【裁判傍聴】難聴の老人が一日に二度も万引きした「意外な事情」

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 毎回裁判を傍聴し、事件の知られざる裏側を紹介してくれる、メルマガ『今井亮一の裁判傍聴バカ一代』。今回は、万引きを繰り返していた難聴の老婆の「窃盗」裁判の傍聴です。この老婆、なんと一日に二度も同じ書店で万引きをしていたとか。果たして、その理由とは何だったのでしょうか?

難聴の被告人、余罪立証を拒む弁護人

13時10分~14時、東京簡裁826号法廷(20席、東北訛りが激しい佐々木次郎裁判官)で「窃盗」の新件。

簡裁は一般傍聴人に人気がない。始まる時点で傍聴人は俺のみ、かと思いきや素敵系の若い女性が別々に2人来た。

2人は13時30分(地裁の新件が始まる時刻)より前に出た。被告人の関係者ではないと思われる。傍聴女子、略してボージョ。最近傍聴し始めたなら、ボージョ・ヌーボーか(笑)。 ※nouveau=新しい。我ながらうまいこと言ったぞと思いツイッターに書いたょ。

被告人は身柄(女子の留置施設がある湾岸署)。上下グレーのジャージ、白髪混じりでくしゃくしゃの長い髪、けっこうしゃんと立つ、痩せぎみの74歳。

書記官が補聴器を付けてやり、音量と感度を調整、イヤーチップを次々付け替えた。チップが耳穴に合わず、増幅された音が漏れると、それを補聴器本体が拾い、ハウリングしてピーピーうるさいのだ.

最初のうち、補聴器を通して大声で話す形でやろうとした。が、被告人はほとんど聞こえない。そのうえ裁判官の東北訛りがひどくて。いや、イントネーションはべつにいいんだが、口を動かさずにもごもごっとしゃべるのである。普通でもかなり聴き取りにくく、この被告人に聞こえるとは到底思えないのだった。

結局、いちいち紙に書いたものを見せて審理を進めることとなった。

裁判官 「起訴状の謄本、受け取ってますか?」

被告人 「いえ、何ももらってません」

おいおぃ、それじゃ裁判を始められないょ。以下は刑事訴訟法。

第二百七十一条  裁判所は、公訴の提起があつたときは、遅滞なく起訴状の謄本を被告人に送達しなければならない。
○2  公訴の提起があつた日から二箇月以内に起訴状の謄本が送達されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。

書記官が被告人のそばへ来て、「こういうものを郵送しました」と起訴状を見せた。警察署の管理第一課長宛てに特別送達(書留プラス何だかで千円を超える郵便)を出し、確かに届いてるんだそうだ。

被告人 「いや、私は受け取ってません…見たことありません…初めて見ました!」

74歳の被告人だが、声はハッキリとでかい。難聴の人にありがちだ。

弁護人 「届いてることは争いませんけどね」

検察官 「特別送達であれば、届いてるはずですので」

それで、刑訴法第271条の「送達」はあったということで、やっと起訴状の朗読が始まった。

公訴事実は、今年6月20日の昼間の、墨田区内のくまざわ書店、錦糸町店での万引き。書籍2冊、販売価格合計8532円。

こんな婆ちゃんがそれほど高価な本を読みたかったのか? 換金目的かなぁ。

被告人は専門学校を卒業して看護士になり、数カ所の病院で勤務。婚姻歴はあるが、40数年前に離婚、兄弟姉妹とは音信がなく、現在は生活保護を受けて「カゼマチハウス」(風待ちハウス?)に居住。昨年1月に万引きで罰金30万円(略式)の前科1犯。前歴は7件で、うち万引きが6件。

施設長に4万円を預けており、小遣いが足りなくなってそれをもらうとき、イヤミを言われるのが嫌で、本を万引きして売るようになったんだという。

しかもなんと、当日の午前に同じ被害店で書籍を数冊万引きし、ブックオフへ売却したが買取値段が安く、午後にまた被害店へ行って万引きしたのだった。なるほどそれで高額な書籍を狙ったのか。

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