「謝罪」か「広告」か不明な放送
公開質問状に対してTBS側からは何の回答もなかった。
一方で、TBSは、不二家から責任追及を受けないよう、不二家に擦り寄る方向に切り替えていったようだった。
そして、4月18日の『朝ズバッ!』で、「謝罪放送」まがいの放送が行われた。
1月22日の報道について、「出荷されたチョコレートが小売店から工場に戻る」という証言は、証言者が他人から聞いたことで、確証がなかったなどの点について、
「誤解を招きかねない表現があった」
とした上で「やらせ捏造」は否定し、みの氏は不二家の主力商品のミルキーを頬張りながら前日に販売を全面再開した不二家製品を宣伝した。
「スタジオのお菓子は全部不二家にしますから」とまで言った。
「期限切れチョコレートの返品を再利用した」という報道内容について、その事実があったのか無かったのかには触れず、証言テープの捏造の事実だけは否定したが肝心なことは何一つ明らかにされなかった。
しかし、この放送を受けて、不二家は、「TBSの謝罪を受け入れる」と、あっさり矛を収めてしまった。
大手菓子メーカーにとって、テレビ局の存在は重要だ。
大手テレビ局のTBSが、不二家製品を番組内で好意的に取り上げてくれると申し入れてきたことに、不二家としては乗らざるを得なかった。
しかし、このようなTBSのやり方は、公共の電波を使って、損害賠償請求をする可能性のある相手方に「無償広告」を行うことで賠償の代替措置をとろうというものであり、まさに「電波の私物化」だった。
私は、企業不祥事の報道の在り方にも関する重大な問題であり、放置すべきではないと考え、その後もコンプライアンスセンター長個人の立場で、TBS追及を続けた。
TBS側は、当事者間で解決してしまえば部外者の私が何を言おうと関係ないと考えたのであろう。
しかし、その後の展開はTBSの思惑どおりにはならなかった。
BPO放送倫理検証委員会初の審理案件
5月12日、民放とNHKで構成する第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」に「放送倫理検証委員会」が設置された。
関西テレビの『発掘!あるある大辞典2』の捏造問題をきっかけに、総務省が新たな行政処分を盛り込んだ放送法改正を国会に提出していたことなどを受け、放送業界の自浄能力を高め、放送に対する公的介入への防波堤とするために新設された委員会であった。
信頼回復対策会議の設置に先立って不二家の経営改革のために設置されていた「外部から不二家を変える改革委員会」委員長の田中一昭氏とともに、私は、個人の立場で、BPO検証委員会に『朝ズバッ!』の捏造疑惑について審理を要請する文書を提出した。
6月8日に審理入りが決定され、「放送倫理検証委員会」最初の審理案件となった。
6月20日、衆議院・決算行政監視委員会で放送のあり方が議題となり、広瀬道貞・民間放送連盟会長と私が参考人として呼ばれた。
野党議員の質問に、広瀬会長は、BPO放送倫理検証委員会では、捏造を疑われる報道があった場合に取材テープなどを提出させる権限を持っていると答弁した。
民放連会長が明言した以上、TBSも取材テープを提出しないわけにいかない。
それによって、「証言映像のすり替え編集」の事実が明らかになることは確実だと思った。