TBSは反省することなく「郷原排除」を行った
虚偽報道への行政上の措置を含む規制強化の放送法改正というテレビ業界全体に関わる問題の国会審議で、参考人の私に証言映像の捏造疑惑を指摘されたことは、巨大メディア企業TBSにとっても、大きな打撃だったのであろう。
しかし、その後のTBSが行ったことは、不二家関連報道のコンプライアンス上の問題について反省し、是正措置をとることではなく、その問題を追及してきた私を、それ以降、全てのTBSの番組に出演させないという「郷原排除」だった。
当時、私は、桐蔭横浜大学コンプライアンス研究センター長であり、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)がベストセラーになったこともあり、企業コンプライアンスの専門家として、様々なメディアから取材を受け、テレビ出演の機会も多かった。
その中にはTBSからの依頼も含まれていた。
しかし、不二家問題以降、私には、TBSからの出演依頼は全くなくなった。
その2、3年後に、TBSラジオの番組に生出演したことが一回だけあった。
ところが、その後のツイッター情報によると、不二家問題での私とTBSの間の経緯を知らずに私を出演させたそのラジオ番組の責任者は、それが原因で番組の担当を外されたということだった。
不二家社員の思いが「ペコちゃんブランド」を守った
テレビ報道での「証言捏造」というのは、通常は、証言者側の証言や報道機関側の内部告発などがなければ明らかにならない。
TBS『朝ズバッ!』の捏造疑惑は、苦情・問合せへの一つの対応メモから明らかになったものだった。
不二家に対する激しいバッシング報道が行われる中で、不二家社内から社員がかき集められ、連日膨大な数の苦情・問合せ電話に丁寧に対応し、丁寧にメモを残し、応対の内容を正確に記載していた。
一人の女性社員が残していた正確な対応メモで、TBS側が事実確認の電話で告げた「証言者の言葉」と『朝ズバッ!』で放映された「証言者の言葉」が完全に一致していることがわかった。
そこから、私は、直観的に、『朝ズバッ!』での「証言捏造」を疑った。
その「直観」が働いたのは、直前まで「検事」であった私の長年の検察での捜査経験があったからであろう。
それは、巨大メディア企業TBSという「権力」と戦う武器になったことは間違いない。
しかし、そもそも、『朝ズバッ!』に関する調査を始めたのは、信頼回復対策会議の事務局の不二家社員が、
「この番組だけは許せないんです」
と私に訴えたことがきっかけだった。
そして、女性社員の丁寧な対応がなければ、私が「捏造の疑い」に気付くこともなかった。
さらに、平塚工場の従業員達が、週刊文春の取材に協力したことが、トップ記事の「文春砲」につながった。
そういう意味では、TBS『朝ズバッ!』の追及は、「ペコちゃんブランド」を守ろうとする不二家社員の思いが原動力になったものだった。
「大坂夏の陣の真田幸村」で終わった巨大メディアTBSとの闘い
残念ながら、証言のすり替え編集という捏造疑惑の追及による「巨大メディア企業TBSとの戦い」という面では、あと一歩及ばなかった。
大阪夏の陣で徳川家康本陣に向かって突撃し、後一歩のところまで迫りながら、家康を討つことは果たせなかった「真田幸村」のイメージだった。
しかし、メディアのバッシングの集中砲火を受けて存亡の危機に追い込まれていた不二家という企業の不祥事対応の面では、最も悪質な捏造報道を行っていたTBS『朝ズバッ!』に狙いを定めて反撃を行い、その一点を突破したことによってマスコミ包囲網を打ち破り、危機を脱することができた。
少なくとも、「社会の要請に応える」という私のコンプライアンス論に関しては、危機に瀕した企業を不当なバッシングから救うという「社会の要請に応えるGood Job」だったと自分なりに自負している。
そして、この経験は、「権力との戦い」に関しても、企業不祥事の危機対応という面でも、私の原点であり、その後の大きな糧になったことは間違いない。
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