バイ・アンド・ホールドを前提とするバフェット流の長期投資では、投資する企業は厳選しなければなりません。その条件のうちで最も重要なもののひとつが「ビジネスの優劣」です。優れたビジネスとは一体どのようなものでしょうか? 今回は、つばめ投資顧問代表・証券アナリストとして活躍し、マネーボイスの人気著者でもある栫井駿介氏の人気連載『誰でもバフェット投資術 ~ バイ・アンド・ホールドで人生100年時代の資産を築く』第3回をお届けします。
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
優れたビジネスを掴んで離すな~連載『誰でもバフェット投資術』
「儲ける仕組み」を確立した企業は強い
バイ・アンド・ホールドを前提とするバフェット流の長期投資では、投資する企業は厳選しなければなりません。その条件のうちで最も重要なもののひとつが「ビジネスの優劣」です。優れたビジネスとは一体どのようなものでしょうか?
ビジネスとは「儲けの仕組み」です。企業の価値の源泉は利益ですから、利益を生み出す仕組みが確立されていることが、長期保有するための絶対条件です。
優れた仕組みは、長期にわたって企業に高水準の利益をもたらし続けます。単に横ばいの利益が続くだけではなく、新たな市場を開拓し、シェアを拡大することで成長を続けることができるのです。
一度仕組みが確立してしまえば、企業は難しいことをする必要はありません。もし優秀な経営者が去ったとしても、仕組みが回り続けている限りそう簡単には利益を喪失してしまうことはないのです。
アップルはジョブズ退任後も株価4倍へ
身近な事例としてアップルを挙げることができます。
アップルは、スマートフォンの先駆けとして2007年にiPhoneを発売しました。
iPhoneはその優れた機能と引き換えにOSやアプリを自社で囲い込んだため、一度iPhoneを手にした人は次に買い換える時もiPhoneにしなければならない状況を作り出しました。その結果、アップルが新しいiPhoneを発売するたびに売上を伸ばすようになったのです。
この仕組みを生み出したのは創業者のスティーブ・ジョブズですが、彼が世を去ったあともビジネスは生き続け、時価総額は世界一に躍り出ました。iPhoneが発売されてからアップルの株を持ち続けていれば株価は10倍以上、ジョブズが退任してからでも約4倍になったのです。
APPLE INC<AAPL> 月足(SBI証券提供)
利益の厳選は「差別化」
優れたビジネスの条件としてバフェットがよく言葉にするのが「経済の堀(Economic Moat)」と呼ばれるものです。これは、ビジネスを城に例え、広い堀が敵(競合他社)から自社の利益を守ってくれるという考え方です。
経済学のセオリーでは、あるビジネスが当初高水準の利益をあげていたとしても、やがて競合の参入よってその水準は低下していきます。
ただし、その条件は競合が「同じ物」を売れることであり、それができなければ最初の企業の利益は守られます。すなわち、利益の源泉は競合に真似されない「差別化」にあるのです。
Next: ブランドが価値を生む? コカ・コーラでわかる優れたビジネスの条件とは
優れたビジネスの要素とは?
優れたビジネスの要素として、以下のようなものを挙げます。
- ブランド
- 規模
- 先行者利得
優良ビジネスの要素その1「ブランド」
ブランドとは、ルイ・ヴィトンやエルメスのことだけではありません。「その商品が他のどれでもないこと」を示す名前のことです。高級車でなくとも自動車業界において「トヨタ」「ホンダ」は唯一無二のブランドですし、「ユニクロ」も他のアパレルとは違うという意味で立派なブランドです。
ブランドにおいて重要なのは、それが何を意味しているかということです。ルイ・ヴィトンやエルメスは高級感を表し、一方でユニクロは「安くて丈夫」という特徴を示しています。
高級感を示すブランドであれば、他の同じような商品よりも高い価格で売ることができますし、「安くて丈夫」が取り柄なら、何度でもリピートして購入されます。
<ブランド力を発揮するコカ・コーラ>
バフェット銘柄の中で、ブランドの価値を最も発揮しているのはコカ・コーラでしょう。言ってしまえば単なる「砂糖水の原液」を販売している企業にすぎませんが、世界中の炭酸飲料業界を席巻し、規模を拡大し続けています。
バフェットは1988年にコカ・コーラの株式を購入し始め、現在の株価は買値の14倍に達しています。
Next: 圧倒的な「規模」が競合を排除する? VISAが取ったシェア拡大戦略とは
優良ビジネスの要素その2「規模」
規模は競争力を付けた結果としてもたらされるものですが、それ自体が競合を排除するものとなり得ます。
例えば、製造業ではより多くの製品を作れるほど、1製品あたりにかかる原価を下げることができます。これにより同じ商品をより安く売るか、同じ価格で売ることでより大きな利幅を獲得できるのです。経済学では「規模の経済性(スケールメリット)」と言います。
規模に太刀打ちできず、やがて競合他社が撤退してしまえば長期にわたって安定した地位を築くことができます。市場の独占は、企業に莫大な利益をもたらします。
市場シェアが高まれば、消費者はやがてその企業の商品を選択せざるを得なくなり、ますますシェアを高める効果を生みます。これを経済学の用語で「ネットワークの経済性」と呼びます。
<ネットワークの経済性を発揮するVISA>
ネットワークの経済性を最大限に発揮しているのが、クレジットカード決済のVISAです。
出典:VISA INC A<V> 月足(SBI証券提供)
世界で最も使用されているカードブランドですから、クレジットカードを採用する店舗は扱わざるを得ません。すると、消費者もVISAカードを持つことになり、この無限ループによりシェアはますます高まるのです。
Next: 世界は「勝者総取り」へ。Amazonが築き上げた絶対的地位とは?
優良ビジネスの要素その3「先行者利得」
インターネットの発展により、ビジネスのスピード化が進展しています。
インターネット業界では「Winner Takes All(勝者総取り)」の構図が顕著で、どの企業も自らが勝者になろうとスピードを加速させています。
<圧倒的成長スピードで覇権を握ったAmazon>
最もわかりやすい事例がAmazonでしょう。もとはと言えば単なるインターネットショッピングですから、インターネットとパソコン1つあれば始められてしまうビジネスです。参入障壁はほとんどないと言えるでしょう。
しかし、圧倒的なスピードで投資を続けた結果、いつの間にかAmazonは誰も太刀打ちできないほどの巨大な企業に成長しました。あらゆるものが揃う利便性から、世界中の消費者の財布を一手に掌握してしまったのです。
出典:AMAZON COM INC <AMZN> 月足(SBI証券提供)
まさに先行者利得を最大限に発揮した事例と言えるのでしょう。
どうやって優れたビジネスを持つ企業を探す?
さて、投資家としての関心事は、どのようにして優れたビジネスを持つ企業を見つけるかということでしょう。株価が割安なうちに素晴らしいビジネスを見つけることができれば、その株を持ち続けることで数倍の利益を得ることも夢ではありません。
一般的に、ビジネスの優劣は利益率に現れます。同じようなビジネスでも、より高い営業利益率となっていれば、何らかの強みを有している可能性があります。何が違って強みが生まれているのか、IR資料をみてじっくり考えてみるときっと見えてくるものがあるはずです。
Next: 優れたビジネスはライバルとの「比較」で探せ? バフェットのやり方とは
素晴らしいビジネスはライバルとの「比較」で探せ
さらに、単に1つの企業を見るだけではなく、同じ業界の2つの企業を比較することで、なぜ一方が強いのかを明確にすることができます。
バフェットもライバル同士を比較することの重要性に言及しています。
「多くのプロの投資家は、投資対象の過去の数値は気にするのにもかかわらず、そのライバル企業が何をし、またどのような財務状態なのかを調査することすらしません。これは誤りです」。
投資対象の企業とライバル企業を「横比較」することで、単にその企業を見るだけよりもより深い洞察を得ることができます。よく見てみたら実はライバル企業のほうが良かったということもあるでしょう。
できるだけ多くの企業を比較する
1つの業界で素晴らしいビジネスを持つ企業を見つけたら、他の業界で同じことをしている企業がないか考えてみましょう。
例えば、小売業自ら製造まで行う「SPA(製造小売業)」で一世を風靡したのがユニクロですが、それを家具業界で行ったのがニトリです。両者は現在でも大きな利益をあげ続けています。
投資は「相対選択」の世界です。多くの企業を比較してより良い企業をポートフォリオに組み入れることで、投資のパフォーマンスを上げることができます。あなたも素晴らしいビジネスを持つお気に入りの企業を見つけてみてください。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年10月30日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。