インドのスマホ事情が「抜け道」だらけで、まさにカオス

 

No Trouble No Life

わざわざ強調するまでもないことだけど、スマホは旅を快適にしてくれる道具だ。

僕は旅先でホテルの予約をしないので、新しい町に到着するとまず宿を探すために町のあちこちをバイクで走り回っているのだが、グーグルマップに「Hotel」や「Lodge」と入力すると宿が集中しているエリアが一発でわかるので、宿探しが劇的に楽になった。天気予報がリアルタイムでわかれば旅の計画も立てやすくなるし、GPSロガーを使って一眼レフカメラで撮った写真の場所を記録できるようになったのも画期的だった。

インドでもグーグルマップの情報量と精度は驚異的だった。たとえばこれはタミルナドゥ州の片田舎を走っていたときに撮った写真なのだが、このような轍に近い未舗装の道であっても、グーグルマップ上に誤差なく表示されていたのだ。これには本当に驚かされた。

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細く曲がりくねった田舎道を躊躇なく進めたのは、グーグルマップでこの道の先が国道に繋がっていると知っていたからだった。旧市街の路地裏をずんずん歩いて行けたのは、GPSで自分の位置を正確に掴んでいたからだった。スマホのお陰で旅先で道に迷うことがなくなり、自分が行きたい場所に確実にたどり着けるようになった。

今や世界中のありとあらゆる街やありとあらゆる辺境がマッピングされ、その情報はクラウド上に蓄積・共有され、それをスマートフォンで確認しながら旅を進めることができる。10年前には考えられなかった世界が現実のものになっている。

携帯ショップの店先で、食い入るように動画を見つめるムスリムの子供たち。現代的な光景だが、懐かさを感じる場面でもある

携帯ショップの店先で、食い入るように動画を見つめるムスリムの子供たち。現代的な光景だが、懐かさを感じる場面でもある

スマホがまだなかった頃、僕が頼りにしていたのは不確かなロードマップとコンパスだけだった。地図には間違いが多かったし、自分がどこにいるのか知る術もなかった。町の規模も地形もわからなかった。そんな「半分目隠しされた状態」で旅することは確かに怖かったけど、胸躍る経験でもあった。未知なるものへの恐怖が、自分の奥底に眠る好奇心を強く刺激していたからだ。

情報の不足分は、想像力と好奇心とそして周りの人に助けてもらうことで補えた。本当に困っているときは、必ず誰かが助けてくれた。だから道に迷うことをそれほど恐れてはいなかった。

確かにスマホの普及によって得たものは多いが、失ったものも少なくないと思う。正確な情報が簡単に手に入ることによって、道に迷う場面は少なくなり、時間を効率的に使えるようになったけど、それが地元の人たちとの「思いがけない出会い」を減らしているような気がするのだ。

旅人は五感をフルに使って前に進む。その土地に吹く風を受け、降り注ぐ光の強さを感じ、漂うにおいを嗅ぎながら。スマホはその手助けをしてくれるに過ぎない。旅の主体となるのは、あくまでも自分自身の感覚なのだ。

感覚を研ぎ澄ませ、未知なるものへの好奇心をみなぎらせて、前に進もう。そこからすべてが始まるのだから。

 

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