長引くコロナ禍に対して、私たちができる防衛策の1つは「生活コスト削減」でしょう。通勤不要になったことで郊外へ移住する方も増えているようですが、気になるのはテレワークで在宅時間が増えたことによる水道光熱費の増加です。その中でも、水道料金はお住まいの地域によって最大8倍の差があることをご存じでしょうか。今回はこの水道代の格差と、料金決定に絡む水利権、安易な水道民営化がもたらす危険性について考えます。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年3月8日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
国民にできるコロナ対策は「生活コスト削減」
新型コロナウイルス感染拡大は、経済活動をストップさせました。感染拡大防止は、人との接触を避けることが中心になっていて、それは経済活動そのものを止めることになり、経済活動が停滞することで企業業績は悪化し、そして従業員の給料にも大きな影響をもたらしました。
つまり、新型コロナウイルスは家計を崩壊したのです。
人との接触回避は、社会構造も大きく変え、働き方そのものも変えてきました。接触回避の行動として「リモート」というキーワードが大きくクローズアップされました。
日本では、官公庁を中心に「テレワーク」という表現が使われますが、出社をしない在宅勤務が、労働形態の中心になろうとしています。
もちろん、リモートワーク(テレワーク)は業種を選びますが、それでも多くの企業が、できるだけ取り入れる方向での業務改善に動きました。
従業員にとっては、「家計崩壊 × リモート推進(在宅勤務中心)」から、導き出された答えが「生活コスト削減」という家計改善手段です。
在宅勤務推奨により、出社義務が月数回程度であるなら、家賃の高い都心に住む必要もなく、生活コストを下げるために郊外や地方に移り住む可能性を模索することができるというものです。
これまでデフレ社会であったことから、かなり生活費は切り詰めていたわけで、これ以上の節約をするとなれば、生活コストそのものを下げる必要があるかと思われます。
生活コストそのものとは、住居にかかる費用で、家賃や水道光熱費になります。
改めて給与所得者の新しい生活パターンとしては「生活コスト削減(支出削減) × 副業解禁(収入の最大化)」が、ポストコロナにおけるテンプレートになりそうです。
負担が増した水道光熱費
生活コストを下げるための郊外あるいは地方移住においてのメリットは、具体的には「家賃削減」なのですが、一方で、在宅時間が長くなることで、いままでより電気代、ガス代、水道代が増えることになります。
ネット環境整備費用は、Wi-Fiも含めて毎月定額のパターンが多く、電気代やガス代は、新規参入の企業との新しい契約で、積極的に削減を試みることはできますが、水道料金だけは、住んだ場所によって決められているものですから、水道使用を抑える以外、水道代というコストを下げることは容易ではありません。
今回、生活コストの中でも、この「水道代」を取り上げて、水道料金をあらためて検証していきます。
水道料金は地域ごと大きく異なる
まずは、「水道料金はどのように決められているか」から始めていきましょう。
水道料金は、
・上水道料金(基本料金+従量料金)
・下水道料金
・消費税
から計算され、基本的に2カ月に一度検針と請求が行われます。支払い方法には、口座引き落としや請求書支払い、クレジットカード払い(一部の水道局)などがあります。
基本料金とは、文字通り、水道メーターの口径ごとに金額が決まっています。ある一定量までの水道使用量が含まれているのが一般的です。
「従量料金」は、使用した水の量に応じてかかる料金です。「基本料金」に含まれる水量を超えた分から、使用量に応じて算出されます。使用量が多くなるほど単価が上がっていきます。
「下水道料金」は、上水道の使用水量を汚水排出量とみなして計算されます。下水道のない地域では、請求されません。
これに税金、消費税がかかります。
生活コスト削減の観点から水道料金を考えてみますと、どうも住む場所によって水道料金は変わるようです。平たく言えば、住む場所によって水道料金が高くなったら安くなったりすることがあるということです。
一番安い水道料金は、月当り800円台、高いところは7,000円近い料金です。安いところと、水道料金は8倍の差があると言われています。
水道料金に差が出るのは、水道事業が水道法により市町村運営を原則にしているためで、それぞれの地域の事情で水道料金は異なるようなのです。
Next: なぜ水道代は8倍も違うのか。民営化でさらに差は広がる?
水道料金を決める3つの要因とは
水道料金が地方自治体によって違う原因として、以下の理由が挙げられています。
・水質や地形といった「地理的要因」
・水道布設年次や水利権などの「歴史的要因」
・人口密度や需要構造の違いによる「社会的要因」
河川やダム、地下水などの水源の違いや水道管が敷かれた時期、建設費などが影響しているほか、人口密度や水質の変化、事業方針など自治体により条件が異なるため、料金にも大きな違いが生まれているようです。
この部分をもう少し細かくみていきますと、
・水道管や水道施設の修繕の有無(今すぐ必要か、当分は必要ないか)
・人口減少が見られるか(水道事業を支える人口の減少)
によって、水道料金に差が生じるようです。
さらに具体的に説明すると、
・水源の水質や水量、地形に恵まれていれば、浄化処理やダム、ポンプといった施設の設置や運営コストは少なくて済む
・水源となる川の水質が良いため、浄化のための薬剤の投入が少なく、設備のメンテナンス・維持費も安く済む
・水源から市街地までの距離も最大4~5キロと近く、効率的な配水も可能なのでコストは安く済む
・離島などに海底水道管を通じて水を販売している分、コストは安く済む
・水道料金は一般家庭の料金単価を原価よりも低く設定し、民間企業などの大口需要者の単価を高く維持して帳尻を合わせているので、大企業の工場が多いと家庭用は安く済む
などなど、地理的要因や大企業が多いなどの事情によって料金が異なるのは理解できるでしょう。
上記の逆は「コスト高」で、水道料金は高くなります。
これはすごく重要な概念で、もし水道が民営化されたら、この水道料金格差は、上記の要素でますます大きくなることが予想されるということです。
水道代はどんどん値上がりする?民営化でさらに格差拡大へ
自由に居住場所を移転できる人は、より安い場所に移動すればよいですが、高齢者など、その土地を離れられない人は、その土地の環境によって、水道料金は年々高くなることを覚悟しなければならないということになります。
水道管の老朽化が進みそうで、今まで大きな修繕もしていないのなら、また、人口が減って空き家が増える状況なら、今後は、水道料金が高くなる可能性が大いにあるということになります。
その時間軸は、水道事業の民営化によって拍車が掛かることが予想されます。
でも、水道事業民営化をする以前に、もうすでに水道料金は居住環境により変化しているということに、気付かされます。
この状況を踏まえて、今のコロナの要素をかけ合わせるとどうなるでしょう。
生活苦により、水道料金が支払えなくなる世帯が増えてきています。特例として支払猶予の措置が取られ、地方自治体によって対応は異なりますが、「コロナ免除」の措置が取られています。
それは水道事業の採算にも影響を与えます。
将来の修繕費用の準備にも影響が出て、最終的には水道料金値上げという事態が想像されます。
水道料金を、違う角度から「水の原価」という観点で見てみましょう。
Next: 水の原価はいくら?河川には「水利権」が存在する
河川には「水利権」が存在する
水の値段は、浄水場や水道管などの設備建設費や維持管理費の他に、水そのものの値段があります。
河川、地下水など、もともと雨が地上に降った水には特定の所有者はいませんが、河川には水利権が設定されています。水利権とは河川の流水を継続的に利用できる権利のことで、国土交通省ホームページには以下の説明が載っています。
「水利権」という用語は、法律上のものではなく、水利権について規定している法律である河川法の中には出てきません。水を利用する権利として従来よりこの呼び方が定着しているものです
河川法では河川の流水を利用するものは河川管理者である国土交通大臣、または都道府県知事の許可を受けなければならないとしています。
水道事業者が河川を水源として水を供給する場合は、水利権を得なければなりません。
一方、地下水は土地所有者の私有財産として見なされることが多く、水道事業者が所有する土地から汲み上げた水は自由に使用することができます。
水利権を得た河川からの水や地下水は水道事業者にとっては自己水源となりますが、自己水源が少ない地域では、水道事業者は、県や地方自治体がいくつか集まってつくられた特別地方公共団体としての広域水道企業団が取水し、浄化した水を購入することになります。
これを「受水費」と呼び、水道水の原価に含まれることになります。
地方自治体は、住民に安定した水を供給するために、雨水を貯めて自己水を貯蓄することも行っています。それでも足りない分は、受水に頼ることになります。
つまり、地方自治体によって水道料金が異なるのは、受水費の割合が高いか低いかでも異なるのです。この料金を決めるのに、古くから関係性が保たれて昔の安い価格のまま維持されていれば、その自治体の水道料金は安いことになります。これが、「歴史的要因」になります。
安易に「水道事業の民営化」に踏み切るのは危険
今後の水道料金値上げの鍵は、以下の2つが挙げられます。
・排水管等、水道施設の老朽化、それに伴う修繕の必要性の有無
・人口減少
これらはとても大きな要素で、解決が難しい問題です。
そこで、国会で議論されているのが「水道事業の民営化」で、事業のコストを低く抑えるために民営化を推進しているのですが、民営化をしたからといって、状況が改善されるわけではありません。
水道事業の民営化は、国鉄や電電公社や郵政の民営化とは性質が異なります。ましてや電気料金の自由化とも異なります。
設備費がかさむリスクを抱えながら、人口減で水道料金総額が減る可能性がある事業の民営化なのです。
電気料金は、電力供給側のインフラ整備を民間が請け負うのではなく、あくまでも販売とメンテナスを請け負うものですが、水道事業は、配管設備修繕等も含まれますし、電気のように「水を作る」ことができません。
また競争の原理が働きづらいところもあり、水道事業のインフラ設備を考えると、一般事業者が簡単に参入できるものではないようにも思えます。
そうなると…
・配管設備の修繕にどれだけコストを掛けるのか
・供給システムをどれだけ効率化できるのか(供給先の統合など)
が、事業存続の鍵となりそうで、それは、住民サービス向上とは反比例の関係になるようにも思えます。
つまり、水道事業の民営化が「コスト削減」を求めるものなら、それはサービスの質の低下につながる危険性をどう回避するかがセットでないと成り立ちません。
水道事業の民営化は、
・配管修理をするなら水道料金を値上げする
・今までどおりに水道を供給するなら水道料金を値上げする
といったことを迫るもののように思えてならないのですがね。
Next: いま水道代が安い地域も喜べない。老朽化がいずれ全国的に問題になる
コスト削減で品質が低下する恐れも
地方自治体により水道料気に差があるということは、地方自治体の努力というのもありますが、地理的要因というもともとの自然環境によるものや、歴史的要因とされる大企業誘致の歴史や水利権交渉の過程によるものでもあります。
人口減少は、地域合併など、水供給システムを効率化するなどの工夫は考えられますが、もともと遠隔地で長い配管が必要な場合は、水道料金が高くなるのは否めません。
現在、水道料金が高い自治体として、北海道の夕張市があります。財政が厳しい自治体では生活コストも高くなるという典型なのかもしれません。青森県深浦市、北海道羅臼町も高いです。人口減少に集落がまばらであることが想像されます。
逆に、水道料金が安いところは山梨県富士河口湖町で、水源がめちゃくちゃ近くで水質もきれいなことが想像されますね。兵庫県赤穂市も、水がすごくきれいなところで、水道料金は安いです。千種川が市中心部を流れて水脈に恵まれています。
一番安い水道料金は、月当り800円台、高いところは7,000円近い料金です。安いところと、水道料金は8倍の差があると言われています。
ただ、水道料金は住民要望で安く抑えているところが多く、配管老朽化に伴う修繕を考慮していないところもあり、それを考えると、今後の水道料金値上げはいつあるかわからないという状況のところも多いようです。
コロナ禍で、家計収支を改善するために、生活コストを見直すには、居住地を都心から離れることが考えられ、その際には、家賃の比較もさることながら、水道料金の比較も考えられるということですね。
ただ今後の水道事業民営化には注意を払いたいところ。安易な民営化を求めるのではなく、政府は国民生活保護の一環として、国全体で考えなければならないのではないでしょうかね。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年3月20日)
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