不安は拭いきれない
【東京】は1面の下段にまずは短めの記事を置き、見出しを「日本を標的に『再協議』規定」「『聖域』農産物 危機も」とした。《毎日》が報じたのと同じ、「7年後以降の再協議」のことだ。米国などから要請があった場合、再協議できる規定が盛り込まれ、「日本の『聖域』が再び脅かされる可能性が残された」とする。再協議を要請できるのは、米国とオーストラリア、カナダ、チリ、ニュージーランドの5カ国。いずれも日本への農産物輸出国だ。無関税の輸入枠、セーフガード(緊急輸入制限)、関税の撤廃について議論することができるという。《東京》は、「再協議の規定があるなら、事前に知らせてほしかった」という自民党農水族議員の声を拾っている。もっともなことだ。
また関税撤廃が決まっているものについては、その前倒しについていつでも協議できると決められた。段階的な撤廃だから大丈夫だという理屈は通らないことになる。
2面には、日本車の緊急輸入制限について、米・カナダに特例で認めることについての記事。その下には、農業者の内閣支持率が半減して18%まで落ちたことを伝える衝撃的な記事。もとは日本農業新聞の調査。
また3面は「食品・訴訟 残る不安」との見出し。食品添加物の認可、遺伝子組み換え作物の表示義務、ISDS条項、国民皆保険制度など、TPPについての不安は、それぞれ手当されたという位置づけだが、それでも、「政府はいつも問題ないと言うが、結果として米国の要求に応じてきた歴史があるので安心できない」という主婦連合会幹部の言葉を紹介する。
uttiiの眼
《東京》は、国連の人権専門家10人が連名で出した警告で、TPP合意が交渉国の人々の生命、食料、水、衛生、健康、住居、教育、化学、労働基準、環境などの人権保障に多面的かつ深刻な悪影響をもたらしかねないとしたことをベースに、記事を位置づけているように見える。
あとがき
国連の人権専門家の警告を意識したのは、《東京》だけでなく、《朝日》も含まれるのだろう。だが方向性は真逆。《朝日》は、TPPには国連が言うような問題はない、ちゃんと対処しましたよと言いたいようだ。《読売》も、ある意味では同様に国連の警告を意識したのかもしれない。だが《読売》の関心は基本的に対中国。協定が、人権規定を置き、女性の社会参画、環境保護などに言及したのは、後から入ってくるはずの中国に対するハードルとして位置づけたためだと言いたいようだ。《毎日》は、再協議によって、安倍政権の言い訳が通用しないものになったことを表現している。
作業部会に再協議。関税撤廃項目については随時の要請と再協議。TPPは、終わらない自由化の目論見ということだろうか。この「終わらない」というところに、この協定の暴力性を感じ取ることができる。
実際、関税撤廃に関する日本政府の「聖域論」は破られたも同然であり、また、非関税の分野では、深刻な著作権問題以外にも、不安の拭えないものだらけだ。大筋で合意したとされ、新聞によっては当然批准されるべきものと位置づけられている今現在のTPP、その膨大な中身には、これだけの問題がひしめいている。
image by: 内閣官房
『uttiiの電子版ウォッチ』2015/11/6号より一部抜粋
著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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