中国にはBATという言い方があります。これは主要テック企業3社、百度(バイドゥ)、アリババ、テンセントを表す言葉です。しかし、ただの「3強」というわけではありません。この3社は、研究投資、企業投資に積極的で、企業買収も進め、系列化が起きています。中国ビジネスを理解すれば、日々の仕事や学習のヒントになるはずです。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)
※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2020年12月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。
中国経済は「バイドゥ」「アリババ」「テンセント」の3強
今回は、中国の主要テック企業についてご紹介します。中国のテック業界について詳しい方には少し基本的すぎる内容になるかもしれませんが、主要なプレイヤーについてまとめておきたいと思います。
中国にはBATという言い方があります。これは主要テック企業3社、百度(バイドゥ)、アリババ、テンセントを表す言葉です。しかし、ただの「3強」というわけではありません。この3社は、研究投資、企業投資に積極的で、企業買収も進め、系列化が起きています。
特にアリババとテンセントは、その傾向が強く、新しいジャンルのビジネスが登場してくると、次々とスタートアップ企業がアリババ、テンセントに買収させていき、アリババとテンセントの代理戦争のような形になります。
例えば、O2O、新小売と呼ばれるている分野では、アリババは自身で新小売スーパーを始めましたが、流通の三江購物、店舗運営の新華都に出資、即時配送のウーラマを買収という形の布陣を引いています。それに対抗するテンセントは、ECの京東、スーパーの永輝、即時配送の美団、生鮮ECの毎日優鮮に出資をして、布陣をしています。
中国で、新しいサービスが次々と登場するのは、中国人が新しいサービスを使うことに積極的であるという国民性もありますが、背後にいるテックジャイアントであるアリババやテンセントが莫大な投資資金を投入することも要因のひとつになっています。
2014年にはタクシー配車の滴滴と快的がクーポン戦争を始めました。滴滴はテンセント、快的はアリババの投資資金を受けています。20億元(約320億円)ものクーポンが発行され、一時期は実質無料でタクシーが乗れる状態になり、近所のスーパーに買い物に行くのにもタクシーを使うという人が続出したほどです。ウーバーが中国に上陸しましたが、あまりに常軌を逸したクーポン戦争に耐えきれず、中国から撤退しています。最終的には滴滴と快的は合併をして、滴滴出行となりました。
このような状況なので、中国の主要テック企業を頭に入れておき、新たなビジネスが登場した時は、その企業がどの陣営に属しているのかを調べると、より理解が深まると思います。
中国企業の動きがビジネスのヒントになる
このメルマガの趣旨は、中国事情に詳しくなることではありません。中国で生まれる新しいテクノロジーと、それを活用した新しいビジネスをご紹介して、みなさんの日々の仕事や学習のヒントにしていただくことです。
中国では、さまざまな分野で新しいテクノロジーが生まれ、それを活かした新しいビジネスが生まれています。新しいことを普及させるために、数々の素晴らしい工夫、アイデアが投じられています。
そのような今までにはなかった発想をお伝えして、みなさんのビジネスのヒントにしていただきたいというのが趣旨です。なので、中国テック企業そのものについて詳しくなる必要はないと言えばないのです。A社、B社という捉え方でじゅうぶんです。重要なのは5W1HのH=Howの部分です。
と言っても、企業名になじみがないと記憶にも残りづらいでしょうし、なぜそのような発想が出てきたのかという背景もわかりづらいと思います。そこで、今回は、中国の主要テック企業をご紹介します。
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大半のサービスが「BAT」の系列企業
中国の主要テック企業は覚えるのは簡単です。なぜなら、米国よりもテック企業の系列化が進んでいて、主要テック企業といったら10社程度、多くても20社程度だからです。
まず、調査会社Trustdataによる最新版(2020年10月)のMAUアプリランキングを見てください。MAUというのはMonthly Active Users(月間アクティブユーザー数)です。1ヶ月の間、1人の人が10回使っても1人とカウントし、1ヶ月の間に何人が利用したかをカウントしたものです。MAUが大きいほどよく使われるアプリということになります。
ご存知ないアプリもあれば、ご存知のアプリもあるかと思いますが、注目していただきたいのはいちばん右端の列です。これはどこの系列かを示しています。例えば、「テンセント」と書いてあるアプリは、テンセントが開発し、運営したもの。それから、テンセントが出資をしているテック企業が開発、運営をしているものを表しています。
すると、3つを除いて、すべて大手テック企業の系列に入ってしまうのです。
2020年10月時点でのアプリMAUランキング(Trustdataの統計より作成)
このような系列化を進めているテック企業がBAT(バット)です。BATとはB=百度(バイドゥ、Baidu)、阿里巴巴(アリババ、Alibaba)、騰訊(タンシュン、tengxun、英語名:テンセント、tencent)です。
日本のメディアでは、中国の巨大テック企業を表す文脈でBATをよく使いますが、中国メディアでは、BAT各社の巨大ぶりよりも、積極的にテック企業に投資を行い、系列化を進めているという文脈でBATという言葉を使います。例えば、「今後のBATの布陣はどうなるか?」などの記事では、BAT各社がどのテック企業の買収に動いているかということが論じられます。
このようなテックジャイアントは、新しいビジネスを始めるときに、自社で何から何までやるのではなく、系列企業を組み合わせてビジネスを構築するのが普通のことになっています。足りないパーツがあれば、買収に動きます。
例えばアリババが運営をしている新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)では、百貨店、スーパー運営の「新華都」、食品物流の「三江購物」、即時配送の「ウーラマ」を組み合わせて構築をしています。アリババはこの3社に対して出資を行い、ウーラマの場合は完全子会社化をしています。さらに、ここにアリババのリソースである業務管理システム、クラウド、スマホ決済などを組み合わせて構築をしています。
アリババとテンセントは、どのようなサービスを展開するかの戦略を立て、それに必要なパーツを集めるかのように買収を行い、系列化をしていきます。その結果が、最初にお見せしたアプリランキングになります。
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BAT+新興3社で中国ビジネスを理解する
この中で、第6位の「ピンドードー」は、独立した企業ですが、テンセントの投資を受けているのでテンセント系に分類されます。元々、SNSを使ったソーシャルECという新しいビジネススタイルを生み出したため、WeChatというSNSを持っているテンセントとの相性もよかったのです。
BATの中で、百度だけが少し毛色が変わっています。百度はテクノロジー志向の企業で、サービス構築のためでなく、欲しいテクノロジーを持っているテック企業を買収していきます。現在は、自動運転と人工知能に注力をしていて、この2つの分野はまだ利益が生まれる段階に達していないため、業績は大きく下がってしまいました。
その隙にネット広告市場で頭角を表してきたのが、Tik Tokを擁するバイトダンスです。ですから、最近は「BATはBATでも、Bはバイトダンスだ」という人もいます。
また、BATを4文字に増やした言い方では、BATH、BATX、BATJなどという言い方も時々使われます。Hは華為(ホワウェイ、Huaweiファーウェイ)、Xは小米(シャオミ、Xiaomi)、Jは京東(ジンドン、Jingdong)です。
つまり、BAT3社と+(プラス)された3社の合計6社を覚えていただければ、後は新しい企業名が登場してもどの系列の企業なのかを調べれば、だいたい中国のテック企業の布陣は理解できるかと思います。
そこで、今回はこの6社について、どのような企業なのかについてご紹介します。また、主要な生活関係サービスで、BATがどのような布陣になっているかもご紹介します――
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※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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