TPP全文公表を新聞はどう伝えたか?各紙の報道スタンスを徹底比較

 

組み換え作物の情報共有ですって?

【朝日】は1面トップで「組み換え作物 情報共有」という見出し。リードは「『食の安全』から関心の高い、大豆などの遺伝子組み換え(GM)作物については、情報交換のための作業部会を造ることなどが新たに分かった」と書いていて、農水省によれば、「通商協定でこのような部会が造られるのは珍しい」という。

GM作物については、各国が「承認申請への必要書類の要件」「安全性の評価の概要」「承認された産品の一覧表」を公表し、未承認のものが僅かに混入した場合でも情報共有を進める取り決めを入れたという。

その他、「地理的表示」をめぐっては、米国産以外のバーボンウィスキーを日本で売り、日本以外で造られた日本酒などを米国で販売することを禁止するなど。

6面には、ISDS条項、食の安全、農業、著作権保護、医療に関してTPPがどう作用するか、「TPP懸念の答えは」との見出しのもとに各項目が整理されている。基本的には懸念は払拭されたか小さいものになったというトーン。ただし、著作権については、「保護期間の延長は、戦時加算が解消されるまで法改正に着手すべきではない」という福井健策弁護士の意見を紹介。著作権侵害の非親告罪化についても、2次創作への悪影響を払拭し切れておらず、「対象を海賊版に限るべきだ」という同弁護士の意見を引いている。

7面は全文の紹介に全面を割いている。

uttiiの眼

「組み換え作物の情報共有」とはなんとも持って回った言い方だ。ちょっとでも未承認のものが入ってきたら、「情報共有を進める」というのだが、実際にどのようなことが行われるのか、見当もつかない。責任を曖昧にしたこの種の表現に出くわしたとき、反射的に思うのは、「ああ、誤魔化そうとしているな」ということだ(《朝日》がではなく、政府が、だが)。

それに、この作業部会なるものは、GM作物の表示義務をなくし、アメリカが日本の市場開放を求めるためのテコに使われる可能性が高いのではないだろうか。アメリカからすれば、延長戦の舞台ということになるのではないか。

また、輸入国(日本のことだろう)の要請があれば、「輸出国でGM作物をつくる企業への情報共有を奨励する規定もある」と、《朝日》はちょっと嬉しそうというか、「こんなこともしてくれるんだ!」みたいな喜びのニュアンスが感じられるが、こんなもの、ただの空手形にしか見えない。「安全を気にする消費者にも配慮して、情報共有を深める場をつくったと言える」などと褒めそやすのは、まともな神経の持ち主ではないだろう。いや、これを書いている《朝日》の記者は、「GM作物は全く安全で問題がない」と信じているに違いない。「安全を気にする消費者」という言い方の中に、そのようなニュアンスを感じ取ることができる。その背景には、《朝日》が社として、TPPに賛成しているということがあるに違いない。

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