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FRBの「無慈悲な利上げ」を市場が悟る時、悲劇的なマネー逆流は始まる

米FOMC(12/15-16)での利上げを目前に控え、調整色を強めてきた内外株価。しかしこれはまだ「悲劇的な調整」の入り口にすぎないかもしれません。「過去2ヶ月、過剰な期待で行き過ぎていた株価は、市場コンセンサスをはるかに上回るFRBの利上げ幅・ペースが明らかになることでリスクオフに向かう」とするのは、元ヘッジファンドマネージャーで資産運用アドバイザーの「E氏」です。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

3月以降、毎回30bps利上げも。想定外の利上げ幅・ペースに要警戒

9年半ぶりの利上げを控え、リスクオフは始まったばかり

米FOMC(12/15-16)での利上げ直前になって、ようやく世界のマーケットは10月からの楽観相場に終止符を打ち、リスクオフに向かい始めました。

きっかけは先々週のECB理事会で決定された追加緩和が物足りなかったからですが、FRBの年内利上げもECBの追加緩和の内容も、当局要人によって事前にアナウンスされていたにも関わらず、マーケットが勝手な期待で暴走していただけなので、オーバーシュートの反動が出始めただけです。

12/6(日)時点の日経平均見通しは以下のようなものでした。

これに対し先週金曜(12/11)の終値は19230円だったので、ほぼ想定通りの展開です。このところ2週連続で大幅な下げが続いていますが、過去2ヶ月過剰な期待で行き過ぎていたので、悲劇的な調整は始まったばかりです。

先週の米国株は、利上げが迫る中で原油安や商品安を嫌気した動きも見られ、S&P500は週間で-3.79%と大幅な下げになりました。

こうした中で日本株もリスクオフ的な動きが広がったのですが、週末金曜にアヤ的な上げがあったことから、日経平均の週間の下げは-1.40%と先進国では最も軽微な下げに留まっています。

しかし、このところアヤの解消が本格化してきているので、先週金曜の上げの反動は今週になって出てくると思われます。

ECBの追加緩和に失望した欧州株は先週も大幅な下げになっていますが、原油安や利上げを嫌い米株の下げも本格化してきました。そんな中で下げが軽微な日本株は、世界で懸念されていることを十分消化していないのでかなり能天気だと言えます。

すでに「脳天気」の根拠は消え去っている

元々、9月利上げを懸念したリスクオフで下げていた世界のマーケットが能天気になるきっかけは、10月初旬に発表された雇用統計が弱かったので、利上げは来年3月以降になるだろうとマーケットが勝手に決め付けたことでした。しかし、利上げはマーケットの期待通りに遅延せず、FRB関係者が従来から言ってきた年内利上げになることが確実なのですから、10月以降の上げは全て帳消しになってもおかしくありません。

なので、先進国株式は急速に9月水準に近づいているのですが、日本株だけが起きていることの認識が足りないような下げになっています。

1年パフォーマンスでみても日本株は先進国最高のパフォーマンスです。

基本的に1年パフォーマンスのような長めのパフォーマンスで見ると、日欧のようにマネー増加の裏づけのある地域の株式市場が強く、引き締め懸念のある地域の株式市場が冴えないパフォーマンスになっていますが、日本はこれ以上の追加緩和が当面なさそうなのに、追加緩和がまだありそうな欧州以上のパフォーマンスになっているのです。

日本株のこの妙な値持ちの良さは8月に世界を襲ったリスクオフ前にもありましたが、その反動で8月は先進国でも独歩の下げになったのです。

今月は欧州債務危機やリーマンショック以来の「最大に危険な月」

一方の新興国市場は10月からのリバウンドの持続性は弱く、リーマンショック以来となる商品・エネルギー市況安につられ、再度8月の安値に到達しました。

商品市況は既に8月安値を下回ってきているので、新興国のリスクオフは更に拍車が掛かるものと思われます。

このように危険な兆しが増え、ショックを誘導するトリガーが増えてきていることから、先進国株式市場もリスクオフ的な動きが加速していくと思われますし、値持ちが良かった日本株は独歩の値幅で下げる可能性も高まっています。

結局、11月のリバウンド、特にパリ同時多発テロ以降の上げは完全にチキンレースとなりました。ロングに変えたものの、ショートに戻しきれずに留まっている投資家が多いため、FOMCの利上げ以降もポジション変更による売り圧力が続くものと思われます。

今月は欧州債務危機やリーマンショック以来となる最大に危険な月になるでしょう。

Next: ついに始まる悲劇的なマネー逆流、12月FOMCは歴史の転換点



ついに始まる悲劇的なマネー逆流、12月FOMCは歴史の転換点

今週は重要指標及びイベントが目白押しですが、とりわけ重要なのはFOMCです。

リーマンショック以来となる金融緩和政策が終了して利上げが始まる歴史的な転換点となるので、FOMCが最も重要です。

マネーの方向性~日欧中銀による必死のリスクオン維持

リーマンショック対応から始まったFRBの量的緩和が昨年10月のFOMCで終了しました。今後は利上げと保有債券売却によるドルの回収が始まります。

他に供給する基軸通貨マネーが無いとマネー逆流になり過剰流動性相場は完全終了するところでしたが、間一髪のタイミングの昨年10末に日銀が追加緩和をしたことで、先進国に関してはリスクオフには歯止めが掛かりました。

その後、原油安やギリシャ政情不安が出てきたところで、今年3月から欧州ECBによる量的緩和も始まり、そして10月理事会後の定例会見で今年12月には更なる緩和があるとECBがアナウンスしました。

何もなければリスクオフになるところを、日欧の中央銀行が必死にマネー供給してリスクオンマーケットを維持しているというのが現状です。

FRB金融政策のポイント「市場の関心は来年末のFF金利水準」

FRB政策の今後のポイントは利上げ時期と債券回収時期です。本格的なマネー逆流は保有債券売却(市中からドル札を吸い上げる)でFRBのB/Sを削減し始める再来年以降ですが、利上げをするだけで対外ドル資産が米国に還流するので、グローバルのドル過剰流動性は減少します。

リーマンショック以降長く続いた緩和を引き締め転じるために、FRBは文言を少しずつ変更し慎重に利上げに向けた地ならしを進めてきました。

今年5月からは毎回の会合でいつ利上げがあってもおかしくない状態が続いています。9月利上げが確実と思われていましたが、8月に世界を襲った混乱の様子を見るために延期をしていました。しかし、11月開催のFOMC以降、12月に利上げをするという強いメッセージをFOMCメンバーは打ち出すようになりました。

今月FOMCまでに出る指標で最も重要だった11月雇用統計は、マーケットコンセンサスを超過する良好な内容でしたし、先週発表の米小売売上高も良好だったので、経済指標面では利上げは確実です。

今週15-16日開催のFOMCで利上げが決定されないケースは、それまでの2日間で米国株が10%以上の下げが生じるなどくらいです。市場の関心も利上げがいつかではなく、どこまで金利は上がるか、来年末はどの程度になるかといった先の事になりました。

しかし、今月来月の株価にとって重要なのは終着の金利水準ではなく、利上げペースと利上げ幅と来年末時点での金利水準です。利上げがいつかの議論はもう終わりましたので、本日は以下のことを考えます。

FRBは来年末までに5回、市場は3回の利上げを想定しているが――

まず、来年末のFFレートのドット分布(FOMC参加者による予測平均)とマーケットコンセンサスは以下のようになっています。

来年の利上げの回数はそれぞれこのようになっています。

とすると、今月の利上げを含めて、来年末までに5回の利上げがあるとFRBは考え、市場は3回あると考えているということです。そこで初回の利上げ幅は以下のようになります。

なので、今週開催のFOMCで利上げ幅が、20bpsならばマーケットは安心するでしょうし、25bps以上だとマーケットコンセンサスの利上げ回数でも75bpsになるので、ネガティブになります。

Next: 12月の次は3月、FOMC開催月は「毎回30bps利上げ」の可能性



12月の次は3月、FOMC開催月は「毎回30bps利上げ」の可能性

では、実際どうなりそうなのかについて考えましょう。

まず、FOMCメンバーの入れ替え効果です。先週の相場見通し記事で書いたように、来年からタカ派が一気に増えます。一方、最もハト派のエバンス総裁の来年末のFFレート見通しは1%以下が望ましいと言っていましたね。

先ほども書いたように、FOMCの構成は来年からタカ派が一気に増えますので、ドット分布の平均値も今より挙がる可能性が高いのです。

賃金上昇率が既に2%に到達して、年明けから原油安の影響が無くなるということは、早い段階で2%の金利水準にしないと賃金インフレが加速するということになります(厳密には違いますが大雑把に考えてください)ので、私は来年末のFFレートは2%以上が妥当だと考えています(相場見通しをする前提ではなく、過熱を防ぐために妥当という意味)。

私がややタカ派とすると、来年以降のドット分布は現在の1.3%程度から1.5%以上に上方修正されていくでしょう。

利上げの回数が変わらないとすれば、1回当たりの利上げ幅は40bpsになります。しかし、現在のドット分布が1.3%なので、初回利上げがは25~30bpsになるということは、「タカ派が増える来年は、利上げ回数は現在FOMCメンバーが予想している4回より増える可能性が高い」ということになります。

つまり、1回の利上げを30bpsとすると、来年の利上げ回数は5回必要になってくるのです。

5回の利上げとなるとほぼ2ヶ月に1回ですが、FOMCは毎月あるわけではなく、2月5月8月10月は開催されません。

となると、開催される月はほぼ毎回利上げになる可能性も高いのです。

イエレンFRB議長が強調していた緩慢な利上げペースを具現化するために、今月利上げをしたら1月の利上げの可能性は下がるでしょう。しかし、2月はFOMCがないので、来年3月が第2回目利上げです。

その2ヶ月後の5月もFOMCが開催されないので、次は7月、そして、9月、11月、12月とやって初めて5回の利上げが可能になってきます。

現行FOMCメンバーは11月を除いた程度で、来年からのメンバーでは上のような利上げペースになる可能性が高いのです。

そして、利上げ幅は毎回30bps程度。

ドットチャートは3ヶ月に一度出てくるので、今回のFOMCでも出てきます。そのときのドットチャートが上のようになっていたら、初回利上げより「先の利上げペースを見るようになってきたマーケット」はネガティブに捉えるでしょう。

従来から出ていた指標ですが、今までは初回利上げ時期に気を取られみんなが無視していたのです。なぜ、無視していたかというと、それなりに理由はあります。それは、今までは後連れだったからです。

これは2014年3月時点のドットチャートですが、当時は今年末のFFレートを1%程度と見ていました。

今回利上げになっても30bps程度なので、結局、FOMCメンバーで最もハト派的な金融政策になってしまっているのです。これは利上げをするとリーマンショックの再来になってしまうかもしれないとハト派のイエレンFRB議長が過度に恐れたためですが、こういった「過去はFOMCメンバーの見方ほど景気は回復してなかったので、どうせドットチャートも後連れするだろう」と見ていたのです。

しかし、ハト派も納得する労働環境になったことと、来年からタカ派の構成が増えるので、今後も金融政策はドットチャートより後連れするということはないでしょう。むしろ、今年9月のドットチャートより早まる可能性もあるのです。

ということは、次の利上げは来年6月で、その次は来年12月でいずれも20bps程度で、来年末に60bps程度のFFレートだろうと思っているマーケットにとっては、利上げが想像以上に多い、利上げ幅は想像以上に大きい、ドット分布は上方修正されて来年末のFFレートが1.5%になっている……というようなネガティブなことが今後も続くのです。

以上を整理すると以下のようになります。

FRB マーケット
初回利上げ幅 25~30bps 20bps
次回利上げ時期 3月 6月
来年利上げ回数 4回 2回
来年末FFレート 1.3% 0.6%

これに対し私の利上げ予想は以下のように変えます。

初回利上げ幅 25~30bps
次回利上げ時期 3月(8割)、1月(1割)、4月(1割)
来年利上げ回数 5回
来年末FFレート 1.6%

前回見通しより1月利上げの確率を引き上げたのは、このところの要人発言が「早期利上げをしないと、むしろ経済への悪影響が出てくる」という発言が増えているためです。また、来年末のFFレート水準も、先週の1.3~1.5%を引き上げていますが、これも同様の理由です。

ただ、私の見通しでマーケットを予想すると、過度にリスクオフ的なマーケットになってしまうので、明確にリスクオフ入りしない限りはこの見通しを相場予測にはいれず、基本はFOMCとマーケットとの認識ギャップのみを当面の見通しの前提にします。相場が超悲観に傾いたときは下値の目処として私の見方を使用しますが、それまでは市場コンセンサスとFRBの認識ギャップのみを見ているほうが正確な判断が可能と考えています。

今週は歴史的なFOMCがあるので、他のどんなイベントよりFOMCが重要です。当局からの発信材料だけでなく、マーケットが何に関心を持ってきたかも重要になります。

市場が次回利上げ、利上げ幅、来年末のFFレート水準を気にするようになった場合、リスクオフは次のステージに進むので、マーケットが何に関心があるのかについても非常に重要です。

Next: ECB「ドラギ以外は緩和に消極的」/日銀「緩和の可能性わずかに」



欧州ECB金融政策のポイント「ドラギ総裁以外は緩和に消極的」

先々週のECB理事会での追加緩和は、懸念したとおりにマーケットにとってのネガティブサプライズになりました。ECB発のニュースを丹念に拾って客観的に判断していけば今回の決定は予測可能でしたが、マーケットは完全に妄想の暴走をしていました。勿論、それもこれも、「あらゆる手段を検討する」と期待を煽ったドラギECB総裁が悪いのです。

ECBの追加緩和後も「ECBの行動に限界はありえない」と更なる追加緩和を示唆するような発言をしましたが、他の理事はもっと冷めた表現をしています。

また、追加緩和に肯定的なクーレ専務理事は、更なる追加緩和の可能性は認めましたが、現行でその懸念は無いという見方をしています。

必要ならば追加緩和は可能だけど、デフレのリスクは弱まったと言っているので、言い換えると早期緩和は必要ないという見方です。

結局、ドラギECB総裁以外で積極的な人はほとんど居ないのです。このため、ドラギECB総裁が更なる追加緩和を示唆する発言をしても、信頼性が薄らいでいくと思われます。ドラギECB総裁が嘘を付いているのではなく、ドラギECB総裁の願望ほど他の理事は追加緩和に肯定的ではないので、ECB全体の平均意見ではないとマーケットが気づきだしたら、ドラギECB総裁がリップサービスをしてもマーケットは反応しなくなるでしょう。

先々週のECB理事会で、マーケットは騙されたという認識を持ってしまったので、次の追加緩和が期待できるものになるとマーケットが考えるには、実際そうならないと無理です。

従って、ECB発のマネーの方向性は、過去2ヶ月で過剰流動性相場を期待した反動が続くために、楽観的だったコンセンサスがECBの平均意見に収斂する過程で引き締めサイドになるでしょう。

今週もドラギECB総裁の発言が予定されていますが、マーケットはあまり重要視しないと思います。敢えて注目するとしたら、「更なる追加緩和を期待させる発言をした際にマーケットがどう反応するか」です。

全く好感しなくなったら、信頼関係は崩れたので、実際に追加緩和があるまでECB発の追加緩和期待は醸成されにくいでしょう。

日銀金融政策のポイント「サプライズ緩和の可能性わずかに」

結局、日銀は11月も追加緩和を行いませんでした。それどころか、引け後の会見では、追加緩和に対しての議論がされた形跡もありません。このため、マーケットも追加緩和を予想する人が急速に消えました。

今週、日銀政策決定会合がありますが、黒田日銀総裁が嘘を付かない限り、ノーアクションだと思います。

仮に黒田日銀総裁が追加緩和を考えて居ても、これ以上の緩和に否定的な委員が3名いることや、日銀幹部も来春以降の賃上げ状況を見る必要があると言っている以上は、現時点での追加緩和は否決される可能性も高いです。

従って、99%以上の確率でノーアクションですが、昨年突如の追加緩和がFRBの量的緩和終了と同時でなされたことを考えると、FRBの利上げと同タイミングで世界のリスクオフを防ごうというアクションを企てないとも限りません。

通常、日銀の金融政策で他の中央銀行の政策は考慮しませんが、昨年のタイミングが偶然にしてはあまりにも揃っているので、リスクファクターとしての追加緩和を念頭に入れておく必要があるかもしれません。

即ち、米国利上げが決定されても日銀政策決定会合の結果を見るまでは世界の過剰流動性相場が終了したかどうかの確証は持てないという事です。

今回ECBが失ったような投資家との信頼関係を黒田日銀総裁は昨年の追加緩和時に失ったままなので、マーケットが期待していない今は、だからといって油断するのは危険かと思っています。

以上を整理すると、今週の中央銀行がらみでは、FOMCでの利上げ幅と次回利上げに関する示唆がされるかどうかが最大に重要ですが、日銀のサプライズに備える必要も多少はあると思います。

Next: リスクオフのシナリオ(1)米国発のマネー逆流



リスクオフのシナリオ(1)米国発のマネー逆流

昨年10月の米国の量的緩和終了前後から新興国は既にリスクオフでしたが、同時期に発表された日銀マネーと今年3月に始まったECBの量的緩和に救われ先進国は今まではリスクオンが継続していました。

しかし、今月初旬のECBではマーケットが期待した国債買い入れ増額は決定されなかったので、今年3月以降の日米欧のマネー供給ペースに変化はありません。そんな中で、いよいよ米国の利上げが始まります。

先進国のリスクオフ、特に米国株のリスクオンが終わる場合の可能性は上海株安を加えて4つありましたが、ギリシャ問題が片付いたので、地政学的リスク以外でマーケットが気にすべきリスクオフになるトリガーは3つに減っています。

リスクオフになるトリガー

この3点はいずれも密接に関係しており、特にFOMCで利上げ先送りの理由を海外発の物価下落による影響としたことで、全てが相互的に絡んでいますが、その根源は中国経済に尽きます。

つまり、

です。

そのいずれかがおきても、玉突き的に他のリスクが現実化するので、結局は全てが起こる可能性が高いのです。

こうして見ると、元をただすと中国経済要因が独立リスクかつ一番の問題だということになりますが、ここではそれぞれ別個に検討することにします。

まずは米発のマネー逆流懸念、引き締め懸念から来るリスクオフシナリオです。現在、世界のマーケットがリーマンショック以降の高値圏で維持出来ているのは、米国の利上げがない中で日欧の緩和マネーの恩恵があるからに過ぎません。

ジャンク債などのリスク資産は既にリーマンショック来の水準までになっているのに、多少調整したといっても依然として市場最高値圏に米国株が位置しているのは、過剰流動性マネーに支えられているだけです。

著名投資家アイカーン氏は、これだけ利回りが急上昇しても、まだ始まったばかりと言っています。

企業収益は既にピークアウト気味なので、過剰流動性相場によるPER上昇がないと相場の上昇は見込みにくくなっていますので、日米欧中央銀行の政策スタンスは非常に重要です。

今年6月中旬以降、世界のマーケットに調整感が出てきたのは、日米欧中央銀行のマネーの方向性が微妙にタイト気味に転じたことがきっかけでした。

しかし、今年10月以降は、その巻き戻し的な動きになりました。

つまり、日米欧の中央銀行の全てがマネーを緩める方向に動くという見方になってしまったために、マーケットは勝手に妄想的なリスクオンになったのです。きっかけは弱い米国雇用統計を受けて、マーケットコンセンサスの利上げ時期が後連れしたことです。

ほぼ同時期にFOMCのタルーロ理事とブレイナード理事が相次いで年内の利上げに反対する発言をしたこともその理由ですが、他の要人は引き続き年内利上げに賛成する意見が主流でした。FOMCメンバーで最もハト派の二人がこの時期に発言をしたことで、結果的にマーケットをミスリードさせることになったのです。

10月の楽観相場において、中央銀行と市場との見方の違いは以下のようになっていました。

つまり、欧州ではベストシナリオを織り込み、日米は当局が否定しているのに緩和的行動を織り込んでいたのです。

通常、解釈の齟齬は、中央銀行ウォッチャーなどの分析やプロ投資家の修正で徐々に中央銀行の真意に収斂していくのですが、今回はあまりにも長く認識ギャップが続いていました。

その結果、今月上旬のECB理事会で追加緩和が決定されたのに、その内容がショックだとマーケットが急落してしまったのです。

Next: リスクオフのシナリオ(2)著しく乖離した当局と市場の認識が修正される



リスクオフのシナリオ(2)著しく乖離した当局と市場の認識が修正される

今の株式市場は中央銀行のマネーの方向性がどうなるかという見方で動いているといっても差し支えないですが、今回のように「市場の見方と中央銀行の真意との認識ギャップが時に大幅に乖離してしまう」ことがあり、こういった認識ギャップがあまりにも大きくなるとブラックマンデーなどの暴落に繋がってしまうのです。

今回のアヤが数ヶ月にわたり長大になったのは、リーマンショック以降のマネーの大量供給で、いまだかつてないくらいに中央銀行の影響力が大きくなっているのに、中央銀行の情報発信力が応え切れていないのと、市場参加者の咀嚼能力も十分でないためでしょう。

ということは、今週開催のFOMCで利上げが決定された場合も、マーケットと中央銀行の認識ギャップが今から修正される可能性があるという事です。

先ほどのFRBの項目で書きましたが、依然として100%の参加者が今月利上げを想定していないことと、金利先物から推定される来年末のFFレートから計算すると、マーケットは今回の利上げを20bps程度で見ているのに対し、FOMCのドットチャートから逆算すると25~30bpsになるため、利上げ幅がマーケットコンセンサス以上の場合は、FOMCでの利上げ決定をきっかけに更に株価が下がる可能性があります。

一方で今回の利上げが20bps程度の場合は、以降の利上げも緩慢という見方から悪材料出尽くし的に買われる可能性もあります。

しかし、この場合でも、現行のハト派主体のメンバー構成でも利上げ回数が市場予想と大きく乖離しているのに、来年からはタカ派主体のメンバー構成になるため、市場の見方がFOMCの見方に収斂していくに連れて、リスクオンの度合いに拍車が掛かる可能性が高いです。つまり、初回利上げが軽微として上がった場合は、それはアヤであって持続性はあまりないと思われます。

一方、ECBはドラギECB総裁の発言の信頼性に対する疑問符が付き始めてしまったので、ECB発のマネーは当面は増額無しという見方に落ち着くと思われます。

最後の日銀の追加緩和観測は基本は消失しましたが、黒田日銀総裁はマーケットのかく乱を目的とした情報操作をするので、今週の日銀政策決定会合で追加緩和がなされるリスクは皆無とはいえません。しかし、今回の日銀政策決定会合でノーアクションの場合は、賃上げの効果が見える来年5月以降まで追加緩和の可能性は低いと思われますので、今週の日銀政策決定会合を過ぎると、日銀発のマネー増額の可能性もなくなります。

この2週間で調整したとはいえ、現時点のマーケットは、依然として10月以降のマネー増大期待で上がった分を帳消しにしていません。従って、今も中央銀行のアクションに対し過剰に楽観的な見方で市場価格が形成されているため、今後日米欧中央銀行の真意にマーケット見通しが近づくだけでも、(マネー引き締めとなる)リスクオフ的な動きになり易いでしょう。

特に、FOMCの見方とマーケットの見方は著しく乖離が見られるので、利上げ決定後に、次回利上げや来年末のFFレート水準に対し、マーケットがきちんと読み込むようになれば、それだけでリスクオフに拍車は掛かるでしょう。これは次回利上げまで待つまでもなく、あと1ヶ月程度でマーケットの見方はFOMCの見方に近づいていくと思われますので、来年1月までは中央銀行発のリスクオフが加速し易いといえます。

Next: リスクオフのシナリオ(3)中国発の新興国ショック再来



リスクオフのシナリオ(3)中国発の新興国ショック再来

次に新興国発のリスクオフシナリオですが、先々週のECBショック以降、ドルインデックスが急落したので、新興国通貨は落ち着いたと思われましたが、実際はドル以上に下落しており、8月水準に急速に近づいています。

トルコに関しては、ロシアからの制裁もあるので、フラジャイル5の中では最も危険です。

通貨が1割減価すれば、借金は1割増えるのですから、米利上げでトルコリラが売られるにつれ、トルコのデフォルトリスクは高まります。しかし、トルコだけでなく、ロシアも他の新興国もみな苦しい状況です。

日米欧の株式市場だけ見ていると気付きませんが、昨年10末の米量的緩和終了以降、エマージング株式市場は低迷したままです。

米国の利上げが始まれば、更に資金は流出するので、株式市場は低迷し通貨は売られ、そして借金はどんどん水ぶくれして危険水域に近づいていくので、来年の早い段階で、どこかの新興国のデフォルト懸念をきっかけにした新興国危機が勃発する可能性がかなり高まったと考えています。

最後は中国経済懸念(中国株だけでなく元切り下げリスクも出てきたのでリスクを中国経済全体にします)ですが、指標となる中国株は買い支えにも関わらずこのところじり安の展開が続いています。

10月以降、政府の元買い介入が起きたときに上海総合指数が強かったので、介入をして売却した資金が株式市場に流入している可能性が高いです。実際、広義のマネーサプライである社会融資総量は、11月に異常な伸びになっています。

それまで10-20%の伸びだったのに突如2倍です。これとていんちき指標なのでしょうが、この指標を強く見せるとIMFなどからインフレリスクを指摘されるので、普通の感覚を持った中央銀行ならば低く見せたいと思うでしょう。

この異常な過剰流動性マネーで持ち堪えていた中国株ですが、今月に入り元の雲行きが怪しくなってきたので、買い支え資金も消えてきたと思われます。元が弱含んできたのは、SDR通貨として採用されたので介入する必要性が無くなったからでしょう。基本は輸出回復のために元を切り下げたいと思っているのですからこれは自然なことですが、その結果、元は8月の強制切り下げショックで売られた水準を上回ってきました。

つまり、私がかねがね指摘している、中国発で新興国ショックがおき、それが世界に波及する形で、先進国もリスクオフになった8月ガラが再現つつあるのです。

となると、中国株も売られやすくなってきました。先週はヘッジファンド関係者の逮捕や、トマムを買収した経営者の拘束など、「都合の悪い人物を片っ端から拘束する」といういかにも共産主義者らしい姑息な手法を取り始めましたが、マーケットはこういう情報を極端に嫌うので、今週の中国株はかなり下げるかもしれません。

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元ヘッジファンドE氏の投資情報』(2015年12月14日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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