連日コロナ関連の報道ばかりですが、その裏でひっそりと重要法案の審議も進んでいます。国家公務員法および検察庁法の改正、高齢者フリーランス化などです。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2020年4月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
国家公務員の定年、段階的に「65歳」に引き上げへ
政府は3月13日、国家公務員の定年を段階的に65歳へ引き上げる国家公務員法や検察庁法などの改正案を閣議決定しました。
今国会へ提出し早期成立を目指しますが、東京高検のすでに満年齢で定年を迎えている63歳の黒川弘務検事長の定年延長問題が大問題となっている中で、検察官の定年延長を可能にする改正案を閣議決定したのです。
2月8日の誕生日で63歳になりました。つまり本来は2月で定年退官のはずでした。ところが政府は、直前の1月末に1人だけ定年を8月まで延長する閣議決定をしました。
これが今回の定年延長です。
黒川検事長のためだけに、検察庁法を改正するという荒業です。というか暴挙です。
それを、国家公務員法と一緒にする「束ね法案」にして、国会に提出しようとしています。
国家公務員法の改正案は現在、原則60歳となっている定年を、2022年度から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、2030年度に65歳とするものです。
60歳以降の給与は当分の間、それまでの7割とし、60歳を機に局長などの管理職から原則退く「役職定年」も導入します。付則には人事評価や給与制度についても、見直していくことが盛り込まれています。
地方公務員法も同様に改正します。
1961年生まれの人の年金支給が65歳からになることから定年を延長したようです。
検察庁法の改正案は、すべての検察官の定年を現行の63歳から65歳に段階的に引き上げる内容で、2024年度に完了します。
現在は検察トップの検事総長だけが例外として65歳になっています。
国家公務員法改正で導入しようとしている「役職定年」は、検察官にも当てはめます。
つまり、63歳になった者は、検事総長を補佐する最高検次長検事や、全国に8人いる高検検事長、各地検トップの検事正などに就けなくなりますが、人事を任命する権限を持つ政府や法相が「職務遂行上の特別の事情」があると判断すれば、特例措置として63歳以降もこれらのポストを続けられるようにするのです。
黒川検事長のため?法改正までする荒業
黒川検事長定年延長に関する法解釈の経緯は、先月配信の当メルマガでご紹介しましたが、そのときに時系列で追いかけたものを、再掲載します。
1月31日:黒川検事長 定年延長を閣議決定
2月03日:法務大臣 定年延長は国家公務員法の規定適用
2月10日:1981年人事院局長答弁 定年延長は「検察官には適用せず」 法務大臣「このことは承知していない」
2月12日:人事院局長「(1981年答弁と)同じ解釈」
2月13日:安倍総理「(国家公務員法適用ではなく)法解釈を変更した」
2月17日:法務大臣 法解釈変更は1月中のことだ
2月19日:人事院局長 12日の発言を撤回「言い間違い」
2月20日:法務省 1月中に人事院や法制局に検事官定年延長に関して文書で照会していた
1月末に定年延長を閣議決定した黒川氏については、政府は検察官に適用できないとしてきた定年延長規定の法解釈を変更して適用しました。
政権にすごく近い黒川検事長を検事総長にしたいという政権側の意向を無理やり通すための「定年延長」です。
現在の検事総長は稲田伸夫氏(1956年8月14日生)で、検事総長は近年、2年ほどで交代することが多く、今の総長は7月で就任から丸2年になります。
また、定年延長の結果8月まで勤務が続くと、黒川検事長よりも誕生日が後で、ライバルと目されたほかの人が63歳を迎えて、先に定年となります。
上記法解釈の時系列表にもあるように、いまの検察庁法には定年延長の記述はないので、森法務大臣答弁のとおり、今回は国家公務員法の定年延長の規定が使われました。
検察庁法が改正されれば、黒川氏のような延長は、同法の規定に基づき可能になります。
野党は、黒川氏のケースのつじつまを合わせるために検察官の定年を延長できるようにしたとして、検察庁法改正案の検討プロセスを国会で追及しています。
検察官は裁判官と同じ待遇になっています。身分保障された高収入が約束されています。
ただし、裁判官には定年延長はありません。
定年延長された黒川検事長の年収は2,600万円です。定年延長したら、せめて給料は国家公務員と同じに下げるべきではないでしょうかね。
これらは、新型コロナウイルス感染の話題に、完全にかき消されています。
Next: 検察権は「捜査から刑罰まで」と幅広く及ぶため、行政権の一部とされて――
三権分立も危うい
検察権は「捜査から刑罰まで」と幅広く及ぶため、行政権の一部とされています。ただ、同時に司法と密接に関係することから、「準司法官」とも呼ばれ、独立性や中立性が求められます。
検察庁法という法律は、今の憲法ができた昭和22年に作られました。
組織や権限に加えて、司法の独立のもと裁判官に準じる身分の保障や待遇を定めています。専門家によれば、定年もこうした考えから設けられたとされます。
つまり検察庁法には憲法の「司法の独立を守る」という役割もあったのです。
あの田中角栄元総理も、検察人事には口を出しませんでした。
1950年6月の第3次吉田第1次改造内閣で、法務総裁(現法相)となった大橋武夫氏は1951年、最高検次長検事の木内曽益(つねのり)を札幌高検検事長に左遷し、広島高検検事長の岸本義広氏を次長検事に就けようとして、検事総長の佐藤藤佐(とうすけ)氏らと衝突しました。
いわゆる「木内騒動」と呼ばれるもので、安倍政権が検察官では前例のない定年延長を黒川弘務東京高検検事長に適用したことを巡る「黒川騒動」は、70年近く前の木内騒動と同様、政治による検察人事への露骨な介入と言えるでしょう。
国家公務員と検察諜報をセットに国会に提出、「束ね法案」にして、国家公務員と抱き合わせて、検察官の定年延長を可能にする改正を、もぐりこませているのです。
原案では、検察庁法改正案の段階では、定年延長のことは書かれていませんでした。
これが新型コロナウイルス感染の話に、報道されずに埋もれているのです。
高齢者フリーランス化計画?
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案(高齢者雇用安定法案)」が閣議決定され、今国会で審議されます。
この法律は、事業主に対し、新たに65歳から70歳までの雇用もしくは就業の確保を図る努力義務を課すものとなっています。
高齢になっても働く意欲のある人たちのために雇用機会を提供するというのが、法改正の主旨となっています。
これだけだと、何の問題もない納得できる法案なのでしょうが、よく読みとくと、その「本音」は、違うところにあるようなのです。
全労連常任幹事で雇用・労働法制局長の伊藤圭一氏は、「この法案は、労働者のニーズに寄り添うように見せかけて、実はそういうものではない」とし、安い労働力を必要に応じて使いたい事業主のニーズに応え、かつ、政府が進めたい年金制度の改悪を補完するための制度づくりに思えてならないと指摘しています。
その考えの背景として、高齢者雇用安定法案が、「個々の高年齢者のニーズや状況に応じた活躍の場の整備を通じ、年齢にかかわりなく活躍し続けることができる社会の実現を図る」としておきながら、同じ文章に「対象者の限定を可能とする」と書かれている点を挙げています。
この問題は、雇用形態にあります。
Next: 事業主が高齢者を雇用する際には「雇用もしくは就業」としています。これは――
「不本意フリーランス」が続出する?
事業主が高齢者を雇用する際には「雇用もしくは就業」としています。
これは「雇用」だと労働契約がありますが、「就業」だと委託契約でも良いわけで、つまり労働法も中に労働契約から委託契約に切り替えられる仕組みがついているということになります。
この「就業確保措置」のなかにある「雇用もしくや就業」という文言は、いつでも労働法による保護からはずすフリーランスの身分にすることができるということです。
この選択肢は事業主側にあり、働く意思がある高齢者は、これを拒めない状況にあります。
年金支給額の減額、支給開始年齢が、現在の65歳から70歳になるのではとも言われています。
60歳以降も、70歳までは働かなければならないと思っている高齢者は、大勢いると思われます。
フリーランスの処遇であろうが、働けるのであれば、事業主に言われるがままの処遇で働くしかないという状況になるのではないかということが懸念される法案になっています。
伊藤氏は、この状況を「不本意フリーランス」と呼んでいます。
高年齢雇用継続給付も縮小へ
さらに今回の法律改正で、別の問題も指摘されています。
定年まで5年以上継続して雇用保険に加入し、60歳以降の賃金(給与)が60歳時点の賃金の75%未満になる場合は、雇用保険制度から高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金・高年齢再就職給付金)が支給されることになり、低下した賃金の一部が補填されることになります。
これは雇用保険制度の範疇になるのですが、今回この制度も改正され、65歳までの雇用確保措置の進展等を踏まえて、高年齢雇用継続給付を2025年から縮小するとともに、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置の導入等に対する支援を、雇用安定事業に位置付けるとしています。
2030年には、男女ともに年金受給開始年齢が65歳になるので、65歳まで雇用されることにおける賃金体系を整えるので、再雇用における高年齢雇用継続給付を廃止していこうというものです。
雇用保険会計には疑問があり、今回の新型コロナウイルス感染拡大により、今後は失業保険給付金はすごく増えることが予想されます。
いまでも失業給付金は下がっていて、日額8,330円では生活は厳しいでしょう。
おそらくこれらのこととセットで、副業・兼業容認ということがあるように思えます。
副業関連を含む「束ね法案」成立へ着々と進んでいる
副業に関しては、現行制度では雇用保険の考え方は、勤務先ごとの労働時間で判断しており、多様な働き方が広がる現状に対応できていないとされています。
新制度が導入されれば掛け持ちで働く人も労災認定されやすくなり、労働者保護が広がるとしています。
新制度では、複数の勤務先での負荷を総合的に評価して労災認定します。過労死を招く脳・心臓疾患は発症1ヶ月前の残業が100時間を超えることが認定の目安ですが、1つの勤務先では100時間未満でも、複数を合算して100時間を超えていれば認定されることになります。
また現在、労災保険の給付額は労災が起きた勤務先の賃金のみが根拠となっていますが、新制度では、労災が発生していない勤務先の賃金も算入することができるようになります。
これらの法律も「束ね法案」になっていて、「雇用保険法等の一部を改正する法律案」と「等」が付いていて、他に、前述の高年齢者雇用安定法に加え、労災補償保険法、労働保険料徴収法、労働施策総合推進法など、細かい法律も含めると20本ぐらいを束ねている一括法案になっているのです。
Next: 一般の人には馴染みがないかもしれませんが、新型コロナに隠れて著作権法も――
そのほかに
一般の人にはあまり馴染みがないかもしれませんが、新型コロナウイルス感染に隠れて著作権法も改正されます。
ポイントは、以下となっています。
・海賊版の撲滅
・利用権を守る
海賊版対策には、「ダウンロード違法化の拡大」と「リーチサイト規制」があります。
違法ダウンロード規制は、音楽や映像においては、私的複製でも違法としていますが、これを音楽や映像以外にも拡大しようというものです。
スクリーンショットやキャプチャーは、たとえば論文作成のためなど、軽微なものは認められるようです。
二次創作やパロディに対しても対応はゆるやかで、著者権の利益を不当に害しないなら良しとしようという風潮のようです。
リーチサイトとは、インターネット上にある違法コンテンツに利用者を誘導するためのリンク(URL)を集めて掲載するサイトのことです。リーチサイト自体は違法コンテンツを掲載していませんが、違法コンテンツへの誘導は著作権侵害を助長させる行為であるとして、出版などの業界団体が問題視しています(「リーチ」は“reach”(到達)ではなく、“leech”(動物のヒル。転じて人や財産を食い物にする意)です)。
違法コンテンツには、著作権者の許可なくアップロードされたマンガ、書籍、音楽、アニメ、映画などが含まれます。
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『らぽーる・マガジン』(2020年4月1日号)より一部抜粋
※タイトル、本文見出しはMONEY VOICE編集部による
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