5.緩急と間(ま)
早いか、ゆっくりか、そして、間の取り方が特徴的な口調って、ありますよね。田村正和さんが演じた、古畑任三郎などは、発音と間を駆使した、絶妙な演技でしたね…。
6.言い回し、よく使う言葉
ですます、口癖、専門用語、使う言葉の傾向、漢語と和語など。上記のイントネーションの部分でも触れましたが、方言の語彙もそうですね。〇〇でんがな!と言ったら大阪弁(芸人さんしか使わない説もありますが…)〇〇だがね!と言ったら名古屋弁。
要するに、が口癖の人、ソリューションがうんぬん、ロードマップをどうこう、など、カタカナ語が好きな人、漢語中心の話し方は、真面目、男性的、論理的、頑固で融通がきかない…などの印象を演出できたりしますね。
村上春樹作品の口調を想像する
では、口調を設定することによる役作りの具体例として、前回記事の最後にご紹介した、作家、村上春樹さんの作品に登場する、比喩表現された口調を、想像から、要素で分析してみましょう。
お題は、「私、あなたのしゃべり方すごく好きよ。きれいに壁土を塗ってるみたいで。」(~『ノルウェイの森』)
相手の女性に好きと言われた、その人のしゃべり方はどういうものだったのでしょうか?この言葉だけを材料に考えますので、もしかしたら作品全体で言及されている表現とは、異なる可能性もありますが、その点はご容赦くださいね。
まず、きれいに壁土を塗っているようなしゃべり方、という表現から得られるイメージを挙げていきましょう。
大事なのは、同じ塗るという行為にしても、なぜここで、絵画やペンキではなくて、壁土でなくてはいけないのか?ということですよね。
それはおそらく、薄くて均一に塗ることができる塗料ではなく、厚み、質感、重厚感、素朴さ、空気を含む、粗さがある、ムラがでやすい、もろい、塗った跡が模様になる、もしかしたら、壁の下地にしかならないかもしれない、そういう材質、ということでしょう。
日本で言えば、漆喰のようなものか、あるいは日本建築で使われる本当の壁土か…そういう素材を、きれいに塗る。塗り残しなく、厚さを一定に、土を継いでいくところも丁寧に、角にちょっと丸みを持たせて、塗った跡は、自然な心地よい仕上がりに…。
そういう仕事をするような気質の人の、話し方といえば、丁寧、律儀、素朴、ゆっくり、相手に伝わる、落ち着き、美意識(悪く言うと神経質)、明朗ではあるがハキハキし過ぎない…きっとこんな感じでしょうね。