非常にユニークなアイデアで、アメリカの動画ストリーミング市場で圧倒的にシェアを伸ばすRoku。今回は、そのビジネスモデルについて詳しく解説します。(『決算が読めるようになるノート』シバタナオキ)
※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2019年9月17日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
YoY+86%と驚異的な成長をみせるプラットフォーム事業
Q. AbemaTVの目指す姿!? 動画ストリーミングRokuの売上成長率は?
今日の記事では、アメリカの動画ストリーミングサービスを提供している「Roku」を取り上げたいと思います。
Rokuは非常にユニークなビジネスモデルで、アメリカの動画ストリーミング市場で圧倒的にシェアを伸ばしているプレイヤーです。
日本では該当するプレイヤーが今のところいないかと思いますが、今後AbemaTVなどの将来の参考になるモデルかと思いますので、詳しく見ていきましょう。
※参考:Roku Q2 2019 Shareholder Letter
Rokuは2002年に創業され、カリフォルニアに本社をもつNASDAQ上場企業です。ちなみに社名の由来は、創業者のアンソニー・ウッドが作った6つ目の会社ということで、日本語の「六」に由来しているそうです。
それでは、はじめにRokuのビジネスモデルを見てみましょう。ハードウェアとプラットフォームサービスの2つから成り立っています。
ハードウェアはこちらにあるようなテレビに差し込むスティックを販売しています。
出典:同上
プラットフォームサービスは、ここにあるような様々なストリーミングサービスをRokuのデバイスとリモコン経由で閲覧できるようになる他、「Rokuチャネル」と呼ばれる独自のキュレーションサービスを行っています。
Netflixのように自社でコンテンツを大量に制作することなく、プラットフォームとしてデバイスとサービスを掛け合わせる形で提供しているのがRokuのユニークな点です。
売上・セグメント別成長率
続いて決算の方も見ていきたいと思います。
2019年8月7日に発表された第2四半期の決算を見てみると、売上はYoY+59%の$250M(約250億円)、粗利益は同じく+47%で$114M(約114億円)となっています。成長率がとても高く見えるかと思いますが、さらに驚くべきはプラットフォーム事業の売上成長です。
プラットフォーム事業は、YoY+86%で$168M(約168億円)まで売上が大きくなっています。
粗利益の方を見てみると、プラットホーム事業は粗利益率が65.4%もあるのに対し、プレイヤー事業つまりデバイス事業の方は粗利益が5.5%しかありません。
つまりRokuのビジネスモデルというのは、デバイスをできるだけ安価に大量に配布して、アクティブユーザーを獲得したうえで、そのアクティブユーザーから長期にわたって収益を回収していくモデルになっているという意味です。
さらにRokuが強いのは、ユーザー獲得のためのデバイス販売で粗利益がプラスになっているという点です。ユーザー獲得で大きな赤字を作ることなく、少ないながらもマージンを取りながらユーザーを増やしていっているというは強みと言えるでしょう。
Rokuのプラットホーム事業のマネタイズは、主に広告で行われています。テレビ番組の途中に広告を差し込む形でマネタイズができているわけですが、以下にあるように広告のインプレッション数が前年同期比で2倍以上に増えているという記載もありました。
Next: 収益に大きく影響する、アクティブユーザーの状況は?
アクティブユーザー数・ARPU
Rokuのモデルはデバイスを安価に販売し、そこで獲得したユーザーから長期にわたってプラットフォーム事業で売上を上げていくモデルだという話を書きましたが、実際のアクティブユーザー数やARPUを見てみましょう。
出典:同前
アクティブユーザー数はYoY+39%で3,000万人を超える規模まで増えてきました。
視聴時間はYoY+72%で94億時間まで増えています。アクティブユーザー数の伸びと比較して視聴時間が圧倒的に速く伸びていることは、広告でマネタイズをするに当たって大きなプラスポイントだと言えるでしょう。
過去12ヶ月の1ユーザーあたりの売上は前年同期+27%で21ドル(2,100円)となっています。
ユーザー数の伸びに対して、ARPUの伸びが遅れているのは、マイナスの意味では広告での収益がまだ十分でていないという見方も出来ますし、プラスに見ればまだまだ伸びしろが大きいとも言えるのではないでしょうか。
アメリカのストリーミングデバイスでは一人勝ち状態
アメリカの動画ストリーミングデバイス市場を見てみましょう。
出典:同前
グラフの中で一番急に右肩上がりになっているのがRokuです。ご覧の通り成長率でも、規模の面でも市場を独占しつつあるのがRokuだと言えるでしょう。
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・Roku 約4,500万台 急成長中
・Playstation 約3,000万台 フラット
・Tizen 約3,000万台 成長中
・Xbox 約3,000万台 フラット
・Google 約2,500万台 成長中
・Amazon Fire TV 約2,500万台 成長中
アメリカで他に動画ストリーミングデバイスとして存在感があるのが、「PlayStation」、「Tizen」、「Xbox」、Chromecastを含む「Google」、「Amazon Fire TV」 となっています。
これらの巨大ブランドよりも市場シェアが大きく、かつ成長率が早いのがRokuだと覚えていただければと思います。
以下では、Rokuの成長戦略を詳しく見ていきたいと思います。
Next: Rokuがアクティブユーザーを伸ばし続けられる2つの理由
成長戦略その1: Rokuデバイスを通じてアクティブユーザー獲得を加速
上でも書いたとおり、Rokuのユーザー獲得戦略はデバイスを安価に販売するというモデルになっています。
デバイスの販売台数がYoY+36%も増えており、これだけの規模でありながら過去9四半期の中で、最大の成長率となったという具合に成長スピードが加速しています。
出典:Roku公式サイト
以前はこの写真にあるように、据え置き型のデバイスを主に販売していた時期がありましたが、最近はスティック型のデバイスをメインに販売しています。
出典:同上
このようにデバイスが小型化することで値段が下げられるだけではなく、接続も簡単になるのでユーザー獲得には大きなプラスになっているのではないでしょうか。
成長戦略その2: 1st Partyユーザーデータを活用したレコメンド・広告
Rokuを語るうえで2つ目に大事なのが、ユーザーデータを活用したレコメンドや広告です。決算資料の中から大事なポイントを引用してみたいと思います。
今回の四半期に初めてレコメンデーションエンジンを導入したことが、Rokuチャンネルの成長と収益化に大きく貢献したと書かれています。
このように機械学習が導入されていくことでRokuの広告による収益化がより加速します。
アメリカのインターネット視聴率の測定や市場分析を手がけるコムスコアによると、Rokuに次ぐ二番手の動画ストリーミングサービスと比べて、広告挿入が可能な視聴時間がRokuは69%以上上回るとされています。
Rokuはユーザーのデモグラフィックデータを正確に把握しているので、広告主にとって正確なターゲティングが行いやすい広告プラットフォームになっていると書かれています。
Rokuのユーザー特定技術は、IPアドレスをベースにしたユーザー特定に比べて21%以上も正確だという調査結果もあります。
これまでは広告がマネタイズの中心でしたが、最近月額課金型のプレミアムサービスも開始しました。
※参考:Roku brings premium subscriptions to Roku Channel, taking on Amazon Prime Video(Mashable 2019/1/3)
出典:同前
Rokuのユーザーは、Rokuのリモコンからこのスライドにあるような有料チャンネルに簡単に加入することができます。
ユーザーからすると、いちいち個別のサービスと契約する手間が省けます。Rokuのリモコンからワンクリックで有料サービスを閲覧することができ、請求もRokuがまとめて行なってくれます。
Next: Rokuが、ほかの動画ストリーミングサービスと決定的に違う点
まとめ
タイトルにも書きましたが、このRokuのモデルというのはAbemaTVなど、これから動画サービスで市場シェアを獲得していくプレイヤーには参考になるモデルなのではないかと思います。
おさらいですが、ほかの動画ストリーミングサービスと決定的に違う点が2つあります。
1つ目は、デバイス販売を行っているという点です。リモコンというテレビに接する際の最大のタッチポイントを獲得することで、アクティブユーザーのライフタイムを最大化する狙いがあります。
2つ目は、他の動画ストリーミングサービスと異なり、自社でコンテンツを積極的に制作していないという点です。
Rokuはプラットフォームサービスに徹して、他の動画ストリーミングサービスをRokuで利用できるようにすることで、広告ビジネスやプレミアムサービスの月額課金代行を行うことで収益を上げています。
現在動画ストリーミングサービス各社は、巨額のコンテンツ投資を行って投資金額が膨れ上がっていますが、Rokuはその大きな資本が必要になる戦いを避けながら成長できているとも言えるのではないでしょうか。
※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2019年9月17日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
image by: jejim / Shutterstock.com
『決算が読めるようになるノート』 2019年9月17日号『Q. AbemaTVの目指す姿!? 動画ストリーミングRokuの売上成長率は?』より抜粋
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