政府の「働き方改革」には大きな問題が潜んでいます。残業時間の上限規制とサラリーマンの副業解禁が同時に進めば、むしろ多くの人が、今よりも劣悪な環境で、長時間の低賃金労働を余儀なくされるでしょう。(俣野成敏の『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』実践編)
プロフィール:俣野成敏(またのなるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらには40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任する。2012年の独立後は、フランチャイズ2業態6店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、マネープランの実現にコミットしたマネースクールを共催。自らの経験を書にした『プロフェッショナルサラリーマン』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、『トップ1%の人だけが知っている』(日本経済新聞出版社)のシリーズが10万部超えに。著作累計は44万部。ビジネス誌の掲載実績多数。『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも数多く寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』を3年連続で受賞している。
※本記事は有料メルマガ『俣野成敏の『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』実践編』2017年3月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した項目もすぐ読めます。
残業時間を減らすだけでは、過労する日本人は決して救われない
働き方改革の表と裏
昨年(2016年)の年末に、日本政府によって「サラリーマンの副業を後押し」していく方針が明らかとなり、にわかに世間から注目を集めるようになっています。
副業の見直しを含めた「働き方改革」は、国から一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジと位置付けられ、「国民の多様な働き方を可能にするとともに、成長と分配の好循環を実現する」ものとして取り組んでいく旨が発表されています(首相官邸HPより)。
副業解禁は、少子高齢化が進む現在の日本社会にあって、労働力の質と量の増加を目指した施策として、働き方改革の核を成すもののひとつです。
国としては、これによって企業収益が改善し、それが賃金の引き上げや個人消費の増加につながってくれれば、経済が好転し、税収も増えるという寸法です。
今回は、「副業新時代」についてお届けします。
現在、政府主導で進められている働き方改革ですが、「誰もが『その人らしい』生き方ができる社会」「成長し続けるためのチャレンジ」といった言葉が本当だとしても、その裏に見え隠れしている本心とは、何なのでしょうか?
それに対し、我々はどう考え、どう行動していけばいいのでしょうか?
副業については、これまでにも何度か取り上げてきましたが、当メルマガでは基本的に賃金労働の掛け持ちは推奨しておりません(意図を持った掛け持ちを除く)。ですから副業も、単に「収入を増やすための手段」と捉えるのではなく、独立起業へ向けたひとつのプロセスという位置付けで取り組んでいただきたいと考えています。
1. 働き方改革とは何か?
そもそも働き方改革とは、昨年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」の一環として立ち上げられた政策です。始まりは、2015年9月に安倍総理が自民党総裁として再選された際に、新たに打ち出された「新・3本の矢」政策にあります。
「強い経済」「子育て支援」「安心の社会保障」の実現に向けて、現在動き出しているのが働き方改革なのです。
ここでは、副業が解禁となる元となる「働き方改革」について知り、その裏に隠されている矛盾点などにも目を向けてみましょう。
【「働き方改革」の現状】
昨年9月、第192回臨時国会が召集された際に、安倍首相は所信表明演説の中で、「誰もが能力を存分に発揮できるような『一億総活躍社会』」を掲げ、子育てや介護などと仕事を両立させるためには、「長時間労働の慣行を断ち切ることが必要だ」と訴え、働き方改革の実現にとりかかりました。
ニッポン一億総活躍プランの実現にあたり、働き方改革に関する軸は主に3つあります。それが
(1)同一労働同一賃金の実現:
格差を埋め、若者が将来に明るい希望を持てるようにする
(2)長時間労働の是正:
ワーク・ライフ・バランスの改善
(3)高齢者の就労促進等:
女性や高齢者が仕事に就きやすくなる
です。これらを通じて「国内の労働参加率と賃金を上昇させる」ことがこのプランの主要目的となっています。詳しい策定にあたり、安倍首相が議長を務めた「働き方改革実現会議」で中心に話し合われたテーマは、
- 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
- 賃金引き上げと労働生産性の向上
- 時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正
- 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題
- テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方
- 働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備
- 高齢者の就業促進
- 病気の治療、子育て・介護と仕事の両立
- 外国人材の受入れの問題
の9項目です。会議はすでに8回にわたって開催されており、ここで話し合われたことを元に、政府は3月末までに具体的な法改正の方向性を示した「働き方改革実行計画」を取りまとめる予定となっています。
働き方改革とは、現状はまだ言葉だけが先行している状態であり、具体的な内容については「これから」というのが正直なところです。
Next: 「残業代がつかない」月100時間の“副業”という罠にハマるな
【「長時間労働反対」のはずの政府が残業を認める方針】
それはそうと、先日、その働き方改革実現会議の中で、政府がこのような案を提出したことを、あなたはご存じでしょうか?
残業上限 月60時間 政府提示、労使受け入れへ 繁忙期は調整 – 日本経済新聞
これは、サラリーマンの残業に関する政府案を示したものです。
もともと、現在は労働基準法によって、従業員の労働時間は1日8時間、1週間では40時間までという規定があります。
だったら、残業についての取り決めはどうなっているのかと言うと、現状では会社と労働者の代表が合意の元で労使協定を締結した場合、「法定労働時間を超えて働かせることができる」という特例があります。これを同法の36条からきていることに因んで「さぶろく協定」と呼んでいます。
今はこの36協定が、会社が従業員に残業をさせる際の法的根拠となっています。これを結ぶことによって月間45時間、年間360時間までの残業(※)が可能となっており、特別条項付きの36協定を締結すれば、さらにその限度時間を超えても法律違反とはならなくなります。
※年間労働日数が240日の場合で1日平均1.5h残業が認められている計算
こうした状況を是正するために、政府は今回の改正で残業に上限を定め、それを上回った企業には罰則を科すとしています。政府案では36協定の特例として、年間の残業時間を720時間、月平均で60時間に抑えるように義務付ける方針です。このうち、年間720時間はそのままに、繁忙期には月最大で100時間、2カ月間で平均80時間までの残業は認める(※)としています。
※年間720時間とは、年間労働日数が240日の場合で1日平均3hの残業が認められる計算。月最大100時間とは、1ヶ月22日勤務した場合で1日平均4.5hの残業が認められることになる
ここまでお読みになって、あなたはどうお感じになられましたか?今までほぼ青天井だった残業が明確に定められるようになり、罰則も設けられて「良いことだ」と思われましたか?それとも、企業が「国のお墨付きを得る」ことに対して不安を覚えましたか?
先ほど、働き方改革に関する軸は主に3つあり、その中のひとつに「長時間労働の是正」が入っていることをお伝えしました。国は、一方では「残業はNOだ」と言っておきながら、他方で「残業は60時間まで良いよ」「繁忙期は100時間までね」と言って、自ら残業を認める方針を打ち出してしまったワケです。
さらに、ここには大きな問題が潜んでいます。それが何かというと、政府が残業の限度時間に線引きしている一方で、「副業をOKにしている」という事実です。
要は今後、副業が解禁となり、それを実際に行った場合、おそらく多くの人が「月60~100時間くらいは普通に働くようになるだろう」と予想されるということです。
Next: 大多数の人が「ダブルワーク=賃金労働の複数掛け持ち」で失敗する
2. 制度には必ず「表と裏」がある
現在、多くのファミレスや居酒屋チェーンで24時間営業を廃止する動きが出ています。それは「働く人が集まらない」ことが主な要因です。しかし副業が解禁になれば、昼間の業務が終わった人たちがダブルワークとして、夜や土日の仕事を選択する可能性が高まります。
働きたい人が多くなれば、その分、需要と供給の関係によって夜間の労働時給が下がることが考えられます。
【「残業は減る」世の中になるかもしれないが】
副業が解禁になれば、当然ですがダブルワークを行う人が増えることが予想されます。大多数の人は、「ダブルワーク=賃金労働を複数掛け持ちする」という発想になるでしょう。そうなれば、本業をやっている昼間は働くことができませんから、夜、働くサラリーマンが増えることになります。
たとえば、あるサラリーマンがコンビニで働くことにしたとします。店長から「ウチで働くんだったら、1ヶ月に最低でも60時間(※)は入ってもらわないと」と告げられれば、働く側は「わかりました」と言わざるをえなくなります。これでは、ただ単に「残業」が「副業」という名前に変わっただけにすぎません。
※1ヶ月最低60時間とは、週3日、1日平均5h働くこと。シフト制を採用している飲食業や小売業などで求められる労働時間の目安のひとつ
元来、長く働くのであれば、昼間の業務をそのまま続けた方が、基本的には時給が高くなります。多くの場合、8時間を過ぎれば時間外労働手当や、夜になればさらに深夜手当などが付きます。
ところが、昼間の仕事を8時間で区切り、続きは別のところで働くようになれば、時間外手当は付きません。深夜手当であれば出ますが、注意しなければいけないのは、すでに時給に含まれている場合があるということです。
労働時間を1日8時間で切ってしまえば、企業は残業代を支払わなくて済むし、罰則も受けずに済みます。しかし従業員は少ない給料をカバーしようと、他社で「過労死ライン」と呼ばれる月100時間の副業を自ら行う人が出てくるでしょう。けれど、そうなっても国も企業も「あなたが自ら選んだんですよね?」と言うことができます。
なぜ国が、長時間労働の是正と副業解禁をセットで行なっているのか、そのからくりが見えてきましたでしょうか?
政府は、残業の上限を定めた労働基準法の改正案を国会に提出し、早ければ2019年度より運用を開始したいとしています。
Next: 「副業解禁」だけでなく、すべての政策には必ずウラがある
【ものごとにはA面とB面がある】
実は、このように「A面とB面をセット」で行なってきた政策というのは、副業だけではありません。A面B面とは、副業でいうなら「残業反対!」でも「副業はOK!」という2面性のことを指しています。
一例を挙げると、年金の支給開始年齢の後ろ倒しの時にも同じ現象が起きています。
年金の支給開始年齢を60歳から65歳に引き上げた際に、国はどのような手口を使ったのかをお話しますと、最初に別の話題を振りまきます。たとえば「今のシルバーは元気!」「これからは、どんどん働き手が減っていくからシルバーの力を借りよう!」などと言って、まずは世の中にそうした文化をつくります。
その後で「年金は65歳からになります」という手はずにすれば、「まぁ5年間だけだし」「働くところがあるのであれば」という風潮になります。そういう論調を、頭の良い人たちがつくり出しているワケです。
この手法は、退職金に関しても同様に使われています。まずは「こんな時代では、退職金が運用できない!」ということをニュースで流し、その後に401K(確定拠出年金)の始まりを告知します。
先に「自分の年金は自分でつくる」「自己責任の時代」という流れをつくってから、「401Kは増やすも減らすも自分次第だから」と、制度の切り替えを順次、行なっていくのです。
このように、世論から反対の出そうな制度は、必ずと言っていいほどA面とB面(表と裏)という両方向から進められてきたのです。副業も、これらとパターンはまったく一緒です。
だいたい、残業自体は今に始まったことではありません。バブル時代の方が、今よりずっと忙しかったでしょう。それがなぜ今、ニュースになるのかと言えば、国が「生活補てんのための労働を、個人のリスクにするため」です。
副業が解禁になれば、昼休みに堂々と社内で求人情報を広げることが可能となります。ただし、それによって「残業以上にキツイです」となっても、誰も助けてはくれません。なぜならそれぞれの会社は、法に則っているからです。
結局のところ、賃金労働を掛け持ちすることとは、「時間給が下がり」「残業代が減る」という点において、低賃金に甘んじることを意味します。働き方改革によって、会社側は残業がなくなっても、従業員側はA社とB社を足せば「過労」である状態は変わらず、さらに残業よりも劣悪な状況下で働くことになるかもしれないのです。
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「ダブルワーク=賃金労働を複数掛け持ちする」という発想のままでは、この副業新時代を生き残ることはできないようです。では、将来につながる副業の始め方とは何でしょうか?続きはメルマガをご覧ください!
【2017年3月2日号 Vol.40『副業新時代』~目次】
〔1〕イントロ:
起業とは「自らの時間を失うこと」なのか?
〔2〕本文:
「来たれ!副業新時代!」
~働き方改革の表と裏~
1、働き方改革とは何か?
◎「働き方改革」の現状
◎「長時間労働反対」のはずの政府が残業を認める方針
2、制度には必ず「表と裏」がある
◎「残業は減る」世の中になるかもしれないが
◎ものごとにはA面とB面がある
3、将来につながる副業の始め方
◎「自分の価値を上げる」ために副業を行う
◎独立へのプロセスとしての「副業」
4、サラリーマンと両立しやすい仕事で儲けることは可能か?
◎どの仕事を「自分の副業」にするべきなのか?
◎安易な儲け話に潜む「落とし穴」
5、副業を「軌道に乗せる」方法
◎独立する際の「3つのパターン」
◎ビジネスを成長させるにはマネジメントが必要
6、実録!独立への道
◎事例1:「キライな仕事で独立」
◎事例2:「事務」で独立したパターン
◎どうやって仕事を取ればいいのか?
7、まずは自己分析から始めよ
★本日のワンポイントアドバイス☆★
「0から1へと踏み出す副業」のための5ステップ
〔3〕次回予告(予定):
「毎月の収支バランスってどうしたらいいの?」
~マネーレコーディングは投資への第一歩~
〔4〕ニュースのビジネス的着眼点:
1、「豊洲は続くよ、どこまでも」・・・
2、日本におけるビットコイン犯罪時代の幕開け?!
〔5〕編集後記:
「生まれ変わった道の駅」の取り組み
※本記事は有料メルマガ『俣野成敏の『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』実践編』2017年3月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した項目もすぐ読めます。
『俣野成敏の『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』実践編』(2017年3月2日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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俣野成敏の『サラリーマンを「副業」にしよう』実践編
[月額550円(税込) 毎月5日・20日(年末年始を除く)]
老後2000万円問題、働き方改革、残業規制、等々。政府も会社も「自助努力で生きよ」と突き放す中、コロナ・ショックによるリストラが追い討ちをかけています。自己責任の名のもとに始まった大副業時代を生き抜く術とは?『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社)』『一流の人はなぜそこまで○○なのか?シリーズ(クロスメディア・パブリッシング)』『トップ1%のお金シリーズ(日本経済新聞出版社)』等、数々のベストセラーを世に送り出してきた著者が、満を持して『サラリーマンを「副業」にしよう(プレジデント社)』を発売。マネーとビジネスの両面から、サラリーマンを副業にするための情報をお届けします。