コロナ禍で居酒屋の倒産件数が急増、過去20年で最多となることがほぼ確実であると帝国データバンクが発表しています。一番の稼ぎ時である忘年会も消滅しそうな今、居酒屋業界に活路はあるのでしょうか?(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
売上高は半分に…居酒屋業界の修羅場
コロナ禍で居酒屋業界は大変厳しい状況に置かれています。
大人数での食事や、飲んで大声で話してしまうことが感染につながりやすいことから政府が自粛を呼びかけているほか、多くの企業で会食や宴会の中止が呼びかけられています。
このままいくと、居酒屋にとっていちばんの稼ぎ時である忘年会シーズンに突入することになりますが、明るい兆しはまったくと言っていいほど見えません。
上場している居酒屋企業も例外ではありません。業界最大手のコロワイドホールディングスも、売上高は前年比半分以下に落ち込み、もはやこの状況で黒字を出すことすら想像できません。
コロワイド 4-6月期決算推移 出典:マネックス証券
三密を避けた食事をするなら、まず少人数であることが大原則です。居酒屋は宴会で稼ぐビジネスですから、少人数とは相入れません。
また、席の数を減らして、三密を避けることを考えるならば、店舗面積あたりの売上高はがくんと下がってしまいます。このような状況では、仮に席が満席になったところで利益を上げていくのが難しいのです。
まさに八方塞がりと言える状況です。
居酒屋にマクドナルドの真似はできない
もっとも、外食産業と言う観点で見れば、売上高を伸ばしているところがわずかに存在します。
その1つが、マクドナルドを始めとするファストフード業界です。ポイントは、「持ち帰り」と「知名度」です。これを見習って業績を改善することはできないでしょうか。
※参考:マックがコロナ禍でも好調なのは大手ファストフードだから? 公式アプリ「6600万ダウンロード」の本質 – ITmedia ビジネスオンライン(2020年7月16日配信)
しかし、居酒屋業界の現状をみると、これは決して簡単ではないことが想像できます。なぜなら、居酒屋業界は徹底した安値競争が繰り広げられてきたからです。
和民や金の蔵、最近では鳥貴族など、とにかく安く飲めればいいと言う風潮が広がっていました。そんなところの食事をわざわざテイクアウトして食べたいと思うでしょうか。おそらくほとんどの人はそんなことをしたいとは思わないでしょう。
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活路は「高級」
このままいくと大多数の居酒屋が店舗の閉鎖や倒産に追い込まれてしまう可能性があります。現に、すでに多くの企業が店舗の撤退を始めています。財務的な余力のない企業から、この流れは加速することになるでしょう。
一方で、まったく飲めるところがなくなったら、どうしても必要な場面で困ってしまいます。大切なお客様と接待をしたり、家族内でのお祝いするお店も必要になるでしょう。
そこで思いつくのが「高級」というキーワードです。
高級感=清潔感のある店舗で、なおかつ個室であるなら、感染に対する恐れは最小限に抑えることができます。どうしても必要な場面では、高いお金を払ってでもそのようなお店を利用することが考えられます。
このような需要を掴むことができた一部の店舗は、さらに値段を上げることもできるかもしれません。コロナ禍が続けば続くほど、その可能性は高まります。
GoToトラベルで生まれた格差
実はこれと似た現象がホテル業界で起こっています。それがGoToトラベルによる格差現象です。
GoToトラベルは、旅行代金に対して一定の割合で補助が出ますから、上限はあるものの高い金額のホテルに泊まるほど、補助額としては上がるわけです。
また、これまでのように頻繁に旅行に行くこともできなくなりますから、その1回を楽しもうと思ったら、できるだけ満足のいく高級なところに泊まりたいと思うでしょう。
多くの人がそのように考えた結果、格安宿やビジネスホテルではGoToトラベルが始まっても閑古鳥が鳴き、一方で個室を売りとする高級旅館等は常に満室となるほどの大盛況だったわけです。
※参考:「高級旅館はどこも一杯」富裕層ばかり得する「GoTo」は正しい政策なのか 業者救済だけでは冬を越えられない – PRESIDENT Online(2020年9月18日)
Next: 飲食業界の勝ち組はどこか?
飲食業界の有力銘柄はどこか?四季報を探索
同じようなことが、飲食業界でも起こりうると考えます。
折しも、10月からGoToイートキャンペーンが始まる見込みです。これも25%の金額を上乗せした商品券が配られるものですから、つい奮発して出費したくなります。もちろん、行く先は格安居酒屋ではないでしょう。
三密を避けてお得に料理ができるとなれば、皆さんも高級な料理店で食事をしたいと思いませんか。すなわち、次に飲食業界で起こる事は、高級店と格安店の格差です。
投資家としては、「高級」の対象となりそうな上場企業を探すわけですが、残念ながら高級飲食店はなかなか上場していません。高級であればあるほど、チェーン店にはなりにくいからです。
それでも何とか四季報を眺めると、以下のような企業が浮かび上がります。
ひらまつ<2764>
平松博利氏が創業。高級フランス料理店等展開。日本料理店、ホテル事業を強化中。
梅の花<7604>
高級和食店「梅の花」が主力。デパ地下向け持ち帰りずし「古市庵」も。
うかい<7612>
「うかい鳥山」など和洋食の高級レストラン直営。近年は東京都心に注力。
木曽路<8160>
しゃぶしゃぶの最大手。居酒屋や焼き肉なども経営。
※出典:四季報
大化け株はあなたの身近にある!
しかしながら、これらの企業の財務状況を見ると、もともと経営状況があまり芳しくなく、コロナ禍でいよいよ追い込まれている企業がほとんどです。そう簡単には利益を出せる銘柄は見つかりません。
そのなかで、木曽路は唯一可能性を感じます。これまでも堅調な業績を続けてきましたから、財務状況に余裕があり、なおかつ個室で和食を食べるという点においてはよく名が知れているからです。私も親戚の集まりをここでやったことがあります。
また木曽路に限らず、余裕のあるところはどんどん「個室」「高級」といったキーワードに当てはまる店舗を作ってくるでしょう。そういった動きがこれからの株式市場を読む鍵となるでしょう。
ぜひ皆さんも自分が行った店舗で、今後も伸びそうなところを探してみてください。もしそこが上場していたら、大化け株を掴むチャンスになるかもしれません。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年9月30日)
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。