今回の書評は『住宅ローンが払えなくなったら読む本』。任意売却のメリット、業者・弁護士の選び方、そのほかに起こりうる様々な危険について知れる良書です。(『1億円大家さん姫ちゃん☆不動産ノウハウ』姫野秀喜)
姫屋不動産コンサルティング(株)代表。1978年生まれ、福岡市出身。九州大学経済学部卒。アクセンチュア(株)で売上3,000億円超え企業の会計・経営計画策定などコンサルティングに従事。合間の不動産投資で資産1億円を達成し独立。年間100件以上行う現地調査の情報と高い問題解決力で、顧客ごとに戦略策定から実行までを一貫してサポートしている。
悪徳業者だけでなく、弁護士も親身になってくれないことがある?
『住宅ローンが払えなくなったら読む本』著:矢田倫基/刊:幻冬舎MC
首が回らなくなる前に
本日の書評は、住宅ローンが払えなくなったときの対処法についてです。
本書は、任意売却コンサルタントの矢田氏が、ご自身の手がけてきた案件をもとに書かれています。
ローンが払えなくなったときには、まず、何をすればよいのか。対処法にはどのようなものがあるのか、最も良い方法は何なのか。
各個人のニーズやおかれた状況によって、最良の策は変わります。
氏は、それぞれの状況に合わせ、最も良い形で対処を検討するとともに、住宅ローンが払えず苦しんでいる人にとって、メリットのある方法を模索します。
他の手段に比べて、わりと債務者にメリットが多いのが、「任意売却」という方法です。
本書を読めば、任意売却のメリット、業者の選定の仕方、弁護士の選び方、そのほか住宅ローンが払えなくなったときに起こりうる様々な危険について知ることができます。
それでは早速、本書のエッセンスを見ていきましょう。以下、著者の言葉を抜粋しながら紹介します。
「家賃と同じ支払い」にのせられると破綻する
住宅販売のチラシにはよく「家賃と同じ支払いで家が買える」とうたい文句が記載されています
一見、正しそうに見えますが、リスクという面では大きな違いがあります
まず、完済までは本当の意味ではマイホームではありません
たとえリストラにあっても、
ローンの返済額は同じまま
一方、
賃貸住宅は引っ越しにより「住」の負担を収入に見合ったものに買えることができる
住宅ローンが払えなくなるとどうなってしまうのか?
まず、住宅ローンの返済が遅れると、銀行などの金融機関から「通知書」が届きます。
滞納が2回目になると(中略)担当の融資係から電話があり「どうしましたか?」など事情を確認される
滞納が3回目になると(中略)「督促状」や「催告書」になります。
それを放置し続けると…代位弁済が行われ、
残債を一括返済する義務が生じます
そこで行われるのがほとんど唯一の財産である自宅の競売です。
そして、退去を余儀なくされるということです。住宅ローン、怖いですね…。
Next: 住宅ローンが払えなくなっても、まだ最悪の事態は避けられる?
競売は住宅ローン破綻における最悪の結末
住宅ローンを支払えなくなったからといって、必ずしも競売にいたるわけではありません。(中略)競売は最悪の結末といえます。
というのも競売では
家を失った後の生活を維持できるよう、工夫する余地がほとんどない
からなのです。
また、
売却価格が安くなる点も競売の大きなデメリットです。
競売にいたる人の中には(中略)お金も行く当てもなく家を出ることになり、ホームレスになってしまうケースが見られます。
では、どうすればよいのでしょうか。
その1つの方法として、「任意売却」のメリットを著者は述べています。
競売に比べて任意売却には債務者のメリットが大きい
任意売却とは、競売にかけられる前に債務が残ったままの自宅を売却すること
通常は、銀行の借金全額を支払える金額での売買しかできないが、任意売却の場合、借金は残るけど自宅を売れるというものです。
そのメリットとして、
売却価額が高くなる
引っ越し費用・生活準備金をもらえる
任意売却では買い主に対してさまざまな交渉が可能であり、引っ越し費用や生活準備金などを売買代金とは別に用立ててもらえるケースもあります。
債務を最小限にできる
保証人への影響を軽減できる
そのまま住める可能性がある
近隣の人などに知られずにすむ
Next: 自宅を売っても借金を返せない…その時はどうするのがベスト?
任意売却後に残った債務はどうするのか?
それでは、売却後、銀行への借金が残っている場合、どうするのか。
自己破産する人もいますが、
債権者との和解により「支払える範囲で返済を続ければいい」という合意が得られる場合が多いので、自己破産せずに解決する方法もあります。
自己破産するときに大事な、手続きの順番
自己破産には「管財事件」と「同時廃止事件」という2つのケースがあり、それぞれ手続きが異なります。
「管財事件」と「同時廃止事件」では債務者の費用負担が大きく異なります。
「管財事件」では裁判所への予納金や弁護士費用を合わせると少なくとも50万円以上の費用は必要です。
「同時廃止事件」の場合には裁判所に支払う予納金が数万円ですむため、経費の総額は「管財事件」の半分程度ですみます
自己破産で重要なのは免責手続き
自己破産の手続きには「破産手続き」と「免責手続き」があります。
「破産手続き」は申立時点において保有している財産を換金処分し、債権者に分配するもの
「免責手続き」は「破産手続き」の後、債務の返済義務を免除してもらえるよう行うもの
場合によっては「自己破産は完了したが免責は不可になった」ということもあり得ます。
免責にならなかったら、借金は支払い続けなくてはならないわけですから、大変です。
自己破産は任意売却後が鉄則
任意売却を先に行えば、自宅という最大の財産がなくなり「同時廃止事件」にしやすい
同時廃止事件ならば、手続き費用が抑えられます。
費用負担を回避し面倒を避けるためにも、自己破産前に任意売却を行うのが有利な選択といえます。
Next: 表札を盗む、勝手に水道を止める…悪徳業者の嫌がらせにも要注意
住宅ローンの支払いに困ったらどこに相談すべきか?
不動産屋、弁護士、銀行…相談先はいろいろ思いつきますが、いったいどこに相談すべきでしょうか。
彼らには
それぞれの思惑や得意・不得意、信頼性などに違いがあるので、よく理解した上で相談することが大切です。
弁護士や司法書士に相談する場合の注意点
弁護士はほとんどの場合、自己破産をすすめます。
自己破産をすすめる中でも、弁護士が特にやりたがるのが「管財事件」です。
自己破産には「管財事件」と「同時廃止事件」がありますが、弁護士にとっては前者の方がはるかに高い手数料を受け取ることができるためです。
自己破産前に任意売却をしたほうが、ほとんどの債務者にとってお得なのですが、そうすると「同時廃止事件」となり、弁護士にとってはうま味がなくなってしまいます。
そのため
「任意売却は面倒が大きく、利益にならないのでやりたくない」というのが多くの弁護士の本音です。
著者は、弁護士の報酬体系の関係で利益相反な構造になってしまうということを述べています。
本来であれば依頼者の利益が大きい=弁護士も儲かるというのが良い構造です。不動産の売買でもそうですが、報酬を定めた法律のせいで、逆に売主や買主が損をしてしまう業者の行動を誘発するというのは、構造上の欠陥だと思います。
自宅にやってくる任意売却専門会社のほとんどが悪徳業者
裁判所に競売の公示が貼り出されると、それを情報源とする任意売却専門会社が多数、債務者の家を訪れるようになります。
任意売却専門会社の販促活動については貸金業法のような規制がありません。
事実上野放しになっているために、悪徳金融業者も真っ青という行為が現在でも平然と行われているのです。
業者の側はなんとか面談して専任媒介契約書に判を押させたいので、あの手この手を使います。
悪徳業者の手口は、
家の前で大声を出す
「家が競売になった○○さーん、いないですか?」などと呼びかけ、近所の目が気になる債務者が慌てて出てくるよう仕向ける
「裁判所のほうから来ました」などと欺まん的なことをいう
水道を止める
水道の元栓は家の外にあります。悪徳業者は勝手に敷地内に侵入して元栓をひねり、水道を止めてしまうのです
郵便物を盗む
債務者が他の選択肢を目にすることがないよう、債務者宅の郵便受けをあさり、配達された郵便物を盗んでいく
表札を盗む
同業者のアプローチを妨害する目的で、悪徳業者が盗むためです。表札がないと後から来る他の業者は債務者宅を見つけにくくなります。
悪徳業者の例だけあり、かなりひどい内容です。住宅ローンが返済できず苦しんでいる人にとって、まさに泣きっ面に蜂なので、こういう行為をされたらたまりません。
Next: 自己破産は最終手段。弁護士も親身になって対応してくれるとは限らない
総括:最低限の知識を得られる、読んでおいて損がない良書
本書では、自己破産をする前に、任意売却を行うことが、多くの場合、ローン返済で困っている人のプラスになるということが繰り返し述べられています。
不動産業者よりもはるかに信頼できる弁護士でも、任意売却をすることは彼らの利益に反するので、注意して相談しなくてはならないという点は、とても重要です。
悪徳業者はもちろん、善良な弁護士でも、依頼するときには十分に注意し、こちらもきちんと最低限の知識を備えて相対する必要があります。
任意売却の基礎的な知識を得られるという意味で、読んでおいて間違いのない良書でした。
『1億円大家さん姫ちゃん☆不動産ノウハウ』(2018年5月17日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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