今回、日銀当座預金の一部について「マイナス金利」を適用することが決定した。日本政府や日銀の意図としては、日銀当座預金をマイナスにすることで、銀行から民間への貸し出しを増やすというものだ。だが、どれだけ安い金利を銀行側から提示されても、資金需要がない民間はお金を借りない。(『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』)
日本のマイナス金利は、単に「国債がさらに買い込まれる」結果に
マイナス金利政策の盲点はデフレ期の資金需要不足
総務省が発表した2015年12月の全世帯(単身世帯除く2人以上の世帯)の消費支出は、実質で対前年比4.4%減に終わった。
さらに、同月の消費者物価指数は日銀のインフレ目標の指標であるコアCPIベースで対前年比0.1%上昇。相変わらず、さえない動きが続いている。
指標の悪化を受けたのか、日本銀行が16年1月29日、金融政策決定会合で「マイナス金利」導入を決定した。日銀当座預金、厳密には「基礎残高」「マクロ加算残高」を上回る預金残高に、マイナス0.1%の金利をかけるというものだ。
ご存じの通り、日本銀行は銀行等から国債を買い取り、日銀当座預金残高を増やす形で代金を支払う量的緩和政策を継続している。
結果的に、銀行などの預金取扱機関の日銀当座預金段高は膨れ上がった。
日本の預金取扱機関の日銀当座預金残高の推移(単位:億円)
直近のデータである15年12月末時点で、日銀当座預金残高は246兆1375億円にも達している。
問題は、黒田日銀が発足した13年春時点と比較し、何と200兆円も日銀当座預金残高を増やしたにも関わらず、インフレ率が0.1%と、全く上昇しようとしない点だ。
本来、日銀当座預金残高には金利が付かない。ところが、日本政府や日本銀行は、日銀当座預金残高に0.1%の金利をつけていた。理由であるが、筆者が麻生財務大臣に直接確認した際には、「日銀当座預金に金利をつけなければ、銀行が日銀に国債を売ってくれなくなるため」と、何というか本末転倒な説明をされた。
そもそも、目的は量的緩和で日銀当座預金残高を増やすことそのものではない。日銀当座預金残高を増やし、銀行の貸付余力を高め、民間への融資を拡大し、需要(消費・投資)に結び付けることだ。
ところが、デフレ期の国では金利や銀行の融資姿勢と無関係に、民間がおカネを借りない。理由は、需要が不足する(これが「デフレ」だ)環境下でお金を借り、設備投資や住宅投資におカネを投じても儲からないためだ。すなわち、デフレ期には資金需要が不足しているのである。
日本の長期金利は、日銀の国債買取が本格化する前から低かった。理由は、民間がおカネを借りないため、銀行が預金を国債で運用せざるを得ないためである。
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その状況で、銀行から国債を買い取り、日銀当座預金残高を増やそうとすると、何しろ銀行にとってみれば「金利が付く国債」を手放し、「金利が付かない日銀当座預金」と交換する事態になる。
確かに、日銀当座預金に金利が付かなければ、銀行は日銀に国債を売ろうとはしないだろう。
今回、日銀当座預金の一部について「マイナス金利」を適用することが決定した。日本政府や日銀の意図としては、日銀当座預金をマイナスにすることで、銀行から民間への貸し出しを増やすというものだ。
銀行は、日銀当座預金のマイナス金利を、民間への「金利付き融資」でカバーしようとする「はず」という目論見である。
とはいえ、民間が銀行からおカネを借りるか否かは、あくまで「民間の資金需要」に依存する。
どれだけ安い金利を銀行側から提示されても、資金需要がない民間はお金を借りない。
そして、デフレの国ではおカネを借り、投資をしても「儲からない」ため、政府が緊縮財政路線を堅持する限り、資金需要は増えない。
というわけで、日本がマイナス金利を採用しても、単に「(金利が付く)国債がさらに買い込まれる」という結果を招くだけだろう。実際、日銀のマイナス金利採用のニュースを受け、新規発行十年物国債金利(長期金利)は、一時0.09%と、何と0.1%を割り込んでしまった。
すでに、五年物国債はマイナス金利に突入している。このままでは、長期金利がマイナスに突入するのも時間の問題だ。
民間の資金需要がないデフレ期には、金融政策をどれだけ拡大しても、銀行から企業、家計への貸し出しは増えない。結果、モノやサービスが買われず、物価は上昇しない。
上記の「現実」を政府が素直に認識し、「財政出動」で需要を拡大する方向に舵を切らなければ、日本銀行のインフレ目標2%が達成される日は訪れない。
『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』(2016年1月30日号)より
※記事タイトル、本文見出し、リード、太字はMONEY VOICE編集部による
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