日産自動車<7201>の株価はゴーン氏退場から下がり続け、5年前の3分の1の価格になってしまっています。「バイデン銘柄」となる可能性も秘めている日産は買いでしょうか?(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
日産自動車はバイデン銘柄?
今回は日産自動車<7201>についてお話ししたいと思います。日産自動車の株価というとゴーン氏が退場してからずるずると下がり続けて、今や5年前のおよそ3分の1の価格になってしまっています。
日産自動車<7201> 週足(SBI証券提供)
一方で、この日産自動車は実はバイデン銘柄なのではないかと私は見ています。
まずバイデン政権の政策について振り返ってみたいと思います。
最も大きいと言われているのがこのエネルギー環境政策です。
EV普及へ50万カ所の充電ステーション整備
②自動車産業
中国に対抗し、電気自動車(EV)とその部材の生産で世界のリーダーとなる。為替操作や過剰生産能力、政府権力乱用に対する貿易ルール強化の一方、国内では生産能力を増強し、部品やインフラを含む自動車産業全体で100万の新規雇用を創出、21世紀を勝ち抜く産業にする。そのために連邦政府、地方政府、郵政公社などでEVなどアメリカ製クリーン車の購入を増やす。消費者がアメリカ製クリーン車に買い替える際には補助金を付与する。クリーン車の国内工場建設にも刺激策を導入する。
またEV普及のためのインフラとして、50万カ所の充電ステーション建設に投資する。蓄電池の研究開発にも支援する。
出典:バイデン政権なら激変のエネルギー・環境政策 | アメリカ大統領選2020 – 東洋経済オンライン(2020年11月6日配信)
トランプ大統領がパリ協定から脱退するなど、環境に関してはとことん後ろ向きな姿勢を取っていました。
それに対してバイデンさんはパリ協定に復帰して環境エネルギーに対する投資を進めていこう、それでアメリカの国力を強くしようということを言っています。
その中のひとつに挙げられているのがEV、電気自動車です。
中国でも今電気自動車を普及させようと、そして世界で派遣を取ろうとさまざまな施策が行われています。
これに対抗する形で50万カ所の充電ステーションを整備するなど、電気自動車にとっては追い風が吹いています。
そこで、日本企業で注目されるのが日産自動車です。
Next: 苦境の日産、新型EVアリアで復活できるか?
ブランド価値の下落で「車が売れない」
日産というと世界に先駆けて電気自動車リーフを販売して、今もどんどんバージョンアップをして販売を続けています。
そんな中でこの電気自動車を作る銘柄として、日産に注目が集まっています。
ところが日産の株価というと実はまったく冴えない動きをしています。
日産自動車<7201> 週足(SBI証券提供)
2018年の末にカルロス・ゴーン社長が逮捕されてから、株価はずるずる下がり続けてしまいました。
そして2020年3月期には最終赤字6,700億円を記録して、これはゴーン氏の体制の元で無理な数値目標を追い続けた、その反動が出ていると言われています。
これだけの赤字計上した結果株価に関しては、この2016年およそ4年前の3分の1というところにまで沈んでいます。
そんな日産が抱えている課題と言えば、まずはゴーン氏が掲げた過大な目標の反動というところにあります。
この過大な目標を達成する為に日産は販売奨励金というものを出しました。
これは日産がディーラーに対して車が売れたら、これだけ報奨金を出しますよというようなことを言って、それで何が起こるかっというとディーラーで安値販売が起きるわけです。
そう安値で車を販売するというのは、目先は良いかもしれませんが、長期的に見ればブランド価値の低下にもつながってしまうので、それによって日産の車が安く見られる、もっと言うならばとにかく販売台数を稼ごうということをしたので、その為にレンタカー会社なんかにどんどん車を卸しました。
それはフリート販売と言われるのですが、レンタカー屋さんに車を出すとすぐに中古市場に流れてしまって、これもまたブランド価値の低下ということに繋がります。
それによって今とことん日産の車が売れないという形になってしまっています。
そして売れない良い車をなんとか処分しようという形でやった結果、6,700億円という最終赤字を記録してしまったということになります。
そして社内体制としても問題があります。ゴーン体制の元、下の人達は言うべきことも言えないというような状況で、ガバナンスが通っていなかったということもあります。このゴーン体制下では工場での不備をなかなか直さずに、検査体制なんかが不十分と言われていていた中で、これを結局、国に是正されるまで手がつけられなかったというような状況もあったりします。
その辺はやはり今後の問題点として残っています。
苦境の日産、新型EVアリアで復活できるか?
そして何より大きいのが、売れる車がないということです。リーフもそんなに売れているという話は聞きませんし、今やランキングを見てもなかなか日産の車が出ているということはありません。
それだけ車もなかなか売れない状況で、これがない限りは日産の復活はなかなか難しいだろうと見えました。ところがここで大きな動きが出ています。
それがアリアの登場です。
今アメリカでとにかく売れているのは電気自動車のテスラで、テスラの良いところというと電気自動車である他に、自動運転である事、そして何よりこの格好良くてイケてる感じというところです。
このアリアはそのテスラに対抗する物であると言われています。
形としてもアメリカでものすごく流行っているこのSUVタイプですし、内装もものすごく豪華な感じにして、まさにテスラに対抗しようとしている訳です。
Next: 日産がテスラの対抗馬?技術・ブランド・生産能力・販売綱ほかで比較
日産 vs テスラ
日産の強みと言いますと、他の自動車会社に比べても電気自動車の先駆者ということで、この電気自動車の技術、それからこの安全性能に関しても高い技術を持っているという風に言われています。
そして何より、アメリカにおける生産販売網を持っています。生産販売台数が6位で7.9%ということなんですが、この販売網というのが結構大きくなってきます。
テスラはあくまで自前で販売網を作っているので、これを構成していくには時間がかかります。
日産だとディーラー網をすでに築いていますから、このアリアをどんどんそのディーラーで売る事ができます。
自動車会社の強みを左右するのは、技術・ブランド・生産能力・販売網・コストだという風に見ています。
技術に関しては日産はあるという風に言われていて、一方でテスラも電気自動車と自動運転の技術というのをどんどん進めています。これはまだテスラに分があるのではないかという風に思います。
ブランドに関しては、日産のブランドが低下しているというところもありますが、みんな知っているというところあります。テスラもそれなりにあります。
それから生産能力。ここは歴然な差がついてくると思います。日産はこれまで何百万台何千万台と車を毎年作っているので、生産能力に関してはあると思います。一方でテスラはこれが弱いという風に言われていまして、なかなか量産化に際しては不具合があったり、そういった事がまだ目立つという風にも言われます。
販売網関してはテスラが自前で作ろうとしているのに対して、日産はディーラー網を築いていますから、売る事は割と容易いという風に考えています。
コストに関しては両社はまだ大きな違いがないのではないかと思います。
例えばトヨタだとガソリン車中心で、しかも系列の下請け、孫請けの会社をどんどん作っています。これがガソリン車から電気自動車になると部品点数が3分の1になると言われています。もうすでに家族のようにこの下請け孫請けと会社を連ねていると、2/3をごっそり切らないといけないということになります。これがネックとなってトヨタは電気化に舵を切れないというところがあります。
一方で日産は、ゴーンさんが行ったリバイバル計画によって、多数の系列の会社をバンバン切っていきましたから、その重しというのはトヨタに比べたら無いということができます。
したがって日産が今後どんどん電気自動車に舵を切るということができるならばこれから期待できると考えています。
Next: ルノーの日産売却もありえる。売却先は?
ルノーの日産売却もありえる
次に見たいのが、日産の株主の状況です。
日産の株主というと筆頭株主にこのフランスの自動車会社ルノーがいます。ゴーンさんもこのルノーから送り込まれてきたのですが、その株主持ち株比率というのが43.4%。実質的には子会社のような形で動いています。
しかしこのルノーも結構厳しくて、この新型コロナで赤字に陥ったというのはもちろんですが、それ以前から業績が厳しいという風に言われていました。
したがって、これまでは日産も持っている事でグループとして高い利益を上げていたり、日産からの配当が持たらされるということで株式を持つメリットは大きかったです。
けれどもこれほど自分も苦しいと、日産も大赤字で6,700億円という大赤字を記録したので、もはや日産を持っているのが苦しくなっている状態なのではないかと言われています。
そんな中でこの株式を売却するという可能性が浮上しています。
日産を買いたい企業は?
じゃあどこに売却するのか、噂では中国企業が買うのではないかみたいな話も出ていますが、このバイデン政権下で結構大きく流れが変わったのではないかと思います。
自動運転がどんどんアメリカで行われる事になると、アメリカとしてもその強い自動車会社が欲しいという動きも出てくるのではないかという風に想像しています。
そんな中で、実はこの日産・ルノーと協力して提携関係にあるのが、このGoogleとその傘下にある「WAYMO」です。
WAYMOというと自動運転技術をガンガン開発しているところです。
この中ではルノーが持っているこの43.4%の株式を、GoogleやWAYMOに譲渡するようなことがあると、日産が今度はGoogleやWAYMOの提携会社、あるいは子会社化という形になる可能性もあります。
もしこうなった場合にはかなり株式市場としては、ポジティブに反応をすると思われますから、かなり期待できる流れなのではないかと思います。
そういった観点で私はこの日産について「バイデン銘柄」という風に申し上げました。
先ほど言いましたように自動車会社の強みである、販売網や生産能力これは技術があったとしてもなかなか容易に形成できる物ではありません。その為、このGoogleみたいな自動車にとって新興企業は日産の能力というのは喉から手が出るほど欲しいのではないかと思います。
それでこの子会社というようなことになれば、なかなか株式市場として面白い展開になるのではないかと思います。
Next: 間違いなく安い。日産は買いなのか?
間違いなく安い。買いなのか?
では、その日産の株式は果たして買いなのかどうかということです。
株価は非常に大きく下がって4年前の3分の1という風に言いました。
日産自動車<7201> 週足(SBI証券提供)
株価水準としては安くなっている事は間違いなく、PERはマイナスも含めた過去5年平均のEPS1株当たり利益に対して、PERが今5倍というかなり割安な水準になっています。
今後も少なくともかつてのような利益を出すようになれば、かなり大きな上昇が見込めると考えていますし、もしこの電気自動車が当たるということになれば、そこからグイグイ上がるということ、あるいはイベントとしてこのGoogleと提携のようなことがあれば、グンと短期で上がるということも考えられると思います。
もっともそれを約束している訳ではないので、取引に関してはご注意いただければと思います。
逆にコロナ禍で需要が一時期落ち込みましたから、潰れてしまう可能性はどうなんだということについては、第一四半期の決算で出ていて、一応手元資金1.2兆円あって、手元資金から借金を引いたネットキャッシュプラスということになっています。
社債発行だとか、銀行からお金を借りる準備というのもできているということで、とりあえずは目先の現金に困るというようなことは無さそうです。
この後決算が発表されるのでその決算にも注目しなければならないのですが、今言った流れで、日産が本当にアリアを本格的に米国でガンガン売れるということになって、日産はアメリカと中国にも強いので中国で売るということになると、業績の向上というのも期待できますし、Googleとの提携というのもますます期待できるということになります。
それができるかどうかは、結局は日産の能力次第ということになるのですが、今後注目ができる会社なのではないかと思います。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
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『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2020年11月14日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。