会社側対応メモから「証言映像捏造疑惑」に気付く
不二家の側でも、この1月22日の「朝ズバッ!」に対しては、放送当日にTBSに電話で抗議を行い、翌日には、文書で調査と放送内容の訂正を申し入れていた。
しかし、それに対してTBS側は、「証言の信憑性を確認するため」などと称して、「牛乳で混ぜ合わせるのでなければ何を混ぜるのか」、「製造年月日表示、賞味期限表示が開始された時期は?」などと不二家側に質問するだけで、何ら回答せず、交渉は中断していた。
『朝ズバッ!』は、不二家の信頼失墜に大きな影響を与えた番組だった。
その放送内容に虚偽があったのであれば、それを是正することは信頼回復に向けて重要な課題だった。
そこで、この『朝ズバッ!』の問題を信頼回復対策会議で取り上げることとし、議長の私が中心になって調査を開始した。
私は、まず、不二家平塚工場の製品の物流ルートについて調査し、小売店に出荷された製品が平塚工場に戻って来ることはあり得ないこと、万が一、小売店からの返品を工場に持ち込もうとしても、平塚工場内に返品を受け入れる施設もスペースもないこと、を確認した。
少なくとも、不二家平塚工場で小売店から返品されてきたチョコレートが再利用されることはあり得ないことを確信した。
それによって、「元従業員」だとする証言者や、返品されたチョコレートを再利用していたとの証言自体が存在するのか、それ自体がでっち上げなのではないか、という疑念も生じた。
しかし、それを信頼回復対策会議で正面から取り上げて追及するためには、証言自体が「捏造」や「やらせ」であることの疑いについての証拠をつかむ必要があった。
私は、関連資料のファイルをいつも鞄の中に入れて持ち歩き、僅かな時間でも、取り出して何度も読み返していた。
3月19日、私が、タクシーの車中で、ファイルを取り出して眺めていた時、一つの重要な事実に気付いた。
放映された「顔なし証言」の起こしの中に、
「全部が賞味期限だからゴミ箱の方に入れていたら、怒られて」
「パッケージに、一つひとつにラベルがあって、そこに製造日と賞味期限が書いてあるってことなので」
「それをもう一度パッケージをしなおすために裸にして欲しいんだって言われて」
という言葉があった。
それを見ていた時に、「これと同じような言葉を別の文書で見たことがある」というかすかな記憶が頭をかすめた。
同じ関連資料のファイルの中に、マスコミ等の問い合せに対する多くの対応メモが綴られていた。
その中に、問題の『朝ズバッ!』の放送の2日前の1月20日に、TBSのディレクターが不二家に事実確認の電話をかけてきた際の対応メモがあり、やり取りが記録されていた。
「平塚工場で働いていたという女性からの情報提供の事実確認」の欄に
(ア)賞味期限切れで返却されてきたチョコレートを再び溶かして使用していた
(イ)カントリーマアムについて。賞味期限が切れていたので捨てようとしたら上司に怒られ、それを再度新しいパッケージに入れて製品としていた
「答えた内容」の欄には
(ウ)工場で発生した成型不良品を溶かし直すことはあるが、返品は使っていない
(エ)カントリーマアムは平塚工場では未製造
と記載されている。
「カントリーマアム」というのは、チョコレート・チップが入った不二家の主力製品のクッキーのことだ。
メモは、機械的に電話の内容と対応を書きとめたものである。
検事として長く刑事事件の捜査に携わった経験からも極めて信憑性の高い証拠だと判断できる。
この事実確認の(イ)の文言と、放映された「顔なし証言」と比較すると、「捨てようとしていたら上司に怒られ」という部分が酷似している。
これは何を意味するのか。