。海外では水道料金が5倍に急騰するなどの問題が起きているが、日本国民には十分に周知されていない。(『らぽーる・マガジン』)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2018年7月9日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
問題化した「水道の老朽化」が後押し。民営化で解決するのか?
あっという間に可決された「水道民営化法案」
7月5日、水道法改正法が衆議院本会議で可決されました(編注:2018年12月6日、参議院でも水道事業を民営化しやすくする改正水道法が可決され成立しました)。これについて、週刊文春は以下のように言及しています。
W杯での日本代表の活躍に湧き、オウム真理教の松本智津夫被告ら7名の死刑執行に驚かされた7月第1週だったが、7月5日、水道事業の運営権を民間に売却できる仕組みを導入することなどが盛り込まれた水道法の改正案の採決が衆院本会議で行われ、自民・公明両党と日本維新の会と希望の党などの賛成多数で可決された。
出典:オウム死刑執行とW杯に埋もれた「水道民営化」問題の“重要発言”まとめ – 文春オンライン(2018年7月7日配信)
水道法改正案が審議入りしたのは6月27日。働き方改革関連法案に押されて審議入りは未定だったものが、6月18日に発生した大阪北部地震により21万人以上が水道の被害を受けたことで、「老朽化した水道」という問題がクローズアップされ、一気に審議入りしました。
市町村の赤字体質が「水道の老朽化」を招いた?
市町村などの水道事業者は人口減による収入減などで赤字体質のところが多く、老朽化した水道管の更新が遅れていた。
出典:同上
そもそもこれが水道法改正の背景にあるようで、老朽化した水道管更新が遅れているのは水道事業者の赤字にあるというのです。
その解決法が、民間企業参入を認めるということだと政府は考えているようです。
2013年に麻生氏が「水道民営化を目指す」と断言
水道管老朽化対策促進の名目で、市町村などが経営する原則は維持しながら民間企業に運営権を売却できる仕組み(コンセッション方式)も盛り込んだのが、今回の水道法改正になります。
国鉄、タバコ、電信、郵政と、いわゆる「三公社五現業」の民営化が続いてきました。今回は水道事業の民営化のようです。
自民党は以前から水道民営化を推進しようとしていた。麻生太郎氏による「この水道は全て国営もしくは市営・町営でできていて、こういったものを全て民営化します」という発言は、2013年4月にアメリカのシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)で行われた講演でのもの。麻生氏は「水道の民営化」を目指すと断言している。
出典:同上
これは、2013年4月にアメリカのシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)で行われた麻生太郎財務大臣兼副総理の講演でのものです。
明確に麻生大臣は「水道の民営化」を目指すと断言しています。
Next: 竹中平蔵氏が推進する「コンセッション方式」の波が水道事業にも
公明党が主導した今国会での成立
今国会で水道法改正案の成立を主導しているのは公明党だと言われています。
公明党が水道法の改正に積極姿勢を示すのは、来年の統一地方選や参院選をにらんだ動きだと文春は指摘しています。
水道事業の経営悪化は地方の生活に直結するため、3,000人の地方議員を抱える公明党は水道法改正案の成立にとりわけ熱心だと文春記事にはあります。
受注会社の自由度が高い「コンセッション方式」
水道事業の民営化に関してのキーワードは、「コンセッション方式」です。
コンセッション方式とは、高速道路、空港、上下水道などの料金徴収を伴う公共施設などについて、施設の所有権を発注者(公的機関)に残したまま、運営を特別目的会社として設立される民間事業者が施設運営を行うスキームを指します。
この特別目的会社を「SPC」と言いますが、SPCは公共施設利用者などからの利用料金を直接受け取り、運営に係る費用を回収するいわゆる「独立採算型」で事業を行う事になります。
「独立採算型」事業では、SPCが収入と費用に対して責任を持ち、ある程度自由に経営を行うことができます。
例えば、利用者の数を増やすことによる収入の増加や、逆に経営の効率化による運営費用の削減といった創意工夫をすることで、事業の利益率を向上させることが可能です。
竹中平蔵氏が推進する「インフラ運営権」の売却
コンセッション推進と言えば、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣などを歴任した、内閣日本経済再生本部産業競争力会議(民間)議員などを務めるパソナグループ取締役会長の竹中平蔵氏がすぐに出てきます。
竹中氏はいろんなところで、国や地方などの公的部門がインフラの運営権を売却することを提案してきています。その成功例として空港運営の民間委託を挙げていますね。
竹中氏は2013年4月に行われた第6回産業競争力会議でも「インフラの運営権を民間に売却して、その運営を民間に任せる。世界を見渡してみれば、港湾であれ空港であれ、インフラを運営する世界的企業が存在します」と発言しています。
Next: 水道料金が突然「5倍」に? 無視できない海外での失敗例
海外では失敗している「水道民営化」
ただ、この水道事業民営化においては、海外ではいくつか失敗例も見受けられます。水道の民営化の失敗例としてよく知られているのが、マニラとボリビアの事例です。
マニラは1997年に水道事業を民営化しましたが、米ベクテル社などが参入すると水道料金は4~5倍になり、低所得者は水道の使用を禁じられました。
またボリビアは1999年に水道事業を民営化したものの、やはりアメリカのベクテル社が水道料金を一気に倍以上に引き上げ、耐えかねた住民たちは大規模デモを起こし、200人近い死傷者を出す紛争に発展しました。
当時のボリビア・コチャバンバ市の平均月収は100ドル程度で、ベクテル社は一気に月20ドルへと値上げしたのです。大規模デモは当時の政権側は武力で鎮圧されましたが、その後、コチャバンバ市はベクテルに契約解除を申し出ると、同社は違約金と賠償金を要求してきたそうです。
世界の潮流は「再公営化」
外資が参入してきて水道料金を引き上げ、水道料金が支払えない低所得者層は水が飲めずに、衛生上よくない水を飲んで病気になるケースもみられます。
民間の水道事業者が利益ばかり追いかけたことにより、「再公営化」が世界の潮流となりつつあるという指摘もあります。
この外資企業と言われるのが「水メジャー」と呼ばれる企業で、2強と呼ばれるのがスエズ・エンバイロメント(フランスや中国、アルゼンチンに進出)とヴェオリア・エンバイロメント(中国、メキシコ、ドイツに進出)です。いずれもフランスの企業です。
人間が生きていくうえで必要なのは「空気」と「水」。私たち国民には十分に知らされないまま、水道法改正法が衆議院本会議で可決されました。
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