ヤフーがZOZOに対しTOB(株式公開買付)を行うことが発表されました。ZOZO株式の36%を保有する前澤氏が30%を売却するということで、成立は確実視されています。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
ZOZO前澤氏とヤフー、それぞれの思惑とこれからの行方
金持ちなのに「金欠」だった前澤氏
ヤフー<4689>がZOZO<3092>に対しTOB(株式公開買い付け)を行うことが発表されました。順調に行けば、ZOZOはヤフーの連結子会社となります。ZOZO株式の36%を保有する前澤氏が30%を売却するということで、成立は確実視されています。
TOB価格は2,620円です。発表を受け、両社ともに株価は上昇しています。
ヤフー<4689> 15分足(SBI証券提供)
ZOZO<3092> 15分足(SBI証券提供)
私もこの発表を受けて驚きました。特に、前澤氏が株を売却し、ZOZOの社長を退任するという点は青天の霹靂です。
前澤氏の最近の金遣いの荒さは際立っていました。高額の絵を買い漁ったり、Twitterで現金をばらまいたり、果ては宇宙旅行を買ったりと、常人には考えられない豪遊っぷりです。
しかし、多くの創業者の資金源は、自社株を担保に出すことによる銀行借入です。ZOZOの株価はここのところ低迷していましたから、銀行から追加の担保を要求され、前澤氏は金持ちなのに「金欠」になっていた可能性があります。
大量の自社株はなかなか売れるものではありません。自らの売りが株価を下げることになりますし、売却が明らかになったら投資家の負の憶測を呼びます。そこへヤフーが株を買ってくれると言ってきたら、まさに渡りに船だったわけです。
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業績の足を引っ張るショッピング事業「起死回生策」
一方のヤフーにとっても、この買収は起死回生の策です。同社はこれまで出店料無料化などによりショッピング事業に力を入れてきたものの、利益は一向に上がらず業績の足を引っ張っていたのです。
ショッピング事業が軌道に乗れなかったのは、楽天とAmazonとの競争により、ヤフーが独自のポジションを打ち出せなかったからでしょう。結局大量のポイント付与によりコストばかりがかさむ状況となっていました。
そこへ、アパレルでは押しも押されぬ最大手のZOZOを取り込めれば起死回生となる可能性があります。ヤフーはここで勝負をかけたのです。
「前澤リスク」排除は成長を後押しするか?
一方のZOZOにとっても、悪い話ではなさそうです。
株式の直接的な売却要因は前澤氏の懐事情が大きいと見ていますが、経営的にも「前澤リスク」が大きくなっていました。過激な発言が「炎上」を招くだけでなく、ZOZOスーツの失敗や独自割引制度による出店企業離れを招いていました。
あくまで私見ですが、アパレルのネットショッピングはまだまだ黎明期で、その筆頭であるZOZOに求められるのは奇策ではなく、王道だと思います。しかし、前澤氏はその特徴的なキャラクターゆえに、普通のことでは満足できない部分があるのでしょう。
ここで日本のインターネット社会を牽引してきたヤフーに道を譲ることで、着実な成長に邁進できると考えます。
Next: やたらとお金をかけてもがくヤフー、どこへ向かうのか?
ヤフーよ、そんなに急いでどこへ行く
一点気になるのが、ヤフーについてです。
本来、ポータルサイトで何の心配もいらない会社なのですが、最近はショッピングやPayPayなど、やたらとお金をかけてもがいている印象です。
そこへ4,000億円をかけてZOZOを買収するのです。財務的には問題ないのですが、「そんなに急いでどこへ行く?」という印象を持ちます。
おそらく、ソフトバンクの孫社長から発破をかけられているのでしょう。ビジョンファンドと同じような動きをしています。もうかつてのヤフーと同じように見ないほうが良いのかもしれません。
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『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2019年9月12日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。