陸の孤島を走る
サジッド君と別れてからコンタの町に向かったのだが、その道のりは悲惨だった。スクマとコンタを結ぶ国道221号線がとんでもない悪路だったからだ。まともに舗装されている部分はほとんどなく、大半が月面を思わせるガタガタ道。しかも乾いた砂が路肩を覆っているので、荷物を満載したトラックが通るたびに埃がもうもうと舞い上がる。間違いなくインドでも最悪の道のひとつだった。
ノロノロと進む大型トラックを追い抜くためには路肩を走らなければいけないのだが、ごつごつした石ころでバランスを崩しやすく、常に転倒の危険と隣り合わせだった。とはいえ安全第一でずっとトラックの後ろにくっついていたら、いつまで経っても目的地には着けないし、大量の埃を浴びせられることになる。だから危険を冒してでも追い抜くわけだが、それに成功したと喜ぶのもつかの間、すぐにまた次のトラックが前方に現れるのだった。
僕はフルフェイスのヘルメットを被っていたから、埃の被害は最小限に抑えられたのだが、インド人ライダーの大半はここでもノーヘルだった。その代わりにスカーフを顔にぐるぐる巻いて、その上からサングラスをかけるという「月光仮面スタイル」で埃を防ごうとしていたのだ。そんな面倒なことをするんだったら、さっさとヘルメットを被りゃいいじゃないか思うのだが、インド人はどうしてもヘルメットを被りたくないらしい。ヘルメットは彼らの美意識に反するものなのだろうか?
仮にも国道と名付けられた道路がこんなにもひどい状態で放置されているのは、共産系ゲリラ組織「ナクサライト」のせいだった。オリッサ州とチャッティスガル州にまたがる森林地帯にはこのナクサライトが潜んでいて、政府軍とたびたび衝突しているのだ。州政府がインフラ整備を進めようとすると、それを阻もうとするナクサライトから攻撃(爆弾テロや要人の誘拐)を受けるので、この地は半ば陸の孤島と化しているのだった。
そんなこんなで全身埃まみれになりながら、ようやくたどり着いた町バドラチャラムでは、一泊180ルピー(360円)のハードコアな安宿に泊まった。部屋はほどほどに汚かった。テーブルも埃だらけなので、新聞紙で埃をぬぐってものを置けるようにするところから始めた。インドでは「安宿の掃除は泊まり客がする」のがお約束なのだ。
もちろんホットシャワーは出なかったが、ボーイが電熱器を持ってきてくれたので、お湯を使うことができた。バケツに水を汲み、そこにシンプルな電熱コイルを入れ、電気を通してから40分ぐらい待つと、熱々のお湯ができあがる。イヤというほど浴び続けた土埃を、お湯できれいさっぱり洗い落とすのは、なにものにも代えがたい幸せだった。