2018年も終わりに差し掛かっていますが、相場環境は芳しくありません。年末にかけての相場の慌ただしさは、10年前のリーマン・ショックを思い出させます。このような環境の中、投資家は来る2019年をどのように乗り切って行けば良いのでしょうか。2019年に持つべき視点と注目銘柄をお伝えします。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
目線は「中小型」「中国関連」「高配当」。それぞれの注目銘柄は
これまでの上昇相場はリーマン・ショックの揺り戻し
2019年を見通すために、まずは相場全体の状況を振り返らなければなりません。そこで、10年前のリーマン・ショックに遡ってみることにしましょう。
当時は、米国の信用力が低い人向けの住宅ローンである「サブプライム・ローン」の債権が証券化されて世界中の金融機関にばらまかれていました。やがてサブプライム・ローンが不良債権化し、それを裏付けとする証券化商品の劣化が世界的な金融危機を生みました。
金融は経済活動の血液ですから、その流れが滞ると経済全体が停滞します。お金が必要なところに行き渡らなくなり、企業の投資意欲もしぼんでさらに景気が悪化する悪循環に陥りました。
こうして株価は世界的に大暴落しました。日経平均株価も2007年の高値である18,000円台から2008年末には7,000円台にまで下落します。株価指数が半分以下になるおぞましい事態です。
株価の急落が人々の心理をさらに冷やし、景気も谷底へと下降して行きます。
各国の政府・中央銀行は、滞った経済活動を刺激するため金融緩和策に乗り出します。具体的には金利の引き下げや、国債・ETFの買い取りです。これは米FRBが利上げに転じる最近まで続きました。
金融緩和は徐々に効果を発揮し、景気は回復に向かいます。同時に、不況で落ち込んだ生産活動は在庫の減少を通じてやがて反転します。これら金融政策効果と景気の自然回復により、株価・景気は上昇を続けました。
また、iPhoneが2007年に発売されてからのスマートフォンブームによる消費拡大も景気の回復に一役買ったと言えるでしょう。イノベーションは経済活動を活性化させます。
こうして、リーマン・ショックのどん底から約10年にわたって景気拡大・株価上昇が続きます。「谷深ければ山高し」の相場格言が体現された結果と言えるでしょう。
出典:kabutan
米中貿易戦争が引き起こす「逆業績相場」
景気の回復により、リーマン・ショックの傷は完全に癒えたと言えます。しかし、各国の政府・中央銀行は緩和的な金融政策をなかなかやめられなかったため、必要以上の資金が市場にばらまかれてしまいました。
行き過ぎた緩和マネーは、仮想通貨バブルや低格付債の増加、不動産価格の上昇を引き起こしました。FRBはようやく重い腰を上げて利上げに動きます。
一方で、その間に発生した米中貿易戦争が、実体経済に不穏な影を落としています。
米中政府は国のプライドをかけて戦っていますが、国境を超えて活動するグローバル企業にとってはただの迷惑でしかありません。
Appleは、中国で作られたiPhoneを輸入して世界中の消費者に販売しています。関税の引き上げによりこの活動に制限がかかると、世界経済全体の動きが停滞してしまうことは明らかです。先行きが不透明になればなるほど企業は投資に後ろ向きになり、それに連なる世界中の企業の生産活動も鈍ってしまいます。
今から米中が妥協したとしても、時すでに遅しと言えるでしょう。中国での投資意欲は減退している一方、これまでの過剰生産で在庫が積み上がっていることから慌てて生産することもありません。つまり、景気は拡大から後退に入ったと考えるのが自然なのです。
企業業績は表向き好調を維持していますが、悪化するのは時間の問題でしょう。多くの企業は、景気悪化には抗えないからです。実際に企業業績が悪化するまでは株価の見通しは暗いと言わざるを得ないのです。
今の株価下落はまだ市場の温度感で下げているだけにすぎません。これから訪れるのは、企業業績が明示的に悪化する「逆業績相場」なのです。
2019年に注目すべき観点・銘柄
波乱が予想される2019年の相場に、投資家はどのように立ち向かったら良いのでしょうか。
短期的な値上がりは期待しない方が良いでしょう。これまでに説明してきた通り、企業業績が悪化する「逆業績相場」を乗り切るまでは油断は禁物です。下がったからと言って、慌てて全財産を投じるようなやり方はおすすめできません。
しかし、ただ傍観しているわけにもいきません。未来のことは誰にもわかりませんから、予想が外れてすぐに上昇するかもしれないからです。
したがって、賢明なバリュー株投資家にとっては、企業価値に対して明らかに割安だと思える銘柄があれば果敢に買っていくことが唯一の戦略です。
戦略を実行する上で重要なのが、どこから割安な銘柄を探すかということです。いくら必死で探しても、間違った市場を探していると効率は上がりません。
値下がりリスクを抑えるためにも、十分割安になったと思える市場から長期的な成長企業を見つけることが「バイ・アンド・ホールド」の投資手法では不可欠です。
そのような観点で私が注目している視点が「中小型」「中国関連」「高配当」です。
Next: 2019年は「中小型株」に注目。成長が期待される2銘柄とは?
(1)中小型株
アベノミクス以降大幅に上昇した中小型株ですが、2018年初にすでにピークアウトし、マザーズ指数は高値から約6割下落しています。
出典:kabutan
中小型株の特徴は、利益があまり出ていない企業でも期待感が先行して上昇することです。若い企業も多いことから、その将来性を考えると当然のことかもしれません。大化けする銘柄はここから現れます。
しかし、すべての中小型株が大化けするわけではありません。一時は飛ぶ鳥を落とす勢いで攻勢を続ける企業も、ある時急にダメになってしまうこともあるのが中小型株の宿命です。
マーケットの調子がよく、期待感が高まっているときは株価も勢いよく上がるのですが、人々が悲観的になるとその逆の現象が起こります。期待で伸びた株価は、悲観で必要以上に下がってしまうのです。
大きな損失を被った投資家が増えると、人々は中小型株に見向きもしなくなります。そうなるとしめたもので、市場には実力を大幅に下回る価格で取引される銘柄がゴロゴロと転がるようになります。
リーマン・ショックからアベノミクスにかけては、忘れ去られた銘柄からテンバガー(10倍株)が現れました。現在の下げ局面でも同様のことが起こるのは間違いないでしょう。賢明な投資家は、株価の下落にめげず有望な銘柄を探し続けなければなりません。
探すべき銘柄は、将来の大きな成長が見込める銘柄です。単なる期待では外れる可能性があるため注意が必要ですが、その裏付けを探しながら未来を想像するのです。
その中で、私が注目している銘柄を挙げます。(※推奨銘柄ではありません。)
WDBホールディングス<2475>
理学系研究職の人材派遣を行う会社。同分野を切り開いた会社であり、市場シェアは3分の1に及ぶとされる。近年はM&Aにも積極的で、研究受託を行うCRO分野を伸ばそうとしている。業績は好調で、8期連続増収、4期連続増益。ニッチな分野だが、着実に実績を積み上げている。
理学系研究職の派遣は、大学などの研究所や医薬品、食品メーカーで重宝される。工場の派遣ほどは景気にも左右されにくく、今後も底堅い需要が期待される。
無借金経営であり、100億円の余剰資金を持つ。稼いだ資金をM&Aに振り分け、新規分野の開拓に余念がない。現在の方向性は、派遣として採用した理学系研究職のセカンドキャリアを活かした事業を伸ばすことであり、新たなニッチを開拓することも可能だろう。
シュッピン<3179>
カメラや時計のオンライン中古品売買を手がける会社。メルカリなどECフリマ市場が盛り上がっているが、シュッピンは自ら買い取って販売する。専門知識を持って買取・販売を行うため安心感が強く、ユーザーからの評価が高い。
業績は右肩上がりに成長している。カメラや時計を趣味とする人は頻繁にカメラ本体や部品の買い替えを行うため、ヘビーユーザーを囲い込むことができれば今後も安定的に成長することが想定される。
創業者で現会長の鈴木慶氏は、かつてソフマップ(2690)、ドリームテクノロジーズ(現トライアイズ、4840)を創業し、同社が3社目の上場となる。叩き上げで事業を作り上げてきた実績は十分と言える。
Next: 「中国関連銘柄」に妙味あり。注目の2銘柄とは?
(2)中国関連銘柄
米中貿易戦争の影響を直接的に受ける中国関連銘柄は、トランプ大統領の対中強硬発言が目立ち始めた2018年初から大きく値下がりしていました。中には米国企業との直接取引ができなくなったZTEなど、企業の存亡に関わる影響を受けた銘柄もあります。
足元でも、ファーウェイ(非上場)のように、米国の「中国封じ」により直接的な影響を免れない銘柄もあるでしょう。
また、対中関税の引き上げにより影響を受けるのは中国で生産を行うAppleなどのアメリカ企業が中心ですが、現地生産が鈍ることで景気減速は免れません。その傾向は工作機械の受注減速などにすでに表れているようです。
一方で、中国経済の成長を牽引しているのは、国内の投資や中間層の拡大による消費の増加です。中国の上場企業の大半は内需企業であり、米中貿易戦争の直接的な影響を免れながら成長が見込める銘柄が少なくありません。
日本の中国関連銘柄であっても、中国の内需をあてにする企業なら、消費の拡大や政府の景気刺激策により需要が見込める銘柄もあります。
成長率が鈍化したとはいえ、6%超の経済成長が見込める世界第2位の消費市場を無視することはできません。米国株に先行して下落した市場には、すでに多くの投資妙味のある銘柄があります。その中で、私が注目している企業を挙げます。
アリババ(BABA)
中国インターネット通販(EC)市場で5割超のシェアを占め、市場の急速な拡大とともに成長。時価総額は世界トップ10入り。
中国のEC市場規模は圧倒的な世界一であり、なおかつ政府の支援を受ける国内企業にとって圧倒的に有利な競争環境。Amazonですら手を出すことができず、逆に同社はAmazonの真似をするだけで成長することができる。
インターネット市場の拡大と中間層の増加による消費の拡大の恩恵を受ける同社の優位性は当面揺るがないものと考えられる。
コマツ<6301>
米中貿易戦争による景気減速懸念で、2018年初から株価は下落傾向。一方で、PER9倍、配当利回り4%半ばと非常に魅力的な水準となっている。
建機ではキャタピラーに次ぐ世界シェアを誇り、確固たる地位を確立している。業績は好調で、今年度は過去最高の売上高・利益を見込む。近年はITを活用した現場の無人化や保守サービスに力を入れ、ますます盤石。
中国の景気刺激策により需要が増えれば景気に逆行する可能性もあり、そうでなくても長期的に見れば世界的な建機の需要は底堅い。財務状況も良好であり、長期的に安心して持てる銘柄と言える。
Next: 頼りになる「高配当銘柄」/勇気を持って投資できるかで今後10年が決める
(3)高配当銘柄
高配当銘柄は、どんな市場環境でも頼りになります。株価の変動を気にせずに持ち続ければ確実に配当をもらい続けることができますし、配当の高さは株価の下支え要因となります。業績が良ければ株価が上昇することもあり、まさに一石三鳥です。
高配当株を選定する上で大切なのが、配当の継続性と配当利回りの高さです。
いくら直近の配当利回りが高くても、減配があれば受け取る配当が減るばかりか、株価も大きく下がってしまいます。そのため、業績が変動しやすく、業績連動配当を行っている企業は避けなければなりません。
過去10年以上にさかのぼって減配がなく、かつ業績が安定している銘柄なら安心して持つことができます。高配当株投資は比較的初心者向けの投資ですが、少なくともこのくらいのことは確認しなければなりません。
過去の配当が安定していて、配当利回りが高ければ理想の高配当株に近づくでしょう。5%という数字が一つの目安になります。これより高ければ株価の下値を支え、かつ受け取って満足感の得られる数字です。
株価下落により、高配当の基準を満たす銘柄がかなり増えています。これから株を始める人は、まずは配当利回りの水準を見て投資することをおすすめします。以下、参考銘柄を挙げます。
みらかホールディングス<4544>
病院から検査を受託する受託臨床検査や臨床検査薬の開発・製造・販売を行う会社。臨床検査薬の富士レビオと受託臨床検査のSRLが2005年に経営統合して誕生。
大病院の検査に強みを持ち、先天異常や染色体検査シェア7割を持つ。医療現場においては検査の重要性が高まっており、それを請け負う同社のプレゼンスは高い。
足元の業績は振るわないが、米子会社の整理や不採算プロジェクトの整理、構造改革費用など、過去の整理と将来に向けた動き。コストを大幅に削減する新施設も建設中で、稼働すれば業績改善が見込める。
12期連続増配を続けていて、財務状況も良好。それで配当利回り5%台は魅力的な水準と言える。
AT&T(T)
アメリカで第2位の携帯キャリアで1.4億件の回線契約を誇る。3位のTモバイルと4位でソフトバンク傘下のスプリントは統合により米国の携帯市場は実質3社による競争。
34期連続増配を達成し、事業内容も個人や法人向け通信事業と安定した収入が見込める。一方、9兆円にのぼるタイム・ワーナー(TWX)買収による債務増加が懸念材料。
財務不安は残るものの、携帯事業は安定し、配当利回りは7%台。米国株投資の入り口としては悪くない銘柄と言えよう。
ここで勇気を持って投資できるかどうかが今後10年を決める
ここで挙げた銘柄はあくまで参考ですが、足元の株価下落により割安な銘柄が増えています。
株価の下落は怖くもありますが、ここで勇気を持って投資できるかどうかが今後10年の投資パフォーマンスを分けると言えるでしょう。
2019年は割安になった銘柄をたくさん探し、たくさん投資する年になりそうです。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年12月27日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。