10時13分、検察立証が終了。ちなみに検察官は2人。指導係の中堅男性と、完全に“お人形アイドル女子”というべき新人女子だ。女子のほうが主任検察官。
情状証人として、長身を濃いめのグレーのスーツに包み、白髪混じりの短髪の、園原敏彦裁判官をものすごく格好良くしたような年配男性が、証言台のところに歩み出た。
被告人の身内かと思いきや、いま被告人がいる長野ダルクの代表、竹内剛さんなのだった。
長野刑務所や少年刑務所へ、薬物からの離脱の指導員として招かれ、厚生労働大臣賞とか県知事賞とか受けてるんだという。あとでネット検索したら、ある高校での講演の様子がヒットした。へぇ~!
弁護人 「ダルクで(被告人と)いっしょに暮らし、どういうことを?」
証人 「1日3回のミーティング…規則正しい私生活の立て直しを…クスリによって1日のリズムを完全に崩しています。これを立て直すのが先決…」
自身も薬物依存だったらしい。メモしきれないところを「…」でつないだが、証言はきっぱりして迫力があった。昔は任侠方面だったんだろう、と思えた。
あそうそう、この証人も、おっそろしく日焼けしてるのだった。ダルク所有の畑で、入所者と日々農作業をしてるのか。とすれば、それはすごく良いことだろうと思う。
薬物から立ち直るためには、「自分の過去を見つめ直すことで、正直な生き方がすごく楽だと気づくこと」が何より大事なんだそうだ。クレプトマニアにも言えるんじゃないか。
大した人物のもとにいるのでもう大丈夫、では検察のメンツ立たない。アイドル女子の検察官はこう突っ込んだ。
検察官 「(ダルクへは)入るのも出るのも任意なんですか?」
証人 「(きっぱりと)そうです」
検察官 「(薬物を)ヤメることができた人はいますか?」
証人 「(きっぱりと)もちろんです」
検察官 「再び(薬物に)手を出す人もいますか?」
証人 「(きっぱりと)もちろんです」
検察官 「どこが違うんですか」
証人 「自分がどこまで“底”に気づくかです」
「底」とは何か、尋ねず…。
検察官 「本人の意思次第ですか」
証人 「(きっぱりと)意思ではヤメられません。正直になれるかどうかです」
弁護人からの補充質問に答えて証人は、「保釈をとって自分からダルクへ来る人は滅多にいない。そこは(本件被告人は)大変前向きと思う」と述べた。
10時27分、被告人質問が始まった。その内容は、以上にだいぶ出てしまってる。一部拾えば…。
検察官は、前にも「覚せい剤疑惑」があったことを持ち出した。2000年12月に週刊誌が「覚せい剤疑惑」を報じたらしい。
被告人は「(そのときは)使っていません」ときっぱり否定し、事実ではない報道に「とても嫌でした」と述べた。
サムとの同居について、裁判官は、売人と住めば覚せい剤の入手が楽だからと、なんとしても言わせたがった。
問い詰められて被告人は、「(いっしょに住めば入手が)楽だな、便利だな…外でびくびくして受け取るよりも…」と述べた。
裁判官 「そうでしょ」! 薬物を安全に入手したいから!」
被告人 「それがぜんぶじゃありません」
やっぱサムの人間的な魅力があったんだろうと思えた。家賃折半なら助かるし。
何より、売人と住めば検挙される可能性が飛躍的に高まる。圧倒的に危険度は高い。
しかしっ! 裁判的には、売人と同居は「薬物を安全に入手したいから」でなくてはダメなのである。長く傍聴を続けてると、裁判は“お利口ちゃんの頭の中の儀式”という面が確かにあるように思う。
求刑は相場通り懲役1年6月。被告人は最終陳述でこう述べた。
被告人 「今回、自分が犯してしまった過ちが…心より…薬物依存…一生治らない病気…1日1日、手を出さないクリーンな1日を、一生積み重ねていきたい…若い世代にも伝えていけるよう、日々精進していきたいと思っています」
希望に満ちた新しい人生の幕開け、みたいなものを俺は感じてしまった。竹内剛さんという人物の魅力に心酔してるのかな、とも。
判決は6月20日(月)10時と決め、11時12分閉廷。
image by:shutter stock
『今井亮一の裁判傍聴バカ一代』
著者/今井亮一
交通違反専門のジャーナリストとして雑誌、書籍、新聞、ラジオ、テレビ等にコメント&執筆。ほぼ毎日裁判所へ通い、空いた時間に警察庁、警視庁、東京地検などで行政文書の開示請求。週に4回届く詳細な裁判傍聴記は、「もしも」の時に役立つこと請け合いです。しかも月額108円!
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