フリマアプリの「メルカリ」が第1四半期で70億円の営業赤字を発表。この赤字は2018年6月の上場から続いています。この先の未来はあるのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
メルペイはすでに「負け犬」の域。本業のフリマにも未来はない?
輝かしい上場から早1年、ずっと赤字
メルカリ<4385>が第1四半期で70億円の営業赤字を発表し、一時ストップ安を記録しました。赤字は2018年6月の上場から続いています。この先の未来はあるのでしょうか。
メルカリといえばフリマアプリの会社です。昨年6月に東証マザーズに上場しました。当時は大きな話題となり、多くの投資家が期待を乗せて株を購入しました。
しかし、当時から業績は赤字でした。国内事業では黒字が出ていたものの、成長の軸に位置づける米国事業への先行投資が業績を押し下げていたのです。
それでも、社長の山田進太郎氏の強気発言もあり、多くの投資家は大船に乗ったつもりでいました。米国事業もやがて大きく伸びて成長に貢献するだろうと考えたのです。ところが、上場から1年経った現在においてもいまだに赤字が続いています。
もっとも、成長企業の赤字は必ずしも悪いことではありません。先行投資がかさんで赤字になることだってあります。大切なのは売上が伸びているなど、具体的な進展が見られることです。
米国事業が伸びないのは「文化の違い」
それでは、成長の軸とされる米国事業の状況を見てみましょう。以下が米国の取扱総額の推移です。
YoY(前年同期比)では+52.0%となっていますが、よく見ると2四半期前からほとんど伸びていません。これは成長事業としては疑問符が付く状況です。
何が悪いかと言えば、相当なコストをかけているにもかかわらず伸びていないことです。
コストの内訳は、主に広告宣伝費です。一般的に広告宣伝費をかければ、大抵のものはそれなりには伸びます。それなのにほとんど伸びていないということは、よほど米国市場から受け入れられていないと考えざるを得ません。
要因として考えられるのが、日米の文化の違いです。日本では物を大切に扱う文化が根づいているからこそ、買い手も安心して購入できます。また、フリマアプリでは欠かせない宅配の質も世界一素晴らしいものです。
一方の米国では、日本ほど物を大切に扱う文化はありません。そのため、中古品を売買する時には目で見て確認することが基本となっています。
老舗のCraigslistというサイトでは、地域ごとに商品を検索する仕組みとなっています。最近ではFacebookで直接売買することも多いようです。実名登録制となっているFacebookだからこそ、安心して取引ができるというわけです。
そんな状況でメルカリが割って入るのは難しかったのではないでしょうか。このまま続けていてもお金をドブに捨て続けるようなものです。今メルカリに求められていることは、潔く米国から撤退することだと考えます。
Next: 頼みの国内事業も頭打ち。フリマ市場は決して成長分野ではなかった…
頼みの国内事業も頭打ち
もっとも、米国事業の出血を止められたとしても未来が拓けるとは限りません。以下は国内事業の取扱総額の推移です。
こちらは何と、4四半期にわたって頭打ちの状況が続いているのです。上場直後がピークとなっていて、これでは「上場ゴール」と言われても仕方ありません。
メルカリはフリマアプリで一大市場を築きました。使いやすいアプリを作り、PCをあまり使わない主婦層に広く受け入れられたのです。「ペットボトルの蓋」も売り物になるなど、不用品の売買に新たな機会を提供してきました。
しかし、その流れはあっという間に止まってしまいました。どちらかと言えば、購入者より出品者が不足しているようなのです。
私もメルカリで何点か出品したので、その理由が分かる気がします。
最初は楽しくてどんどん出品したくなります。しかし、飽きてくると途端に出品するのが面倒になってしまうのです。商品の写真を取って説明を書き、売れたら梱包して発送しなければなりません。これははっきり言って「労働」です。
頑張って出品しても、コメントが付いたかと思えば「値下げ交渉」でうんざりしてしまいます。ヤフオクに慣れた身としてはどうしても受け入れられません。その上、売れた金額から10%もの手数料が取られてしまいます。
結果、手元にお金が入るまでに「労働」「値引き交渉」「梱包資材」「手数料」という何重ものコストがかかってしまうのです。これでは新たなユーザーには浸透しにくいでしょう。
すなわち、フリーマケット市場は決して成長市場だったのではなく、それまでの空白地帯に急速に浸透しただけで、飽和になるのも早かったのです。
このように、市場の成長が本当かどうかは、よく見極める必要があります。
Next: もはやメルカリは虫の息?「PayPayフリマ」が攻勢をかける
ライオンに取り囲まれたシマウマ
まだまだ悪い状況は続きます。
メルカリをさらに窮地に追い込むのが、活発な動き続けるYahoo!(Zホールディングス<4689>)の存在です。最近もLINE<3938>と経営統合することで基本合意したと報じられました。
そのYahoo!が本腰を入れ始めたのが、「PayPayフリマ」です。
最大20%還元キャンペーンを開催し、メルカリに本格的に対抗しようとしています。ヤフオクがスマホ対応で遅れた分を挽回しにかかっているのです。
Yahoo!を含むソフトバンクグループに目をつけられるということは、もはやライオンに取り囲まれたシマウマのようなものです。PayPayフリマはあらゆる手段を使ってシェアを獲得しようとしてくるでしょう。
PayPayと言えば、QRコード決済でメルカリの「メルペイ」とも競合する立場にあります。もっとも、シェアでは圧倒的な差が出ていて、以下の資料ではPayPayが35.4%、メルペイが3.5%と10倍もの差があります。
出典:Appliv
このように、メルペイはすでに「負け犬」の域に入っています。米国事業に次いで赤字の要因であることは間違いありません。
なお、フリマアプリの競合としては、楽天<4755>の「ラクマ」も存在します。こちらは、出品手数料3.5%と価格競争を仕掛けています。出品者としてはありがたく、ユーザーが増えることでメルカリの座を脅かし続けるでしょう。
Next: Yahoo!がメルカリを買収する未来はあるか?
Yahoo!がメルカリを買収する未来はあるか?
以上のようにメルカリの経営は相当厳しい状況と言わざるを得ません。
米国では勝ち目のない戦いで赤字を垂れ流し、QRコード決済も終戦を迎えたたように見えます。
その上、経営の軸である国内フリマアプリ市場はYahoo!、楽天といったインターネット業界の巨人たちが攻勢を強める戦国時代となっています。
株価は上場からずるずると下落を続けます。もし私が株主だったら、一刻も早く損切りを決断しなければならない状況です。
メルカリ<4385> 週足(SBI証券提供)
メルカリが自力で再建を図るなら、余力があるうちに米国事業やメルペイ事業から撤退することが必要です。出血を止めなければ、時間の流れとともに死を待つのみです。
その上で、国内のリユース市場に集中すべきです。利益が出ているとされ、利便性では競合に勝ります。この部分を、圧倒的な存在になるまで強化することが必要となるでしょう。
米国の状況を参考にすると、地元で直接売買できる方法を構築することも考えられます。「地元の掲示板」でおなじみの「ジモティー」の買収なども一案です。
もっとも、投資家としては会社を買うよりも、買われる方に魅力があります。買収されれば株価は上昇するからです。例えば、貪欲な買収を続けるYahoo!が、株価下落で「お得」になったメルカリを買収するという未来は、決して絵に描いた餅ではないでしょう。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年11月18日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。